第6話 ガーディアンズ

 今から100年ほど前、かつて「西暦」と呼ばれた時代のことだ。

 幾多の闘争と環境の破壊で人々は疲れ果て、癒しと娯楽を求めた。そこに生まれたフルダイブ型ゲームである「ワールドポータル」だ。


 このゲームは、コロニーと呼ばれる場所から様々な世界に行けるというゲームだ。各世界は現実世界で創作と呼ばれた物達、ユーザーはそこで自由に過ごすことが出来る。世界でキャラクター達と過ごすのもあり、コロニーでユーザー達とコミュニケーションをとるのもあり。同接数2億人を突破したこともある、まさに世界一のゲームだった。あの日までは。


 ある日、「オズ」と呼ばれたエンジニアがとあるコンピュータウイルスをばらまいた。「ヴァイラス」と呼ばれたウイルス達はワールドポータル全てのシステムにクラッキングをし、現実世界とワールドポータルの接続を遮断した。そしてユーザー達のデータを書き換え、電子情報で不老不死だった肉体を現実世界と同じ肉体にして、老いと死の概念を与えてしまった。


 ヴァイラスの侵攻はそれだけではなかった。コロニーと各世界を繋ぐ空間である「海」を汚染し、生身で海に出た途端、肉体の汚染に耐えきれず消滅してしまう。これにより世界に取り残され、帰れなくなったユーザー達もいた。

 そしてガーディアンズ達は混乱するユーザー達を束ね、被害の確認を行った。幸い、コロニー間での通信は生きていたからなんとか各コロニーで協力することが出来た。そして、これ以上の被害を抑える為に各コロニーの出入り禁止令が敷かれた。この一連の事件がブレイクダウンと呼ばれるようになった。


「このブレイクダウンの日を、西暦からW.C.ワールドセンチュリー00という年号に改暦した。これが最初に起こった一連の出来事だ。なにか質問はあるか?」


説明を一旦止めたクロウは、質疑応答を始めた。アラヤは背もたれに寄りかかり、ため息混じりに話した


「しっかし、聞けば聞くほどよくわかんないねぇ。オズの正体とか、なんでヴァイラスを放ったのかも分からないし」

「けど何故ケント司令官は生きているのでしょうか?、データを書き換えたならケント司令官だって人間になっているはずなのに」

「シュウト、いい質問だな。ケント司令官がその影響を受けなかったのはブレイクダウンの日、ヴァイラスが放たれるときにオズを追い詰めて、オズと共に研究室にいたかららしいんだ。だからケント司令官はヴァイラスの影響を受けなかったそうだ。まぁそのせいで不老不死になっているんだがな」


 アラヤの呟きと自分の質問は繋がっていると考え、シュウトは更に質問を続ける。

 

「そうなるとケント司令官はオズについてもっと知っていると思うんですけど、何故公表しないのでしょうか?」

「模倣犯が現れるからじゃないかな?」


 ずっと口を閉ざしていたマコが口を開いた。


「カリスマ性っていうの?。とにかく、その思想を聞けば、後に続こうとする者がいるからあえて教えてないんじゃないかしら」

「同意だ。時としてアンチテーゼは強烈な印象を与える。ブレイクダウンの悲劇が再び起これば、何が起こるか分からないからな」


 マコの意見にクロウは腕を組みながら頷いた。


「さて、次の質問はあるか?」

「もうひとついいですか?。ブレイクダウンのときは、既にガーディアンズって存在していたんですね」

「ああ。ガーディアンズはブレイクダウン前から存在していた組織だ。なら、少し予定を変更してガーディアンズについて説明する」



 ブレイクダウンより前、ガーディアンズは世界の守護を目的としたロールプレイをする集団だった。

 メンバーも多かったらしく、各コロニーに支部を設置してコロニー間で連絡を取り合えるようにしたり、食料品や医療品などを貯めて緊急時に備えたりなどのロールプレイを楽しんでいた。他のユーザー達には一切迷惑をかけていなかったため、特に文句なども言われなかったそうだ。


「ブレイクダウンが起こって、そのあれこれが役立ったことは不幸中の幸いだな」

「俺達の始まりが、ただのロールプレイ集団だったなんて面白いよな」 

「あのー……ロールプレイってなんですか?」


 シュウトの質問にマコは答えた。


「場面や状況を想定して、疑似体験をするってこと。おままごとって言えば分かりやすいかしら?」

「ままごともロールプレイなんですか?」

「ああ、自分が母親や父親になりきって遊ぶ。立派なロールプレイだ」


 シュウトの驚きに、クロウは真面目な顔で答えた。そしてクロウは続ける。


「ブレイクダウンでの死者は少なかった。また、その後に食料不足による餓死で亡くなる人も最小限まで抑えることが出来た。これはロールプレイをしてきたからこそだろうな」

「ロールプレイが現実になるとは思わなかったですね……」

「そうだな。ところで、コロニーについては簡単に理解しているか?」

「居住区として成り立っているって習いました」

「分かった。とりあえずここも詳しく説明しよう」

 

