元バレー部キャプテン山口

 山口は俺の小学生の頃からの同級生で、中学校まで一緒だった。中学時代山口は女子バレー部キャプテンだった。技術のレベルが高く、身長が170センチ後半ぐらいあるので、市内の中学女子バレー部に所属している人で山口の名前を知らない人はいなかったぐらいだ。山口とは中学2、3年生のときに同じクラスで席が隣になったことが何度かあった。それが理由で山口とは仲がよかった。中学生の頃の俺は身長が160センチくらいしかなかったので、よく山口や友達から馬鹿にされていた。今となってはいい思い出だ。

 せっかく何年かぶりに会ったので話をしようということになり、俺はまた軋む椅子に座り山口と懐かしい話や今何をしているかを話し合った。山口は中学卒業後県内有数のバレー強豪校に進学し、バレーは大学まで続けて今は隣の***市で体育教師をしているらしい。俺は山口ほど立派な進路を進んで来なかったので、少し嘘を混ぜて自分が何をしているかを説明した。会話がある程度落ち着いてきたところで俺は子供の頃の事件について山口に尋ねて見ることにした。「なぁ、小っちゃい頃に殺人事件あったの覚えてる?三人の人が殺されたやつ」「あーあれね、覚えてるよ。てか被害者の人の一人があたしのママと知り合いだったから」。ちょっとした会話の一つにしようとしていた事件のことを山口は俺や世間の人には公開されていない情報を詳しく語りだした。

 被害者の一人の里見奈々さんは〇〇市の隣、***市とは反対側にある◻︎◻︎市に当時住んでいた。◻︎◻︎市は小さい市で人口は1万にちょっとだ。住んでいるほとんどの人は〇〇市や***市などに買い物や働きに行くという。里見さんも〇〇市のスーパーで働いており、山口の母もそのスーパーで働いていた。里見さんは容姿端麗だった。駅前のショッピングモールや***市のスーパーには行かず、わざわざ里見さんを見るためにそのスーパーに通う人たちがいたほどだ。山口の母はシフトが被っていたということもあり、たまに食事を一緒に行くことがあったらしい。「でもね、里見さん可愛いから誰かにつけられてたの」。どうやらストーカーのようなやつに付き纏われていた里見さんは、山口の母にこのことを相談していたらしく、そのことを心配した山口の母が警察に相談するように助言したが、警察は安全のためにスーパーを辞めるようにとしか対応して貰えなかったと本人は語っていたそうだ。里見さんはスーパーを辞めるという選択肢があったが、里見さんのレジに並ぶためにわざわざ遠くからくる客もいた為、店側としては里見さんに辞めてほしくなかったので、辞めないでくれとしつこく頼まれていたと山口の母は聞いていた。結果的にその数ヶ月後里見さんはスーパーに来なくなった。山口の母は里見さんが店を無理矢理辞めるためにパートを飛んだと思っていたが、数日経っても里見さんから連絡がないことを心配し、里見さんの住んでいたアパートを訪ねた。チャイムを押しても返答は無かった。数日後の4月25日里見さんは遺体として発見された。

 山口はそう話をすると顧問をしている女子バレー部の練習を観に行かないといけないと言い、俺は山口と連絡先を交換して自分も家に帰った。

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