はじまり(2)
「あぁ、ええと。ガジェットをもらいにきたのですが、そのようなことは...」
今更だが、心なしか、確かに声も若い。
しかしそれにしても、もらいに来た、とか間抜けにも程がある。
ここに来て思い至ったが、武器を無料でもらえるはずがないのではないか?
「おおおお!
ガジェットをお求めですね!
ですね!もちろんです!こちらです!」
「え? 」
目に光が宿る、とはこういうことで、彼女はやけにハイテンションになり、そして看板の下にかかっていたカーテンをさっと開いた。
その先には、まだ部屋がある。
「どうぞ!こちらです!」
彼女はさらにその奥のドアを開け、俺を案内する。
入ると、空気がスッと変わる。
熱気に包まれたさっきのロビーとは違い、この部屋は空調が効いている、といえばいいだろうか。
さっきまでの喧騒も、一気に聞こえなくなる。
その部屋には、ずらりと、真っ白な剣や、盾、槍などがずらりと並べられていた。
ソファや、テーブルも一緒にある。
俺がとまどっていると、彼女がのぞき込むようにしてきた。
「ご説明しますね?」
「実は、初めてなので、ぜひお願いしたいのですが」
「冒険者の初心者の方ですね?
さっき冒険者証を取得しているのを見てました。
そして、ガジェットホルダーの世界を選んでいただき、ありがとうございます!」
「ガジェットホルダー?」
「ええ、ガジェットを持っている人のことですよ。
ええと、では、初めからご説明いたしますね」
「あ、私、このギルドでガジェットショップをやっている、テオシンといいます。よろしくお願いします!」
言うと彼女は、片手を差し出した。
俺は手を合わせて、握手をする。
どうやら挨拶は握手、という文化圏のようだ。
「では、、まず、ガジェットについて、ご説明しますね。
あ、ハロロンのご説明は、いいですよね?学園等で学ばれていたり?」
「あ、すいません、全部最初からお願いします」
そこから、説明、というか講義が始まった。
導入については、簡単に言うと以下のようなものだった。
この世界の魔力のことを、どうやらハロロン、というらしい。
源泉はこの星の核であり、その力は星中に満ちている。
なんだか普通の魔力よりも、ガソリンに近いイメージだ。
個人からも湧き出しているガソリンではあるが。
そのハロロンを含んだ鉱物で武器などを作るわけだが、
この武器を、より個人に紐づけ、個人のハロロンと一体にしたものが、ガジェットだ。
ガジェットは出し入れ自由であり、破壊されても個人が持っているハロロンで修復できる。
その性能は、個人の想像力が多分に反映される。
しかしこの、"想像力による"ところがネックとなり、どうやらガジェットは、
通常の武器、これをウエポンというが、それと比べて、人気がないらしい。
個人の想像力によるガジェットより、普通に様々な魔法特性が付与されたウエポンの方が強い、ということらしい。
「最終的な形や、ガジェットスキルは、使用者の魔力や、その、創造性による、ということになります。
普通の武器や装具、ウエポンやアーティファクトと異なる点、というか、難しい点はそこでして...」
創造性による。
そんな広大無辺で、そして節操のない言葉が出てきてしまうとは。
「ガジェットは使用者により、大変性能が異なります。
想像力に、とてもとても偏ってしまうんです。
...と、いいましても、7大天剣のうち、2人はガジェットホルダーです。
可能性は...あるんです」
7大天剣?
最強の7人みたいなことか?
益々ファンタジーである。
「なるほど...ウエポンと、ガジェットとの違いをもう一度、詳しく教えてください。」
ガジェットを手に入れろ、というオーダーのままに、ガジェットを手に入れない、という選択肢は存在しない。
だが、メリットとデメリットはいつでも知っておくべきことだ。
「ええと、こちらです。この本に、詳しくてですね」
言いながら取り出された本は、結構薄目の図鑑サイズの本だ。
「あ、ここです。
ウエポンと、ガジェットの違いですね。
メリット1: ガジェットは持ち主のハロロンに直結し、スキルの構築、スキルの発動、スキルの特性、さらには使用者の身体への影響に至るまで、全てが自由である
メリット2: 具現化が自由自在で、盗難されることはない。
デメリット1: 破壊されると、利用者の魔力や体力、命に影響がある。
デメリット2: その能力が、使用者本人の適正、魔力、創造性に大変大きく左右される。
デメリット3: ガジェットの持ち主は、普通の武具に嫌われる。防具は重複装備可能だが、他の武器系は装備できない。
...などなどです。
あとは..あまり言いたくない事なんですが、最高レベルのウエポンはそれこそ破格の性能があります。
これを凌駕するガジェットは、、あまり生み出されていない、というのは、その、現実です」
「なるほど。ちなみに、ひょっとして、ウエポンは買い替えればいいけど、ひょっとしてガジェットは簡単には変えられない?」
「....ええと、そんなことはないんですが、ガジェットは持ち主と一緒に経験値を蓄積して成長するんです。
持ち変えるとガジェットのレベルが0からになるんです。個人のレベルはそのままですよ。」
「ふむふむ....」
少女は心配そうな顔をしている。
せっかくの客が逃げることを心配しているのだろうか。
どうやらこの世界では、ガジェットはウエポンに比べて、人気がない上に、弱そうである。
だが俺の頭は、わくわくでどうにかなりそうだった。
完全なカスタマイズ可能な武器?
何それ、何それ。
この世界に来て、正直いますぐ帰りたかったのだが、ちょっと本気でやってもいいかな、と思えてしまう。
だって「創造性」である。
ここがどれほどの世界か知らないが、俺の元の世界は妄想と創造性なら誰にも負けない世界ではないだろうか?
「わかりました。さっそく選びたいんですけど、ここにある武器の形を選ばないといけないんですかね?」
「え?
えーと、いえ、ここにある武器は、私の作った試作品で、この中から使うことは出来ますが、自分で形を作ることも可能です。」
「....自分で、形を、作れる?」
俺は部屋の中を見渡す。
部屋は大きくないが、カテゴリごとに、2、3本の白無垢の武器が置かれていた。
「....形は、自由なんですか?」
「自由です。でもやはり武器と言えば、ここにあるものが、だいたい全部だと思っていますが...」
確かに、部屋の中にある武器の形は、だいたいのファンタジーで想定される武器種を、大方カバーしている。
剣系、盾系、槍系、投擲系、連結系...
だがいかんせん数が少ないし、そして、銃がない。
まぁ銃なんて作らないけど。
実は、もっと作りたいものがあるのだ。
チュートリアルが終わらない。世界を旅するたったひとつの方法 駆渡いさ @isdriven
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