富岡さん

 「あぁ、大介くんちょうど良かった。これ運ぶのを手伝ってくれるかい?」「分かりました!、今行きます」。

 富岡さんの家は俺の実家から畑を2個挟んだ所にある。富岡さんには俺より歳が15個ぐらい離れた息子さんの照星くんがいて、俺が幼稚園の頃はよく遊び相手をしてもらった。それくらい築井家と富岡家は家族ぐるみで関わっていた。しかし俺が小学生の頃にその息子さんは亡くなってしまい、あまり関わりがなくなってしまった。それでも俺は富岡さんの畑仕事を手伝ったりし、大学進学するまで仲が良かった。

 「ここに置きますか?」「もうちょっと奥に置いてもらってもいいかい」「分かりました」。富岡さんも昔と比べたらだいぶ老けたと思った。これぐらいの荷物はひょいと持ち上げるくらい力持ちだったのに。「この小屋って、前から気になってたんですけど道具入れとかですか?」「今はそうだね。昔は照星の趣味の物が入ってたんだ。」。小さい頃にしか富岡さんの家に入った記憶が無かったので、どこか新鮮な雰囲気を感じた。「ところでお父さんとは仲良くいってる?」「いやー、ギクシャクしてますよ。毎日言い合いばっかりで…」「まあ、今は大変だけどきっと上手くいくよ」。ここ最近こんな励ましてくれる言葉は富岡さんしか、かけてくれないので、富岡さんが外に出るタイミングでよく声をかけている。「今日の予定は?」「これから小学校に行って、小学校時代の先生に会う予定です」「気をつけて行ってらっしゃい」。


 「あー…、馬場先生ですか。今日ちょっと出張で居ないんですよ」「そうですか。ありがとうございます」。タイミングが悪いのは昔からのことだが、せめて電話を一本入れておくべきだった。しくじった。「また後日、お伺いしますと馬場先生にお伝えください」。このまま家に引き返すと富岡さんに見られて恥ずかしい思いをするので、また駅前のモールに行くことにした。

 特に買うものも読むものも無いが、本屋に行き暇を潰していると「あれっ、大介くん小学校に行ったんじゃないの?」。まさかの富岡さんに、ばったり遭遇するとは。しくじった。「いやー、その…。先生が出張でして」「ついてないね、大介くんは」「ははっ、ははは。そうですよねー」。ちょっと気まずい雰囲気になったところで、どうやら富岡さんも気まずかったらしく俺に「フードコートで一緒にご飯食べるかい」と聞いてくれた。勿論俺は、気まずさを掻き消すために小学生が元気よくあいさつをするように「はいっ!」と答えた。

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