第2話

 ふらついている葛西先輩に肩を貸しながら階段を登る。


「やっぱ結構飲んでますよね?」


「そんなことないよー」


 そう答える葛西先輩は、さっきまでは外で暗くて気づかなかったが、明るいところで見ると顔が赤みがかっていた。


「お邪魔します」


「えへへ、おじゃまされまーす」


 なんかさっきからニタニタ笑ってる葛西先輩。もう家に帰すことには成功したので、あとは適当なタイミングで脱出するだけなんだが。


「ていうか、俺酒飲めませんよ?」


「あれ、そうだっけ」


 やっぱこの人忘れてんな。


「まだ19なんで。来月20歳になりますけど」


「そうなんだー!じゃあ、その時は一緒に飲もうね」


 まあ、機会があれば。

 にしても、彼女の部屋は間取り的にはうちの部屋と同じはずなのに、ウチよりも広く感じられた。

 家具とかの量変わんないと思うんだけどなあ。

 お、スウィッチあるじゃん。


「先輩もスウィッチ持ってるんですね。やるんですかゲーム?」


「友達ができたらいっしょにゲームとかしたいなって思って、買ったんだよね。まあ友達できなかったからぜんぜんつかわなかったんだけど」


 うわ悲しい。


「じゃあ、今やります?」


「え、いいの!?」


「もちろん。なんのソフトあるんですか?」


「えーっとねえじゃあこれとかどうかな」


 そう言って先輩が示したのは、ボンビーをなすりつけあう定番のすごろくゲームだった。

 このゲームで俺に勝負を挑むとは、愚かなり。


「あれ、なんでそっち行くの?目的地と逆だよー」


「最初は千葉に行って強いカード集めまくるのが強いんですよ」


「えー、そうなんだー!」


 CPU最強の名人2人と99年モードで対戦していた俺が全力を出してしまうのは大人気ないかもしれない。

 でも、獅子はウサギを狩るのにも全力を尽くすのだ。恨むなら過去の自分を恨むんだな先輩。ガハハハハ。


「やったー、私の勝ちだー」


「負けた、だと、この俺が」


 いやまさかたかが5年のくせにキング2回引いて物件全部売られてカード全部飛ばされるとは思いもしなかった。


「もう一回」


「え?」


「もう一回やりましょう。次は勝ちます」


「…!うん!!」


 それからは長かった。途中から興が乗ってきてしまい、99年モードでぶっ続けでやり続け、結局いつのまにか2人とも寝てしまっていた。

 目覚めたときには、すっかり日が登った後だった。


「やっば…」


 さっさと帰る予定だったのに、なんか気分が乗ってきてずっと居てしまった。最終的に2人とも寝落ちしてるし。

 というか冷静になって考えると、この状況って大概では?

 面識があるとはいえ、側から見たら泣いてる女性の弱みに漬け込んで家に入ったようなもんじゃないか。

 このままだと俺がドシタンハナシキコ科ヤリ目タマタマの実の下半身人間になってしまう。

 うーん。


「えへへ、あずまくぅーん」


 先輩が寝言を呟いている。全くこの人は、男がいる横でどうしてこんなに幸せそうに寝てられるんだか。

 …まあ、いっか。とりあえず、家帰ってもう少しだけ寝よう。

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隣の部屋の葛西先輩は友達がいない @sasakitaro

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