隣の部屋の葛西先輩は友達がいない
@sasakitaro
第1話
「ぶえー!!」
なぜか俺の前で大泣きしている成人女性。さて、なぜこんなことになっているのか。あれは今から四万年、いや一時間前に遡る。
いやー、やはりいつになっても休みの前日は気分がいい。理系の俺は来年になったらたまの休みですら研究で潰されると先輩たちに脅かされたが、来年のことは来年また考えればいいのだ。
明日は何をしようか。やはり積んでる本やゲームの消化だろうか。なんなら帰ったらすぐ取り組んでもいいくらいだ。
確かフロムのアレがサムライさんの前で途中で萎え落ちして止まってたような…。アレの続きやるか?いやでもあれ1日がかりになりそうだしなあ。
「…」
…なんか、いる。正確に言うと、家の前の公園のベンチに腰掛けて滂沱の滴を溢している女性がいる。
これが全く知らない他人であるならスルー一択なんだが、知ってる他人なんだよなあ。
「あのー、葛西先輩ですよね?大丈夫ですか?」
勇気を振り絞って声をかける。この人は、俺の隣の部屋の住人で、同じ大学の二個上の先輩の葛西くるみさんだ。
正直無視したかったが、知り合いだし、大学案内してもらったり履修登録教えてもらったりだいぶ世話になっているので声をかけた。
「ふぇ?…あずま、くん?」
東というのは俺の名前だ。
多分テストの名前書く時間の合計でジュゲムさんとかより百時間くらい得してる気がする。
それはともかく、葛西さんが顔を上げて辺りを見回し、ようやくこちらを認識した。
「はい東です。…どしたんすか、こんなとこで」
話聞きますよ、と続けそうになったのを抑える。
危ない危ない。このままだとホモサピエンスからドシタンハナシキコ科にジョブチェンジするところだった。
「あずま、くん。…ぐす、ひぐ、びぇーーーー」
なんで泣き出してるんだろう。あー、帰ってゲームしたい。
数分後。
「落ち着きました?」
「うん、ごめん、なさい」
「別に、謝んなくていいすけど」
なんか、だいぶメンタル弱ってるな。
「それで、何があったんです?」
「うん、あのね、今日、サークルの飲み会があったんだけど」
「あー、らしいですね」
俺の友人も参加していた。サークル名は、なんだっけ?ストーンフリーとかそんな感じの名前だった気がする。
「そこで、その、わたしの周りに男子の先輩がいたんだけど、その先輩がわたしにばっか話しかけてきて、わたしの同学年の子が文句言ってきて」
ふむ。同学年の女子(男子)がその先輩を好きで、その先輩が葛西先輩にばっかり構うもんだから嫉妬したと。
「前からその先輩の目なんか怖くて、別にわたしはなんとも思ってないのに、いっぱい文句言われて、なんかわたしわかんなくなっちゃって…ひく、ぐすっ」
やっぱサークルの人間関係ってめんどくさそうだなあ。
「ひくっ、ぐすっ、わたし、まえから!こみゅにけーしょんへたくそで、なんか、男の子となかよくなって、こっちは友達だと思ってるだけなのに、すぐに狙ってるとかいわれて」
「わたし、そんなことしてないのに、ただなかよくなりたいだけなのにー!!」
「はあ、ぜんぶわたしがわるいんだよ。男子にも女子にも友達いなくて」
「それは違うと思いますけど」
「…え?」
「惚れた腫れたの問題は当人同士のことなのでなんとも言えないですけど、付き合ってもない相手と親しくしてるからって文句を言う筋合いがあるとは思えませんし、先輩が悪いとは思いません」
「あずま、くん」
「まあ先輩に瑕疵があった可能性も否定できませんけど」
この人距離感近いんだよなあ。ボディタッチも多いし、勘違いするやつが出るのもわかる。
俺は長男だから耐えられたけど、次男だったら惚れてた。
「うぅ」
「俺は先輩が優しくて良い人だって知ってますし、今まで周りにいた人が見る目なかっただけですよ!」
「そう、かな?」
「そうですよ」
「あずまくんは?」
「え?」
「わたしと、ともだちになってくれる?」
葛西先輩が、友達になりたそうにこちらをみている。友達になりますか?
とてつもなくいいえを選びたい気分だ。あー、どこでルートミスったんだろう。セーブポイントどこですかー?
「ひぐっ、ぐすっ」
「わー!わかりましたよ、なりますよ、友達」
これが本当の泣き落としか。初めて食らったぞ。
「ほんと?」
「ほんとです」
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんとです」
「やったー!」
「はいはい」
葛西先輩は嬉しそうににぱーっと、笑った。まあ、なんか、もういいや。
「まあ、今日のところは家帰りましょうよ。もう9時過ぎてますし」
「そう、だね」
まあひとまずこれで一件落ちゃ
「じゃあ、ウチで一緒に飲もっか!」
は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます