第5話 たこ焼き職人

現在の時刻は昼の12時30分頃。

俺は上機嫌で昼飯を作っていた。


その理由は昨日の夜まで遡る。

松浦まつうらに話を聞きながら夕飯のたこ焼きを食べて、眠るために解散し、俺と存在ナニカが2人きりになったときのこと。


存在ナニカが急に影から出てきて触手を俺の前へ差し出してきた。


そして、

【今日の分、お腹いっぱいぃ…】

と言って渡してきた札束、その金額はなんと258万円!

霊換算だと129体分の大きな収益だ。


もう長い間存在ナニカと共に近くの心霊スポットを周り、時にはいくつも梯子することもあったが流石に一度でこれだけ大きな利益は中々無く、テンションが上がって眠れない事態に陥った。

そんな俺の様子はかなりおかしかったらしく、朝起きてきた松浦まつうらにも何かあったのですかと聞かれるほどだった。


そんな事情があり、今の俺は並大抵のことは笑って許せると確信できるほど気分がとてもいい。


【ねぇねぇ、コレ入れよ?】


ピギィィィィィ!!


昼飯のたこ焼きを焼いている最中、存在ナニカが苦しそうな悲鳴をあげる霊を持ってきた。

その霊は触手がついてる蟹のような見た目で、タコっぽい要素はある……うん、四捨五入してそれはタコだ!


「わかりました、触手の部分使いたいので入れやすいように切ってください」

【りょうか〜い】


存在が切った実体が無いはずの触手はたこ焼きの生地の中へと沈んでいった。


【焦がしたら、許さないよぉ?】


事務所を開いてすぐのときは真面目に仕事する気もなかった。

そもそもこんな怪しい場所に来る人はおらず、殆どが暇な時間でその間ずっとたこ焼きを焼いていた俺はたこ焼き職人と名乗れる程の腕前。


失敗することは多分無い。


〜〜♪


「こんな時間に誰だ?」


この事務所を設立して以来、松浦まつうらからの連絡以外で私用のスマホが鳴る事は無かった。

そしてその松浦まつうらは今学校に居るはずなのだが…


名前を見ると松浦まつうらだった。


「もしもし、こんな時間にどうした?」

『はぁはぁ……

助けてください……』


息切れしているようで言葉が途切れ途切れで声は掠れていた。


「何があった?」

『えっと、昨日の、橋本はしもとさんなんですけど、幽霊が見えるようになったらしくて……』


昨日の出来事がきっかけで力を手に入れたか元あったのが目覚めたんだな。


『授業の合間に自分のところに来て廊下に連れ出されるんです。

えっと橋本はしもとさんはクラスの皆んなから人気で、男子達はもちろん女子の一部も殺意の視線を向けてきているんです』


なるほど、昼の休み時間は長いから逃げてるって事か。よかったな松浦まつうら、夢にまで見たラノベの主人公みたいじゃないか。


「そうか、やっと夢が叶ったんだな、よかったな」

『……いや、確かにラノベの主人公になってみたいとは言いましたけど、実際になってみるとヤバいです』


だろうな。


『それに『松浦まつうら、ここに居たの?』やべ!』


どうやら見つかったらしい、さらば松浦まつうら


『切らないでください神崎かんざきさん!

ほら橋本はしもとさん、神崎かんざきさんに繋がってるので相談したい事あるならどうぞ!』

『もしもし?』


松浦まつうらの慌てるような声が聞こえて、昨日聞いた声が聞こえる。


「水晶はちゃんと持っていますか?」

『…持ってる。

それより今日登校中に変なのを沢山見るようになっちゃったんだけど、これ治る?』


事故とかなら不可能だが、今回みたいな特殊な事情でなら原因を排除すればなんとかなる可能性が高い。

もちろん元から持っていた才能が覚醒したなら不可能だが……


「原因を排除すればなんとかなるとは思いますよ」

『お願いしてもいい?

というか今日の放課後に貴方のところに行くわ、聞きたいことがいくつかあるの』


【あの餌が来るの?!】


人のことを餌とか言うのはやめなさい。

存在ナニカが昼間にも関わらず、テンションが高くなって陰から飛び出して喜んでいる。


「別に構いません、学校の授業頑張ってくださいね」

『あぁ、今日はもう終わりだったわ。だから今から行くわね』

『え?』


困惑した松浦まつうらの声が聞こえたが、もしかしなくても授業終わってないのでは?


「授業はしっかり受けた方が──」

『今から行くわ。』

「……それはわかった。

少し松浦まつうらに変わってもらえ──」


プツ ツーツー


まだ喋っていたのに通話を切られた。

なんとなくだが松浦まつうらも一緒に連れてこられる気がするし、たこ焼き少し多めに焼いておくか。


【餌が来るぅ♪餌が来るぅ♪】


共に過ごしてきてトップ3に入るぐらいのテンションの高さ、それほど昨日の入れ食い状態が楽しかったんだろう。


【今夜はご馳走、その前の前菜が沢山食べれるのぉ!!】

「それはよかったですね」

【気分がいい、全部終わったらプレゼントあげるぅ!】


存在ナニカからのプレゼント、水晶は沢山もらったし別の物だと嬉しい。

水晶は身を守れるけど基本的に消耗品だし、継続して使える物があれば安心できる。


【いいよぉ〜、作ってあげるよぉ〜】

「……ありがとうございます」


最近俺の心を普通に読むようになった存在ナニカ、どこまで読まれているのかわからないのが怖い。

だけど存在ナニカに関することで俺に出来ることは何もなく、ただ流されるがままに受け入れていくしかない。


【そんなことなぃ。

貴方には感謝してる、少しずつだけど力を取り戻してるぅ】


……俺はなにか取り返しのつかない事をしているのかもしれない。


バン!


存在ナニカについて新しい事実が判明したところで事務所の扉が勢いよく開いた。

そこに居たのは部屋に入った瞬間倒れた松浦まつうらと髪が少しはねた橋本はしもとさんだった。


来るの速いな。


「……」


何も喋らず事務所内を見渡して最後に俺へと視線を向け、


「うぅっ……」

「!?!?」


涙を流し始めた。

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2024年12月12日 18:01

どうも心霊相談所の代表です まぁヤバイ存在に脅されて仕方なくやっているのですが…… ノツノノ @pannda1617491021

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