付喪神

@Yume-chan

付喪神


小さい時から、物を大切にしていた。別に何か特別な思い出があったからではない。只なんとなくそうしていただけだ。そんなちょっとした心がきっかけを作った。


これから話すのはアイツとのちょっと特別な思い出の話。


その日は、いつも以上に太陽が燦々と輝いている。それ以外はいつも通りの平凡で何も変わらないそんな日だった。学校終わりいつもの道を通り家へ帰った。恒例と化した動作でスマホを手に取り、動画サイトを楽しんでいる。そんなときだった。


「おい!そこのお前!お~い」


近くから"声"が聞こえてきた。最初は気のせいかなと思った。だが「お~い何とか言えよぉ」

明らかに近くで声がする。何かおかしいと思い辺りをキョロキョロと見舞わすが、何も異常はない。

「ここだよこーこ!」

声がしたのは、スマホからだった。

「やっと気付いたか…ケケッ」

「は?」

数秒?数分?下手したら数十分かも知れないそれほどの時間、口をあんぐり開けて、固まっていた。それぐらい非現実的であり得ないことだった。そう半透明の緑色のカエル?が宙に浮いていたのだ。

「なーに幽霊を見たみたいな顔してんだよぉケケッ」

「いやカエルだろ!それ以外何があるんだよ!」

勢いの余り突っ込んでしまったがよくよく考えるとスマホに推定カエル幽霊?らしきモノがいる?いやいやいや恐怖以外の何者でもない。

「あーえっとこんにちはこんばんは?」

慎重に言葉を言うがその時は、恐怖や衝撃、興奮など様々な感情が入り乱れ、馬鹿みたいなことを言ってしまった。

「おうよぉこんにちはケケッ」

「あのーえっと誰ですかね…」

「ケケケケッケケッ漸く名乗る時が来たなぁ」

奇妙な鳴き声?をあげながら、幽霊?らしきものは声高らかに叫んだ。

「そう俺はお前のスマホの付喪神だよぉケケッ」

「はてな?付喪神…?俺幻覚でもみてんのかな」

「おい、心の声漏れてるぞぉケケケェ」

「えっと付喪神ってなんスカね?」

 なんか変な口調になりながら謎の付喪神?について聞く。

「仕方ねぇなぁ…説明してあげるよぉ!付喪神とは長い年月を経た道具が妖怪になった姿それが付喪神だよぉ」

「おぉーなんか凄い。」

「そうだろうそうだろう凄いだろう」

「妖怪ってことはなんか出来るの?」

「…」

沈黙が流れる。

「なんも出来ねぇじゃん」

「ハァ?出来ますけどぉ?ケケケェ」

どうやら威嚇しているようだ。

「付喪"神"名乗ってるのになんも出来ないとは名前負けだなぁ!プププ」

「てめえええええええええ」

そんなこんなでギャーギャーとふたりで騒いでいるといつの間にか、日の光が隠れ、夜の帳が降りる時間となっていた。

「ぜぇーはぁ~ぜぇーはぁ」

「はぁ~~~」

「もうやめよっか」

「ケケケそうだなこれ以上は無意味だ」

そんなこんなで俺と付喪神?の初めての邂逅は終わりを告げた。


翌朝、何かの声が聞こえ目が覚める。

「お~い起きろ~朝だぞ~」

徐々に意識が覚醒する。目の前にはカエルの顔がドアップに映し出されている。

「はよ起きろやあああああああ」

耳元で叫ぶ付喪神に対抗しこちら側も叫ぶ

「うぎゃあああああああ」

思わず、悲鳴をあげてしまった。流石に朝っぱらから、カエルの顔ドアップはキツい。

「お前が起きないから悪いんだよぉケケッ」

「ちょっと~そんな大きな声出して~大丈夫~?」

お母さんに聞こえてたようだ。

「大丈夫~」

お母さんは安心したのか、声は返ってこない。対して幽霊の声には反応してないようだ。

まあ薄々察してはいたが、カエル幽霊?の声は聞こえてないな。いよいよ俺の幻覚説が濃厚になってきた。

「はぁ~最悪の目覚めだ…カエルなんかじゃなくて美少女幼馴染みに起こされたかった。」

「お前にそんなんはいないだろケケッw」

「心なしかwがついてるような気がするんだが」

「さぁなー」

そう言えばと不意に思った疑問を尋ねる

「そう言えばお前名前あるの?」

「物だからな強いていえばスマホだよぉ」

「なんか寂しいな…よし名前つけよう」

「おぉーまじかぁ?いいの名前つけてくれよぉ~」

うんうんと唸りながら悩むこと十分、名前を提案する。

「よしお前の名前はツクモだ!」

「なんか単純だなぁ」

「じゃあに"つがもほくすみま”にするか?」

「付喪神とスマホを合体してバラバラにしただけじゃねーかよぉ」

「じゃあゴッドスマーホ?カエルハカエール?」

「選択肢に碌なモンがない…ケケッ」

「おぉ、すまんすまん」

「ハァ…もうツクモでいいよ。」

やったぜ。名前が決まってから学校の準備をし、ツクモ(スマホ)を持って学校へ行く。

昼休み食事をしながら誰もいない場所でツクモと話す。

「やっぱり誰もお前の声が聞こえてないんだな。どういう原理なんだか」