 コロニーとは、現在使用されている居住区であり、ガーディアンズの基本的な拠点になっている。コロニーは全部で6つ。

 ガーディアンズの本部が置かれていているコロニー1。

 居住区と訓練校があり、一般部隊が多く在籍しているコロニー2。

 ヴァイラスとの戦闘をメインに行っており、自由な部隊編成が可能なコロニー4、コロニー5、コロニー6。

 一般部隊と個別部隊が多く在籍しているコロニー7。

 この6つのコロニーで成り立っている。

 そして現在、新しいコロニーであるコロニー8が建造中だ。これが完成すれば、W.C.になって初めての新型のコロニーとなる。

 

「さて、ここまでで何か質問はあるか?」

「やっぱりコロニー3がないのは異質だよなぁ」

「コロニー3……かつて一般部隊が多く配備されていたコロニーでしたっけ?」

「あぁ。だがコロニー3はこの後の災害に大きく関わってくる。これを聞かずに育った子供はいないはずだ」

「「アースショック」……ですよね……」

「あぁ。この災害によって、我々が現在の活動理念の基礎が出来上がったと言っても過言ではないだろう。そこも説明する」


 ブレイクダウンから3年後、ワールドポータルの食料事情も大幅に回復し、落ち着きを取り戻した頃だ。ワールドポータルの研究を行っていたチームは全ての世界が一定の方向に流れて行くのを確認できた。そして一定の数の世界が同じ場所を目指すように流れて行くのも確認出来た。このまま流れていけばそれらが衝突する可能性があることまで分かった。ただ、特に問題は無いと結論づけた。だが、それが間違いだった。


 その調査から3年。W.C.06に研究中であった世界がついにぶつかった。だが、想像を遥かに上回るエネルギーの衝突による衝撃で付近の世界が誘爆を開始、その衝撃波でかつて一般部隊が多く在籍したコロニー3が消滅。比較的近場にあったコロニー2が半壊した。コロニー3にいた人々は勿論、コロニー2の人々は衝撃と半壊による影響で海に投げ出され、汚染により消滅してしまった。死者と行方不明者合わせて6000万人という大災害となった。


 この災害を、後に「アースショック」と名付けた。

 その後、この災害の研究を続け、衝突した世界は全て同じ時代背景、人物、時間軸の世界であることが判明した。


 だが、衝突した世界と同じ世界であるものの、衝突しなかった世界があることが分かった。

 調査隊を派遣したら、そこにはブレイクダウンの影響で帰れなくなったユーザーが住んでおり、その世界では本来とは全く違う時代となっていた。

 この研究から第3者が介入すれば、バタフライエフェクトによって世界の歴史そのものを変えれば衝突を回避できるのではないかという仮説のもと、実験が行われた


 実験の結果、仮説は立証され、ガーディアンズの方針を固めた。

 第2のアースショックを防ぐため、出入り禁止令を撤廃させ、各世界で異なるアクションを起こし、未来を変えるという方針になった。


「それと同時にムールズやリグムスなどスーツや武器の開発、技術の研究も始めたんだ。これがガーディアンズが本格的に動くことになった災害だ」

「聞けば聞くほど痛ましいですね……」

「やっと落ち着き始めた頃に起こったからな。当時のユーザー達はかなり大変だったろう」

「じいちゃん達も言ってたけど、当時はかなりキツかったらしいぜ。やっと見えてきた希望が音を立てて崩れていくのが分かったらしいし」


 4人は少し悲しそうに俯いた。その後すぐにクロウが顔を上げ手を鳴らした。


「さて、しんみりする時間は後でとる。過去にあった2つの大きな出来事は取り上げた。そしてこれからは現在の話をしよう。シュウト、ガーディアンズの最終目標は何だか分かるか?」

「えっと……。ヴァイラスを殲滅させることですか?」

「違うな、確かにヴァイラスを駆除することも大切だがそれじゃない。最終的な目標は現実世界に帰ることだ。それに我々はヴァイラスは殲滅させるのではなく、利用しているんだ」

「利用……ですか?」

「ああ。詳しくは次の話でする。次は世界についてだ」

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