ビキニアーマーな彼女の秘密

朽木貴士

ビキニアーマーな彼女の秘密


 ビキニアーマーというモノをご存知だろうか?

 主にRPGなどで女戦士がよく身に着けている鎧のことだ。そんな紙装甲でよく戦えるな! といつも思っていたものだ。

 あの頃は、


――まぁ大人の事情おいろけようそだろうな


 と思っていた。

 しかし今こうして、実際に異世界に転移して俺は知ったんだ。

 驚愕の事実を!!!




◇◇◇




「ミナさん。そういえば思ったんですけど、なんでそんな水着みたいな鎧着てるんですか? もっと全身を守れる鎧を装備すれば良いのに。ミナさん筋力あるし、普通に着れますよね? スピード優先ってことですか? それだったら普通の服を下に着れば良くないですか?」

「あ~? なんだ、お前知らねぇのか。こいつは殴るとか斬るとかの直接攻撃から身を守るための装備じゃねぇんだよ」 


 俺の質問に答えた女性の名は、ヘルミーナ・エーベルバッハ。異世界に来たばかりで右も左も分からず、完全にお上りさん丸出しだった俺のことを拾ってくれた大恩ある冒険者パーティーのリーダーである、姐御肌で男勝りな女戦士。他の皆がミナって呼んでるから、俺もそれにならって呼ぶことにしている。

 そう、この人は冒険者パーティーのリーダー。しかも超強い。こんなネタかコスプレとしか思えない鎧を着てるのに、誰もが認める実力者なのだ。


「へっ、そうなんですか? 鎧とは一体……」


 思わず哲学的な思考になる。

 だが、それも仕方ないだろう。だって鎧というのは、身を守るためのもの。そうでないなら、もはや鎧ではないだろう。


「あいっかわらずこまけぇこと気にするヤツだなぁ~、お前は!」


 俺の頭を、ガシガシと乱暴に撫でくりまわすミナさん。


「ま、んじゃあ見せてやりますかね。こいつの真の力ってヤツをな! 行くぞ。ヤロウ共!!!」

『おー!!』


 ミナさんの号令に気合たっぷりに応える皆。

 

「やった……。いけた……」


 内心でヨシッ! とガッツポーズ。ちなみに俺達パーティーは現在4人編成なのだが、これがまたバランスが悪いのなんの。

 なんたって、


女戦士 ミナ(リーダー)

男武道家 ラカン

女魔法使い シシリー

雑用 俺

 

 パーティー編成これだぜ? 回復系の能力を使える人が一切居ないのだ。しょうがないから、いつも回復薬を大量に持ち運ぶようにしてるけど……ミナさんが頑なに回復使いを入れようとしないのだ。俺が何度進めても首を縦に振らなかった。

 ラカンとシシリーに聞いても「諦めろ」の一点張り。何か事情があるのかと思って事情を聞いても「ミナが自分から言うまで待て」と来たもんだ。

 そこで思い切って今日、雑談のていで行けばワンチャン!? とダメもとで聞いてみた所、成功したという次第なのだ。


 え、日本からの異世界転移者なのに戦わないの?


 ふっ……ふふふ。戦える訳ねぇだるォッ!? だって俺、神様と会ってチート貰いました~。わーい! みたいな展開なかったしィッ!? 一週間分くらいの食料買い溜めして、両手にレジ袋いっぱいジャージマン状態でひぃこら家に帰ってたら、なんかいきなり森の中に居てゴブリンに襲われたんだぜ!? っざっけんなっつーの!!!

 あの時たまたまミナさん達が通りかかって助けてくれたから良かったけど、普通に死んでたよ。んで、その後街まで護衛してもらって一旦別れた訳だが、その後オタク知識頼りに冒険者ギルドへ行ったら、そこでバッタリ再会。

 

 そこでお礼をさせてくださいって頭下げたんだけど、ミナさん達は大したことはしてないからって遠慮してきた。それでも、俺にとってミナさん達は命の恩人。だから嫌われる覚悟でしつこく食い下がろうとしたら、ちょうどミナさん達の腹の虫が鳴ったのだ。そこで思いついた俺は、


