第40話 めでたし、めでたし?
結局、私はREONAさんとの同棲に了承した。そして、REONAさんは私が断ることを考慮していなかったようだ。私が同意することを前提に私とREONAさん、翔琉君が新しく住めるようなマンションを事前に準備していた。
そのため、私たちの同棲生活はREONAさんの離婚後すぐに始まった。実は彼女はアニソン歌手としての活動はしていなかったが、アニソンやドラマの主題歌の作詞を手掛けていたようだ。その際に入ったお金をコツコツと貯金していたらしい。その貯金を使ってマンションを購入したようだ。
その行動力の速さに驚かされたと同時に、彼女に愛されているなと浮かれてしまった。私の脳みそも案外ポンコツらしい。
ちなみに、私が危惧していた翔琉君や柚子が世間の目に晒されるということはなかった。そもそも、私がREONAさんの好きな相手だということも世間に公にされることはなく、記者会見の日以降、私を付け回す人はいなくなった。
「その辺については、私もあの男も情報管理を徹底しましたから。離婚当初に沙頼さんに迷惑をかけてしまったことは申し訳ありませんでした。ですが、関係各所に言い含めておきましたから、今後はそのような行為はなくなると思います」
REONAさんにはこのように言われた。にっこりと微笑む姿はとても魅力的ではあったが、どのような手を使ったのかは怖くて聞くことができなかった。
多少は気になるあの男の今だが、離婚したところで人気は相変わらずらしい。古参のファンからの根強い人気で、いまだに声優業のトップを走り続けている。まあ、私にはもう関係のないことだ。REONAさんも芸能活動を再開して、こちらも大人気でライブをやると、即完売になるらしい。
今思うと、とんでもない人と同棲することになってしまった。それでも、後悔はしていない。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おかえりなさい、沙頼さん」
「おかえり。お母さんから聞いていると思うけど、今日は沙頼さんの家でご飯を食べていくから」
妹の深波の家から私の新たな自宅に帰る。玄関で私を出迎えてくれたのは、REONAさんとその息子。それにたまにやってくる私の姪。三人は笑顔で私を待っていた。
私の娘でもある柚子は、私との本当の関係を知ってしまった。さらには翔琉君と彼女の関係性にも気付いてしまった。それでも、こうやってたまに、私たちの新しい新居に顔を出す。
『沙頼さんが私の生みの親だってことでしょ。そりゃあ、本当のことを知った時は驚いたよ。でも、それでいろいろ納得できた。翔琉との関係にいい顔しなかった理由もわかったし、お母さんが沙頼さんの家に行かせようとしていたことも理解できた』
「だったら、もう、私に近づかない方がいいんじゃないの?私と居ても、いいことないと思うよ」
『いいことなくてもいいじゃん。それに、別に沙頼さんに会いに来ているわけじゃないし。私は、翔琉に会いにきてるんだから。そこに沙頼さんがいるだけ』
離婚の報道がでてから、少しして柚子が私の家を訪ねてきた。その時の会話が思いだされる。
あの時、屁理屈のように私に言葉を返す柚子に、知らず知らずのうちに涙があふれて、思わず彼女を抱きしめてしまった。柚子は、恐る恐る私の背中に腕を回してくれてしばらくの間、私たちは抱きしめ合っていた。
柚子は私と今まで通りの関係でいることを望んだ。書類上の母親であり、育ての親である深波をお母さんと呼び、私を沙頼さんと呼ぶ。一時は関係が壊れ、縁を切られることも覚悟していたが、そのような結末にはならなかった。柚子の母親には慣れなかったが、それでも私は今、幸せだ。
なんだかんだで、私は一人ではなくなった。これからは、彼女たちと一緒に時を歩んでいくだろう。
あの男との一夜の過ちによって起きたことは、今では私の中では、ただの過去の出来事になっていた。とはいえ、ただの過去にしておくには惜しいと思う自分もいた。
「まさか、こんな未来が待っていたなんて。昔の私、悲しまなくていいよ。未来の私はこんなにも幸せに生きているんだから」
「沙頼さん、何独り言を言っているの?ぼおっとしてないで、さっさと靴を脱いで。今日は沙頼さんの好きなすき焼きだよ」
「沙頼さん、早く早く!」
「翔琉、柚子ちゃん、沙頼さんをそんなに急かさないで。もしかしたら、新作の構想が浮かんできたのかもしれないよ」
『それは気になる!』
二人の子供に腕をひかれ、私は自分の家に上がった。目の前には私のことを温かく見つめる私の愛しい人が待っていた。
ラノベ作家と有名声優が犯した一夜の過ち 折原さゆみ @orihara192
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