柴犬の喜助
柴犬の喜助は、俺が大学生時代に犬好きの父が先代の犬の姫が死んでしまった後に迎入れた犬だ。なので俺のことを家族としては認識しておらず、言うことも全然聞いてくれない。
家にいると両親がうるさいので、喜助の散歩に行くことにした。いや、喜助様かもしれない。散歩中偉そうにこっちを向いて木にマーキングしたり、自分の糞を早く取れよと言わんばかりに吠えてくる。可愛げのない犬だなと思いつつ散歩を続けていると、自分が通っていた小学校が見えてきた。今日山口に会ったばっかりなので小学校の頃の思い出が蘇ってくる感じがした。「小学校の頃はたくさん100点取ってたのに、いつからだろ赤点ばっか取るようになったの。なぁ、喜助」。喜助はそっぽ向いている。正門は新しく改装されていた。錆びて塗装がボロボロにだったとは思えないほどピカピカになっている。「綺麗になったなぁ」と俺が感心していると、急にシンクで蛇口を捻って水がシンクに当たっているような音がする。ハッと下を見ると、喜助が正門に勢いよくおしっこをしている。「おい、馬鹿やめろ!新しくなった門だし、しかも俺の母校だぞ!」。そんなことお構いなしにこれでもかと言わんばかりに出している。申し訳ない気持ちになっているところに「どうかされましたか?」と言う声が聞こえた。「いや、何でもないです」。そう俺は言ったが声をかけてきた人が近づいてくる。喜助がその人に向かって吠えている。その人の顔をよく見ると身に覚えのある顔だ。馬場先生だ。「馬場先生!覚えてますか?築井です。6年生の時にお世話になった」「築井君じゃないか!元気してたか」。どうやら本当に俺のことを覚えていたらしく、会話が弾んだ。「築井君は頭がよかったからなぁ。どこの大学卒業したの?いい大学何だろ、築井君のことだから」。俺は世間的には名は知れているが2浪して入る人は少ない大学を卒業している。ましてや1留した事なんてもっと言えない。「えーっと、京大です。」。「すごいじゃないか!さすが築井君だ!」。相変わらず元気だな馬場先生は。京大行ったのは、けいちゃんなんだよなぁ。くそぉ、また嘘をついてしまった。馬場先生ごめんなさい、あれだけ人に嘘をつくのはよくない事だと教えていただいたのに。
馬場先生は、今は教頭先生をしているらしい。この小学校に勤めている年数は長く、もう20年近くになるそうだ。ふと馬場先生ならあの事件について何か知っているのではないかと思ったので、事件について聞いてみることにした。「あの昔起きた殺人事件って覚えてますか?三人の人が殺された事件」。そう尋ねると、少し先生は悲しい顔をして「ああ、覚えているとも。被害者の一人の高橋さんは、ここの卒業生なんだ」。卒業生と言っても俺とは歳が離れている。ちょうど今の俺の歳に殺されたようだ。「事件が解決することを願っているよ」。悲しい沈黙が数秒続いた。「今日はもう、暗くなってきたし帰りなさい」と言われて咄嗟に「あの先生!事件について後日詳しく話を聞くことって可能でしょうか?」と言ってしまった。「いいでしょう。また今度学校に来なさい」「ありがとうございます、先生!」。そう俺が言うと先生は校舎の暗闇に消えていった。
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