「俺料理自信あるんですよ!! 食べてください! もし口に合わなかったら、斬ってくれても構いません!」


 内心でちょっと後悔しつつもこう言って、お礼の約束を取り付けた。

 そしてミナさんの家の厨房を借りて、俺が地球からそのまんま持ち込んできてしまった大量の日本製食材やら調味料やらをふんだんに使って料理を振舞った結果、無事気に入られて現在に至るということだ。

 まぁ要は、俺はこのパーティーのコックということである。まぁそれだけでなく荷物持ちと素材回収係も兼任している訳だけど。

 ちなみにミナさんの顔面はフルフェイスの兜で隠れているため、未だ素顔を見たことがない。でも凄いボンキュッボンなドエロイ身体つきをしている。

 手なんて出そうもんなら、瞬く間に八つ裂きにされちゃうだろうから何もしないし言わないけど。でも……死ぬ! って思った所を寸前で助けられて、優しく「大丈夫かい? 坊や」なんて手を差し出されたあの時から、俺はずっとミナさんに惚れているのだ。

 



◇◇◇




「ここって……」


 ずんずん進むミナさん達にひぃこら言いながらやってきた場所。

 そこは、洞窟の中だった。明らかに竜だと分かるくらいハッキリと原形を留めている骨が、壁やら土やらにいっぱい埋まっている古くからある地下洞窟ダンジョン。人呼んで、


「あぁ、竜骨宮だ。絶対にあたし達から離れるんじゃないよ? 本来、お前にはまだ早いからねぇ」


 そう。竜骨宮。

 冒険者ギルドで定められていた攻略難度は、確か……Sランク。最高難易度のダンジョンだ。


「は、はい!!」


 正直凄く怖い。さっきまでは全然自覚してなかったからどうってことなかったけど、Sランクダンジョンの竜骨宮だと思ってみると、超怖い。

 けどミナさんに情けない姿は極力見せたくない。気合だ俺。気合! 頑張れ!


「あっはっは! そんな怯えなくて良いさ。少なくとも、あたしの近くに居れば、必ずあたしが守ってやる。……それに、こいつらもお前の料理の虜だ。もしもの時は必死こいて守るさ」


 あらやだイケメン。きゅんと来ちゃった。

 あっるぇぇぇぇ~~? 可笑しいですねぇ。こういうのって普通、可愛い女の子をヒーローの俺が頑張って守るぜ!! ってなるんじゃないのん? なんで俺イケメン女戦士しかもビキニアーマーに護衛されてるのん? 可笑しいでよ……。

 凄く情けない事この上ないが、実際俺に出来ることはない。より美味しい食事をとってもらうために、日々この世界の食材を使って研究している所だ。

 その成果でもって恩を返すより他にはあるまい。


 俺も強くなりたくて、少しでも力になりたくて頑張ってはいるんですけどねぇ。魔力が一切ないから魔法は絶対使えないって言われちゃったし、剣とかも全然成長しない。そりゃ少しは成長したけど、ミナさん達の役に立てるレベルには到底及ばない。だから俺に出来るのは、日々の仕事と料理だけなのだ。

 それだけが、俺の存在価値。この仕事だけは、絶対に誰にも譲らない。この仕事を失えば、ミナさんとの繋がりがなくなってしまうかもしれないからな。


――GURURURAAAAA!!!!


「早速お出ましだね!!! ヤロウ共! 準備は良いね!」

『おう!』 


 現れた魔物、それは腐食竜ドラゴンゾンビ

 身体の肉は溶けてドロドロと流動しており、眼球も片方は落ちかけて、口裂け女のように奥歯の歯茎まで全てが見えている。内臓の大半が露出し、骨もチラチラと見える。そんなグロテスクな魔物。

 こいつの吐息は猛毒で、まともに浴びれば即死するとまで言われている。また肉体のドロドロは酸性を帯びており、不用意に触れればあっという間に溶かされてしまう。実際、この洞窟に植物などが一切自生していないのは、こいつが原因だ。

 こいつの身体から流れ落ちる腐ったドロドロのせいで、土が死んでしまっているのだ。ここに住んでいた今は骨となってしまった他の竜も、そのせいで食べるものがなくて死んだのでは? というのが通説だ。

