この世界のルール

夜桜陽炎

完結

 世界は魔王によって半分以上を支配されており人類は魔王軍との争いに各国が協定を結んで対抗している。そんな時に伝説の勇者の剣を抜いた若者がいた。彼は田舎出身である。特殊な血筋もない農家の息子。そんな息子がある日に、


「女神様の声が聞こえた。俺は勇者として魔王を討つ!!」


 そう言った息子に両親は決して裕福ではないにも関わらずに大量の金貨を持たせて勇者の剣のある都へと送り出すのであった。そうして都へと着くと勇者の剣を引き抜き、


「俺が魔王を討つ!! そして、この世界に平和をもたらす!!」


 高らかに宣言をする。都はお祭り騒ぎとなった。なぜらな勇者の剣は3000年も引き抜かれる事がなかったのだから。そんな剣を引き抜いた彼を各国は支援する事を約束した。勇者と認められた若者は女神様の信託を受けたが受ける前はただの農人だ。そんな彼を魔王を討伐出来るだけの基礎を身につけさせるために軍事大国へと送られた。そこで彼はグングンと実力を伸ばした。女神様からの信託を受け、勇者の剣を引き抜いだけあって才能の塊であった。


「お世話になりました。皆様との時間は有意義なものでした。絶対に魔王を討ってみせます!!」


 5年の訓練を終えて勇者はいよいよ魔王討伐の旅に出るのであった。魔王までの道のりは楽ではない。魔王配下の魔物たちが勇者の命を狙って襲いかかる。しかし、その全てを勇者は返り討ちにするのであった。その中には四天王と呼ばれる普通の魔物よりも強い魔物が存在した。その魔物たちは勇者を殺すために4対1の勝負を仕掛けて来た。ただでさえ普通の魔物よりも強いというの数の暴力を使ってくる四天王に勇者は死ぬ一歩手前まで追い込まれた。それでも勇者は勝利を納めた。それでも左腕を失うという代償を拾うのであったが。そんな勇者はこのままでも不味いと思い仲間を集める事にした。魔王のいる城の最も近くにある村にて、


「共に魔王城を目指す者はいないか? 俺は絶対に魔王を討つ!! その瞬間を1番近くで見届けたい者はいないのか!!」


 この言葉を信じる者はいなかった。彼は確かに3000年も引き抜けなかった剣を引き抜いた勇者であるが既に左腕を失っている。そんな彼に期待をする者はいなかった。ただ1人を除いて、


「一緒にいてやる。この最前線で1番強いオレが協力するんだ。絶対に魔王を討て」


 村で1番の実力者の刀使いが協力を得ることに成功した。2人の道中は四天王を勇者が討伐済みだけであってすんなり魔王城に到達するのであった。


「アンタが今代の勇者か」

「そうだ! そしてお前を討つ者だ!」

 

 戦闘が始まる。魔王というだけあって強い。という強いなんてものではなかった。魔法の威力がバカげている。喰らえば即死のうえにそれを次々に放ってくる。2人はそれを回避するがそれは長くは続かないだろうと判断して一時離脱する。


「3000年もの間頂点としてこの世界の大部分を支配してるだけあって強いね」

「だからと言って諦める訳にはいかねぇだろ。何よりオレに見せるんだろ? 魔王討伐の瞬間を」

「もちろん! だけど近づかない事には話にならないんだよね」

「だったら話は簡単だ。オレがオトリになって魔王の魔法を1発喰らえばいい。その隙をつけ」

「いけのかい? あれは1発でも喰らえば即死するよ?」

「直撃だったらだろ? ちゃんと刀で受けるし威力を分散するように逸らしもする。死にはしねぇ。だが1発だけだ。つまり、チャンスは一回だ。逃すなよ」


 覚悟を決めて2人は再び魔王の前に立つ。そこには、


「待っていたぞ」


 とてつもない魔力の塊を作っている魔王がいた。


「お前らが作戦会議をしている間に何もしない訳がないだろ?」


 そう言って無慈悲な一撃が2人を襲う。それを刀使いは1人で受ける。


(あいつは魔王を討つと言ったんだ!! オレぐらいはそれを信じてこの攻撃を受け止める!!)


 大爆発によって城が半壊する。


「嘘でしょ」


 魔王は驚愕する。刀は砕けて片目は潰れてるが生きている刀使いは生きているのだ。そして、驚愕する魔王の背後に勇者はいた。刀使いを信じた勇者は勝ちを確信した。


「くっ!?」


 魔王は魔力によって剣を作り出して迎撃しようとする。魔王の防御が間に合うかに思えたが不自然に魔王の剣が止まり勇者の剣が魔王の心臓を貫くのであった。


「やったな!!」


 刀使いが嬉しそうに駆け寄る。しかし、勇者は怪訝な表情をする。


(何でだ? 何でありがとうなんて言ったんだ?)


