鏡の中の僕と渚ちゃん
〇〇市出身の作家の作品に『鏡の中の僕』という絵本がある。おおまかなあらすじは、鏡に毎日話しかけていた僕がある日を境に鏡の中の僕と入れ替わってしまうという話だ。〇〇市の小学校には必ず置いてある本だ。時々俺も鏡の中の俺と入れ替わってしまって、こんなダメな人間になってしまったんじゃないかと考えることがある。でもそれは、物語の世界の話であって現実の話じゃない。
「一名様でお待ちの築井さんー」。日曜のファミレスは大賑わいだ。「Aセットをお願いします」「Aセットですね。ごゆっくりどうぞ」。あの事件について調べて行くと、段々詳しいことが分かってきた。被害者の三人のうち二人の死因は上半身を数十回めった刺しされたことによる出血死。残り一人はロープのような物で首を絞められたことが原因の窒息死。どの被害者がどんな殺され方をしたのかは詳しくは分からない。被害者三人には面識は無く、また職業や住んでいる場所なども共通点は無かったという。犯人は被害者を殺害後、ノコギリのような刃物を使用し被害者の体を頭部、胴体、手足と切り分けた。殺害方法は全員同じということではないが、解体方法から同一犯だと、警察は推測したようだ。殺害動機が分からないことや警察の初動捜査の遅れが原因で、事件はより解決困難となっている。警察は自分たちが事件の解決の障害になったことを伏せるためにあまり積極的に事件捜査はしていない。
「お待たせしました、Aセットです。ごゆっくりどうぞ」。最近は外食ばかりしているので段々お金が無くなってきた。このAセットも高校生時代から比べて値上がりしている。テーブルの食器ケースを開けるとフォークが無い。店員さんは忙しそうにしているし、この店はお水がセルフサービスだったことを忘れていたので、自分で取りに行くことにした。左手にフォーク、右手に四角い氷を入れた水を持って自分の席に戻ろうとすると、知らない女の人が俺の座っていた席の前に座っている。間違えて座っているのかと思い、俺は声をかけた。「すいません…。その席俺のです。」「分かってるよ」「はぁ…?」。思わず疑問混じりのため息が出てしまった。「とりあえず座ったら?」。俺は言われるがまま自分の席に座った。「どこかで会ったことありましたっけ?」「あるよ。えー、もしかして覚えてないの?悲しいなぁー」。誰だ。俺は今まで会ってきた人の顔のデータを頭の隅から隅まで探したが、本当に誰だか分からない。「本当に会ったことありますか?」「ひひひー」。まるで天使のような悪魔が微笑んでいるかのような感じだ。黒とピンクのリボンを付けたツインテールに魔女や小悪魔のような怪しい紫色のメイクをしている。気が動転して気づかなかったが結構な美人だ。「ほらっ、小学校の時『鏡の中の僕』一緒に読んだでしょ」。
その時ピンっと閃いた。渚ちゃんだ。小学校の頃仲良くしていた、俺の初恋の人でもある、あの渚ちゃんだ。「渚ちゃん?」「ピンポーン。正解、お見事」。
暇だったので未解決事件を解決してみた 吹田俄 @suitaniwaka
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