 何故こんな魔物が誕生したのか、という所までは研究が進んでいないようだが、ともかくこの腐食竜ドラゴンゾンビはヤバい魔物であることだけは確かだ。


「ほ、ホントに大丈夫なんですかっ!?」


 当然俺は叫んだ。流石に危な過ぎると思って。

 しかし、


「なぁに、心配するなって。お前のことはあたし達が絶対に守ってやる」


 ミナさんはそう言って不敵に笑った。

 他の皆も、全く心配などしていないといった顔つきだ。

 もしかしてミナさん達は、俺が知らなかっただけで腐食竜ドラゴンゾンビも余裕で倒せるほど強いのか? それこそ、攻撃を食らわないノーダメで倒せるくらいに。


 そんなことを思いながら、俺は心配ながらも戦況を岩の影に隠れて見守った。

 俺に今出来ることは、とにかく敵に見つからないこと。俺が見つかれば、容易く殺せるエサだと思われて真っ先に狙われる。そうすればミナさん達は俺を守るために動かなくちゃならなくなる。既に戦場ではお荷物なのに、更に足を引っ張るのは嫌だった。


「っ―――!! ミナさん!!! 皆!?」


 しかしそんな俺の思いとは裏腹に、ミナさん達は避けることすらせずに容易く腐食竜ドラゴンゾンビの攻撃をまともに食らった。


「そ、そんな……なんで、なんでっ!?」

 

 ミナさん達が死んでしまった。

 俺の視界は、真っ暗になるようだった。

 



「なぁに勝手に殺してくれちゃってるのさ!!」




 ……幻聴か? あぁ、幻聴だろう。

 だってミナさん達は、あの腐食竜ドラゴンゾンビの攻撃をまともに食らった。万物を溶かす酸とまで言われる、あのドロドロの中に囚われてしまった。

 生きている筈が無い。

 そんな風に考えて絶望して、四つん這いになって地面をただ見つめていると、


「あたしはここに居る! 他の奴らもな」


 ミナさんが現れて俺の顔を強引に持ちあげた。


「み、ミナ……さん? ほ、ホントに? ホントに生きてるんですかっ!?」

「あぁ生きてるよ」


 重なり合った手から、ミナさんの体温が伝わってくる。他の皆も、特に外傷はないように見える。思わず俺は自分の頬を抓った。


「い、痛い……。ほ、ホントに生きてるっ!! 夢じゃない! っよ゛がっだ~~~!!! どう゛じでよ゛げな゛い゛ん゛でずが~~~~!!?」


 涙をボロボロ零しながら、俺はミナさんの両肩を掴んでがくがく揺すった。


「わ、悪かったよ……。装備の効果を実戦で見せてやろうと思ってさ~。そりゃ事情を知らなきゃ心配だよな……。わりぃ、ちょっと感覚可笑しくなってたわ」


 気まずげにフルフェイスの兜で隠された顔を逸らして、後頭部を手でポリポリと掻くミナさん。そんなことしても鉄を擦るだけなのに。


「うぅ……装備の効果って、どういうことですか」

「ゔっ! そ、そんな目で見るなよ~! はぁ~~~、その……なんだ。後で装備のステータス見せてやるから、ちょっと待っててくれ。パパッと片付けてくっから」

「ホントに今度こそ大丈夫なんですか!?」

「あぁ、もうあんなノロマの攻撃なんか食らわねぇよ」


 そう言うと、ミナさんは消えてしまった。

 まるで残像だったかのように。一瞬遅れてズドンッという衝撃音のようなものが聞こえて、そちらを見てみる。

 するとそこには、腐食竜ドラゴンゾンビとミナさんが居た。

 そしてミナさんの手が一瞬ブレたかと思うと、もう腐食竜ドラゴンゾンビはコマ切れになって死んでいた。


「あ、あれ!? さ、さっきまでここに居たのに!」


 俺の居る場所から、腐食竜ドラゴンゾンビの場所まではかなり離れている。一体何が起きて……?


「アレが、ミナの本当の実力さ。普段はかなり力を抑えてるんだよ。俺らや周囲に合わせて。バケモンだって言われないようにな」

「ラカンさん……。それって、どういう」

「……昔ね、ミナはひとりぼっちだった。あまりにも強すぎるから。どうしてそんなに強いのかは、ミナ自身も含めて知らないの。でも、とにかく強すぎた。そのせいで、周りからバケモノだとか魔王の生まれ変わりだとか言われて、恐れられてた」


 ミナさんが……そんな過去を?