 心臓を貫かれて絶命する前に魔王は、


「ありがとう」


 と静かに言った。それに疑問を持つ勇者。そんな勇者を魔王の体から解き放たれた黒い霧が襲う。


「な、何だ!? おい!! 大丈夫か!?」


 心配する刀使い。その言葉に反応するように勇者は立ち上がる。そして、


「は??」


 剣で刀使いは切られる。完全な不意打ちに反応出来ずに倒れる。


「な、何してんだよ。お前は勇者だ、、ろうが」


 血を吐き勇者に語りかけるが全く答えてくれない。それどころかトドメを刺そうとしてくる。心臓目掛けて剣を突き刺そうとする勇者に、


「お待ちなさい」


 柔らかな女性の声により勇者は止まる。


「この方は魔王討伐に貢献したのです。死ぬのならしっかりと理由を知りたいでしょうから」


 現れたのは純白のドレスのような服を着た真っ白な肌で真っ白な髪の美女。


「初めまして。わたくしがこの世界を創造した女神です」

「め、女神様?」

「はい。女神様です。貴方には魔王を討伐に貢献した報酬でこの世界のルールをお教えします」


 そこで女神は冥土の土産とばかりに優しく語りかける。


「今から10000年前にこの世界は戦争で明け暮れていました。醜い争いです。領土、資源などが欲しいなんていう欲に塗れた理由です。このままではわたくしが創造した完璧な生命体が滅びる。何より完璧な生命体にふさわしくないと思ったのです。そこでわたくしは考えたのです。人類が戦争をする余裕がないほどの脅威を用意すれば人類は協力するだろうと」

「つ、つまり魔王ってのはあ、あなた様が創ったのですか?」

「そうです。最初の魔王には国を10個ほど消して貰いました。これにより人類は共通の敵を認識して争いをやめたのです」


 淡々と恐ろしい事実を述べる女神様。


「しかし、問題が起きました。魔王が強すぎたのです。誰も勝てず人類は絶望してしまい生きる気力を失ってしまったのです。そこでわたくしは勇者の剣を創りだしたのです」


 勇者の剣を指差す女神様。


「そして武力に長けて才能のある者にわたくしの言葉を届けるのです。剣を引き抜け勇者を倒すのです、と」


 これは歴代の勇者たちが魔王を倒すまでの過程だ。


「そして初代勇者は魔王を討伐したのです。これが3000年前の出来事です。しかし、このまま平和になる事はないのです。また戦争が起ころうとしたので勇者を魔王としたのです。このようにね」

「そ、そんな」

「実は魔王は何度も討伐されているのですよ。勇者によってね。ただし、魔王を討伐した勇者は誰も彼も帰らずに魔王となっているんです。これがこの世界のルールです」


 まさかの真実に絶望して涙を流す刀使い。


「そ、そいつは魔王になるために生まれたのですか?」

「結果としてはそうです。ですが必ずしも勇者が魔王を討伐してる訳ではありません。負けることだってあります。ですから彼が魔王となったのは彼の努力です。これは素晴らしいことです。これこそがわたくしが求める人類です」


 途中から涙を流して力説する女神様。涙を拭き取り、


「さて、貴方にはここで死んで貰い魔王の右腕となってもらいましょう」

「や、やめろ。やめてくれ」

「大丈夫です。恐れないでください。痛みを感じることなく生まれ変わりますから」


 ふわりと優しく抱きしめられる。女神様は人と同じような体温であった。女性らしい柔らかな感触。普通なら美女からのハグに嬉しくなるのだが、


「ひっ、ひっ、ひぃ」


 恐怖する。しかし、刀使いの体は美女からのハグによる興奮と死を前にして本能が子孫を残そうと勃起していた。


「安らかな死を貴方に与えましょう」


 その言葉と共に温かな光が2人を優しく包むと刀使いは絶命するのであった。そんな刀使いから離れると女神様は、


「この者に貴方の力を与えて右腕として人類に恐怖を与えなさい」


 命令を下して女神様は消えるのであった。その後、新たな魔王は右腕の刀使いと共に人類に恐怖を与えるのであった。人類は対抗して各国は協力しているが歯がたたなかった。そんな中、


「私が魔王を討伐してみせましょう」


 1人の女性が女神の言葉を受けて勇者として旅に出るのであった。この女性はこの世界のルールに則り魔王を討伐し新たな魔王となるのか? それとも魔王に敗北するのか? これは女神様にもわからない。

 

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