ぴょんぴょんと跳ねているツクモに、疑問に思ってたことを聞く。

「まあなぁ…お前は俺の特別だからなケケッ」

「?」

そん時ははぐらかされたが、これがのちに繫がってくるとは、思いもしなかった。


それからツクモと俺は、いつも一緒だった。例えば学校のテストで詰まっている時、ツクモがスマホを操り?答えを教えてもらった。そん時は、妖怪っぽくないけど凄い能力じゃんと褒めた。ほめられた当の本人ツクモは「なんだァ?てめえ」とか言ってキレてたなぁ…他にもふたりで映画を見に行ったり、京都に旅行へ行ったり、山に遭難したり、あんときはやばかったなぁ…。

それから受験の季節になり、猛勉強をした。余りにも大変だったのでツクモに助けを求めたが

「いや努力しろよ」

という有難い御言葉を戴いたよ…💢。そんなこんながあって見事第一志望の大学に合格した。ツクモも「やったじゃねーかケケッ」なんて言って祝ってくれた。





────────────────────






とても悲しいことだが人にも物にも寿命という概念はある。俺がツクモの寿命を察し始めたのは、大学生に入学し、一ヶ月がたった頃だったこと、最近ツクモの調子が悪い。具体的に言うと話かけても返事がワンテンポ遅い。いつもボーッとしている…これは流石におかしいと思いツクモを問いただした。

「なぁツクモ最近どうしちゃったんだ?」

ツクモは、俯きながら答える。

「もう長くないみたいだなケケッ」

どういうことだ?心臓がドクドクと脈動する

今にも死にそうな雰囲気のツクモが言う

「寿命ってのはなぁ誰にでもあるんだよ…勿論俺みてえな妖怪にもな…」

沈黙がその場を支配する。なんで言ってくれなかったのか、何か出来ることはないのか…そんな思いが脳を埋める。

「そうか…何か出来ることはないか?」

「出来ることはねぇよ死っていうのは必ずくるもんさケケッ」

悲しそうに言うツクモの声色はまるで死神が思わず迎えにくるぐらい憔悴していた。

「そっか…じゃあさこれからもっと楽しいことしよう?」

「どういうことだ?」

「最後に思いっきり遊んで楽しい思い出を残そうぜ」

今までで一番の笑顔をツクモに向ける。ツクモも釣られて笑ってくれた見たいだ

「ケケッそうだなやっぱりお前はいい奴だ」

「悪いな湿っぽくなっちまって」

「大丈夫。問題なしだ」

「ケケッそうか俺も湿っぽいのは嫌いだからな、これからいっぱい楽しむとするか」

それからツクモと俺は、思いっきり遊んだ。

海へ行ったり、川へ行って水遊びをしたり、飯屋に行ったら、ツクモがご飯の栄養?だけ食べられるという、衝撃の事実が発覚したり、悲しさを感じさせないように、なるべく明るく過ごした。ツクモも活気が戻り、元気になった。それでも、死という絶望からは逃れられなかった。次第に認知症のような症状が多くなり、遂に最後の日がやってきた。


「なぁ近くの丘にいかないか?」

珍しく、ツクモが誘ってきた。なんとなく行かなければならないような気がして、ツクモと出かける。午後6時の丘は、夜と夕方の間で美しく輝いて見えた。暫く無言が続く…



「ありがとな」

「別にいいさ親友のためだ」

「初めて会った時、お前バカ見たいなこと言ってたよなぁケケッ」

「当たり前だろスマホが喋りだすなんて信じられなかったからな…まあ今ではすっかり染まってしまったがな」

「テストの時は何回もカンニングしたよなぁ…」

「バレてないからセーフだ」

「ケケッバレなきゃ犯罪じゃないってやつだなケケッ」

「俺さ、お前の物を大切にする心から生まれたンだ」


「嬉しかったよこんなに大切にして貰えるなんてさぁ」


「だからさぁ…これからもその心は大切にな」



「後悔はないのか…?」

「へッ!んなモンねぇよお前なら俺がいなくてもお前は大丈夫だ。それにお前は俺の特別だからなケケッ」

「そうか…」

「じゃあなありがとう楽しかったぜ」

「俺も楽しかったよありがとう。」

「ケケッ」







────────────────────






あれから随分時間が経った。結局あれは俺がみた単なる幻覚だったのか、それとも現実だったのかは分からない。スマホもアイツが消えてから壊れてしまった。だがどうしても捨てることが出来ず御守り代わりとして持っている。社会人になった今でも簡単にアイツとの大切な記憶を思い出すことが出来る。少しスマホに目を向ければアイツが喋り掛けてくれるのではないか、そんな淡い期待が湧き上がっては、消えていく。

「湿っぽいなぁ…ケケッ」

ツクモとの思い出が脳内を巡る。

「そうだな少し湿っぽ過ぎたな」

前を歩く。少し涙が出てる気がするか気にしない。今日はいつも以上に太陽が燦々と輝いていた。











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