「でっ、でも……だってミナさん。あんなに明るいじゃないですか! それに街の人達からも凄い人気だし!!」

「そんな過去があったからこそ、だ。あいつは自分の力の大半を自ら封じ込めて、周りの奴らよりちょっと強い程度に抑えた。そして性格も昔とガラリと変えて常に自分を偽るようになった」

「そして人間社会の中で生きていけるように、あんな鎧を着るようになったの。最初は何の力もない、ただのビキニアーマー。女の武器ってやつよ。ミナは男から人気になりやすい身体つきをしてるから」

「あんな兜でいつも顔を隠してるのは、身バレしないためだ。諸事情があってビキニアーマー以外は装備できねぇからな。あの兜、あぁ見えて防御性能は全くねぇんだ。ただの見せかけ」


 ミナさんのあの性格が、偽りのもの? だったら……俺は。


「俺達と過ごしてる時の性格も、作ったものなんですか……? 全部、全部偽りのものだったんですか!?」

「それは、あいつ自身もよく分かってねぇんだろうな。もう長い事偽り過ぎて、何が本当の自分なのか、分からなくなってるのかもしれねぇ」

「喋り方とかは作ってたとしても、想いは本物の筈よ。少なくとも貴方に向ける言葉は間違いなく本物。だってそうでしょ? 貴方の前じゃいつだって笑顔じゃない。アレが作り笑いだとは思えないわね」

「そう……ですか」


 少し、心が軽くなる。


「はぁ……お前ら、好き勝手に他人ひとの過去ぶちまけやがって。この鎧の性能はともかく、過去なんざ生涯言うつもり無かったのによ」


 また後頭部を掻きながら、ミナさんが戻ってきた。


「俺は、知れて良かったです。ミナさんの過去」

「面白いもんじゃねぇだろうが。それに、あたしのこの口調だって」

「そんなことどうだって良いんです! 口調なんて関係ない。ミナさんが本心で接してくれているなら、それだけで満足です。例え顔が見えなくたって、秘密があったって、どれだけ強くたって! それこそ本当に魔王の生まれ変わりだったって! ミナさんは俺にとって、たった一人の大好きな人です!!」

「なっ……。はぁ!? お、おいお前本気で言って……?」


 ミナさんが戸惑って、少し後退あとずさる。

 俺も勢いに任せてとんでもないことを言ってしまったのでは? と今になって気付くが、ここまで来たらもう退けない。このまま押し切る!!!


「本気も本気、超本気ですよ! ミナさん以外考えられません!! ミナさんが俺じゃ嫌だって言うなら、俺は生涯独身を貫きます!!」

「なんだそのよく分かんねぇ脅しは! 脅し? 脅しなのかそれは。はぁ~。お前がそこまで言うなら、そろそろこいつも卒業かねぇ。冒険者稼業も、引退だね」

「えっ? どうして、そうなるんですか?」

「こいつの恩恵を得るための誓約なんだよ。……ほら」 


 そう言うと、ミナさんは装備のステータス画面を開き、能力の詳細を見せてくれた。


====================

『|純潔の誓鎧《ヴァージン・ゲッシュアーマー)』


恩恵:『状態異常完全無効・全体化』…パーティーメンバー全員に状態異常完全無効化能力を付与する

恩恵:『ファイナルサバイブ・全体化』…パーティーメンバー全員にどんな強力な攻撃を受けても瀕死で生き残ることが出来る能力を付与する

恩恵:『チェインサバイブ・全体化』…パーティーメンバー全員にどれだけ連撃されても瀕死で生き残ることが出来る能力を付与する


誓約:生涯ビキニアーマー系以外の防具を装備出来ない

誓約:常に肌の大半を露出していなければならない(隠せば鎧は壊れる)

誓約:生涯処女を貫かなくてはならない(喪失すれば二度とビキニアーマーを身に着けることが出来なくなる)

