第22話 路線変更と少しの勇気

ミュンヘン中央駅の煌々とした灯りの中、健太郎はアムステルダム行きの夜行列車に乗るつもりで、トーマスクック時刻表を眺めていた。しかし、ゆうきは心の中でひそかに計画を練り、ある決意を固めていた。


(夜行はもうこりごり!今日はフュッセンに行くんだから!)


そう思った瞬間、ゆうきは健太郎の自動運転を制して強引に路線を変更させ、ゆうきはフュッセン方面に向かう列車に飛び乗った。健太郎は怪訝そうな顔をしていたが、車両が動き出すと、行き先が決まったことに諦めたようだった。


ミュンヘンからフュッセン…そこからさらにノイシュバンシュタイン城の最寄りの街に行くには、何度か乗り換えが必要だったため、目的地に着いた頃には、街はもうすっかり暗闇に包まれ、観光案内所も閉まってしまっていた。


ゆうきは不安と焦りでいっぱいだったが、それでもホテルを探さなければならない。

そもそも、このような事態になったのは、ゆうきが路線を変更したからだが…。


ゆうきは、ホテル…といっても2階建てや3階建ての規模としては旅館に近いホテルではあるが…看板と窓の明かりが見えるたびに勇気を出してフロントに部屋が空いてないか聞いて回る。しかし、撃沈の連続だった…。


「もう…!スマホがあればすぐ予約できるのに!」

ゆうきは内心で叫んだ。


疲れたゆうきは、健太郎にバトンタッチ。しかし、健太郎も初めてのホテル探しに緊張し、雑な英語でお願いを繰り返す。ようやく気の良さそうな受付の人が、部屋を貸してくれることになった。ゆうきはやっと一息つける場所を見つけられたことに安堵の息をついた。


ホテルの隣がビアホールになっていた。夕食を兼ねて健太郎はドイツビールを楽しむことにした。だが、大きなジョッキに注がれたビールは予想以上に冷えておらず、日本のビールとの違いに驚いている健太郎に、ゆうきは心の中で「未成年にアルコールを飲ませるんじゃない!」と突っ込む。


同時に、「けっこう美味しいかも…」と…ゆうきの初めての飲酒を合法的に達成する。自動運転中も味覚があることに感動を覚えた。


ビールを飲み干すと予想以上に眠たくなり、ビアホールをあとにした健太郎は部屋に戻り、ベッドに倒れこむように横になった。



健太郎の設計事務所――

ゆうきが、気が付くと、まだ、健太郎と所員の話は続いていた。元の世界に帰ってきた…


健太郎は持っていた研究冊子や英語の雑誌を広げ、夢中で話し続けた。英語表記の「IL」という冊子に載る記事や写真を指さし、ゆうきにその魅力を説明する健太郎の表情は、熱意に満ちていた。彼が長年敬愛してきた建築家について語り尽くし、彼のに会いに行けなかった後悔の話に差し掛かった際に、言葉に詰まる…


「あれ?俺…フライオットーに会ったことある気がしてきた…」


今までの話と違う為、所員の2人は怪訝な顔をしているが、健太郎の顔は何故か嬉しそうだった。


「なんか今日はおかしいな…今日は帰ろう!」

珍しく17時という時間に事務所の電気が消された…



ゆうきの部屋――

食事を済ませ、部屋でゴロゴロしながら今日の出来事を振り返ってみた。

「行動を起こして失敗したことは、武勇伝になる。でも、行動を起こさなくて失敗したことは、いつまでも心に残るんだな…」と、ゆうきはぼんやりと思った。


何かを決意したゆうきは、スマホを取り出してLINEを開いた。そして引っ越しをする友人に勇気を出してメッセージを送った。


ずっと連絡が取っていなかった友達に、最後に会いたいという自分の本心を伝えたかったのだ。


(今なら、会える気がする……)

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転生建築旅行記 迷子の私と風の街 シャーリーAコックス @manybook

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