誓約:パーティーの誰かが回復能力を使える場合、装備の誓約はそのままに恩恵の一切が無効化される

誓約:戦闘中1度だけしか回復を行ってはならない

誓約:回復魔法を使用した場合、一発で全MPを消費する。これはMPがどれだけ増えようとも変わることはない

====================


「ええぇェェェッっ!? え、つよっ! つよおっ!?」


 でも、そうか。だからまともに攻撃を食らっても全然平気だったんだ。完全にお荷物な俺を連れてこれたのもパーティー全体に守りが働くから、ってことだったのか。


「あれ……? でも、瀕死でって書いてありますけど……ミナさんも、ラカンさんも、シシリーさんも、全然ダメージ食らってませんでしたよね?」

「ん? あぁ、それは単に即回復したからだ。戦闘中一回は回復出来るからな」

「あぁ、そういう……ってえ!! 一回瀕死にはなったってことじゃないですか!! やめてくださいよ!!」

「わ、悪かったって……即回復すりゃ死なねぇからまぁいいやって思ってさぁ」

「は・ん・せ・い!! してください!!! 普通瀕死になんかなっちゃいけないんですよ!!? 分かってます!? 瀕死ですよ瀕死!!」

「だ、だから謝ってるじゃねぇか~、許してくれよぉ。な? もうやらねぇって」

「……ホントですね? 全く。それで、俺と付き合ったら冒険者辞めなきゃいけないっていうのは、どういうことなんですか?」


 俺がそう聞くと、ミナさんは能力詳細の誓約の方を指差した。


「……こいつ、読んでみ?」

「え? えーと……生涯処女を貫かなくてはならない(喪失すれば二度とビキニアーマーを身に着けることが出来なくなる)……。ん? ってことはえーと」


 ミナさんは生涯ビキニアーマー系以外の防具を装備出来ないっていう誓約もある訳だから……。


「二度と、防具を身に着けられない!?」

「そ。だからあたしは、好きな奴が現れちまったら冒険者は引退するって決めてたんだ。あたしも、お前のことは嫌いじゃねぇし……つーか、多分好きなんだと思うし、お前がどうしてもって言うなら、あたしは冒険者引退だ。まぁあたしは別に防具なんか何もなくたって魔物なんか余裕でボコせるけど、それじゃあの頃に逆戻りだからな。装備のおかげ! って言い訳出来なくなった時点で戦っちゃいけねぇんだよあたしは」


 その言葉を聞いて、俺は決心した。


「なら!!! 俺が世界を変えてみせます!! ミナさんがバケモノだって言われない世の中にしてみせます!! だから、俺と結婚してください!!」

「……ホント、馬鹿だなお前。……あたしなんかの為に。まだ顔だって見てねぇっつーのに」

「関係ありませんから。俺はミナさんの容姿じゃなくて、内面に惚れてるんです! 口調がどうあれ本心で接してくれてたなら、俺の惚れたミナさんがここに居るってことに変わりはありません!」


 俺が溢れる喜びのまま緩みきった顔でそう言うと、


「……たはぁ~、ホント参ったぜ。お前、あたしと性別逆だろ……。なんで男のお前にあたしは可愛いとか思ってんだ可笑しいだろ」


 ミナさんは項垂れながら顔を背けて手で抑えた。

 それは、俺もミナさん達に初めて会った時からずっと思っていることだ。けれどそんなミナさんに惚れてしまったのだから仕方ない。


「っおし!! そうと決まったら、いつまでもこんなん被ってらんねぇ!!」


 そう言うや否や、ミナさんは兜を豪快に脱ぎ捨てて放り投げた。

 まず視界に入ったのは、燃え盛る炎のような赤髪。髪型はボサボサだが、艶やかで光沢を放っている。

 ルビーのような透き通る赤い瞳。筋の通った高い鼻。薄ピンク色で水気のある、プルンとした唇。褐色に焼けた身体と違い、兜の中にいつも秘められていた首から上は健康的な白い肌だった。


「……キレイ」


 呆然と呟く。

 

「~~~っ! とりあえず、これあたしの気持ちな!!」


 俺が漏らした言葉に顔を茹でだこのように赤くすると、ミナさんは乱暴に俺の唇を奪った。


 こうして俺は、ミナさんと結婚したのだった。



END












アフター小話


「とりあえず、これからは兜をかぶらないで生活しないとですね。今こうして冷静になって改めて全体像を見ると、首を境目にまるっきり色が違うの、違和感ありまくりなので」

「わ、分かってんよ……それよっかさ!」

「はい。今日は豪勢に行っちゃいましょう! 節約のためにセーブしてましたけど、今日くらいは良いでしょう」


 この後、皆でめちゃくちゃ飯食った。

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