第四部③反撃作戦

第45話『反撃の狼煙、ヴァルガーデンへの反攻作戦!』

 昼過ぎに、ハルデン家の大広間に、モルデールからアム、景男、アリステロスとマックス。ヴァレタニアから自力で死のふちから生還せいかんしたシリアス、ヴァルダーの主従と、3軍の師団長レオン、セリーヌ、アレン。バレタニアからは孫のレオの様子を見に行ったオルカンの代わりにマリーナが出席している。


 モルデールVSヴァルガーデンの戦に関わった主だった人間が全員顔を合わせた。


 口火を切ったのは、戦勝国のアリステロスだ。


「この度の戦は、ヴァルガーデンのダークス卿一人の野望によるものここに集まる我らは言わば皆、被害者ひがいしゃだ。モルデールの町は傷つき、ヴァルガーデンの者も一度、生死を彷徨さまよった者も多いはずだ。そこで、モルデールの家宰として、ダークス卿の野望を打ちくだくために『ヴァルガーデンへの反転はんてん攻勢こうせい』を提案ていあんいたしたい」


 守勢の立場をとる判断をすることが多い、この賢者けんじゃがまさかの提案だ。アムは驚きの表情を隠せない。


「アリステロス、今の提案は真の提案か?!」


 アリステロスは、アムの言葉に頷くと「マックス! 作戦をご覧に入れろ」と命じた。


 大テーブルに『ヴァルガーデンへの反転攻勢』の進軍計画の絵図面が広げられた。


 進軍ルートは3つだ。


 ・第1ルートは、モルデールからブラックの領内シャドーウッドを抜ける正面突破。


 ・第2ルートは、モルデールからヴァルガーデンを通ってバレタニアの港につづくマルサネス川を下る2方面。


 この2つの作戦は、ヴァルガーデンがモルデールを攻めた裏返し作戦だ。


 そして、第3のルート、それは、モルデールを出て険しいタンクホルムの道なき道を切り開き、ヴァルガーデンの北砂漠のオアシス都市ホルサリムへ出て北面から攻める遊軍ゆうぐんによる陽動ようどう作戦さくせんだ。


 マックスの説明を受けたヴァルダーが、「ワシと若殿はハルデン家の婿養子むこようしに来て、ヴァルガーデンに捨てこまにされた身だから、祖国へ刃を向けることをいとわぬが、他の師団長の考えは知らぬ」とレオンたちに背を向ける。


 レオンとセリーヌ、アレンの3人はお互いに顔を見合わせて年長のアレンが代表して口を開いた。


「我らとその騎士団の多くはヴァルガーデンに家族を残しています。それに、一度忠誠を誓ったダークス卿に背くことは騎士道に反します」


 ヴァルダーが身を乗り出して、「アレン、お主たちはダークス卿が怖いのか?」と挑発する。


 レオンとセリーヌは俯いてしまった。アレンは、二人の変わって、「我らは正直言ってダークス卿が怖い。逆らって家族がどんな仕打ちに会うか想像を絶するだけで恐怖です」と胸中を代弁する。


 ヴァルダーが吐き捨てるように、「ふん、そんな覚悟のほどだから、多勢をもってもしても小領主のモルデール一つ落とせぬのだ」と憎まれ口をきく。


 これには、アムも黙ってない。


「モルデールは、例え、『幻影騎士団』の協力がなくても、ヴァルガーデンの兵をきっとね返していました。私たちの団結だんけつはそんなやわなものではありません!」


 ヴァルダーが、アムに言い返そうとするのをシリアスがピシャリと言った。


「ヴァルダー、もうよせ!」


「しかし、若様! この女は自分たちが立ち向かう敵の本質を知りません」


「ヴァルダー、本質を知らぬのは、我らも一緒だ。自分の息子である私を簡単に捨て駒にする父・ダークス・ストロンガーの本当の怖さを誰も分っておらん」


 アリステロスが、シリアスに尋ねた。


「シリアス様、ダークス卿の本当の怖さとは何でございますか?」


 シリアスは、呟くように言った。


「父の本当の怖さは、負けた者は許さぬことだ」


 アリステロスが確信を得たように、「つまり、ここに居るすべての人間は、もはや全員ダークス卿にとって首を獲る敵なのでございますね」


 アレンが、レオンとセリーヌが顔を見合わす。アレンが代表して口を開く。


「アリステロス様、モルデール軍に敗れた我ら3軍にはもはや帰る祖国はない。おめおめ帰っても処断されるだけだと申されるのか」


 アリステロスはアレンに頷いて、シリアスを見た。


「そうだ、アレン、レオン、セリーヌすまない。私が生き残ったと言う事は、そなたたちの忠誠心や騎士道はあろうが、もはや達せられないと言う事だ」


 アレンは、レオンとセリーヌを見て、「どうする? 騎士道を通してダークス卿に処断されるか、シリアス様に味方して退任していただくか?」と尋ねた。


 レオンとセリーヌは、互いに頷きあって、「もはや、我らの生きる道は、シリアス様に味方して、ダークスきょう自己みずから王座をシリアス様に譲られる他あるまい」と返事した。


 シリアスを中心としたヴァルガーデン軍はまとまった。



 シリアスは、父オルカン・タイドンが、牢獄に捕らえられた孫のレオの様子を見に行く間に、バレタニアの代表としてここに居るマリーナを真っすぐ見つめた。


「マリーナ、バレタニア軍はどうする?」


 マリーナは、バレタニアの主オルカンの一人娘であり、大国ヴァルガーデンの王妃だ。その息子レオは、出生の秘密さえ夫であるダークスにも、実の父であるシリアスにも話していないが、ダークスの横暴さえなければ、形はいびつでも愛するシリアスの子を王座につけることが叶うはずだったのだ。


 マリーナは、レオの父親が真はシリアスであると打ち明けようと口を開こうとした。


 バタンッ!


 その時、ハルデン家の扉が開いて、眉をしかめたオルカンが現われた。


「皆の者、グズグズとヴァルガーデンへの反転攻勢を談義しておる場合ではないぞ。ブラックとレオが脱獄だつごくした。今頃、使いツバメを飛ばして、ダークス卿にはモルデール軍の勝利は伝えられているだろう。すぐに、我らは一致団結して反転攻勢に出ねば、ダークス卿と”王の槍”トリスタン・ヴァルダーの『黄金騎士団』がヴァルガーデンの総力を挙げてここへ押し寄せて来るだろう。我らに出来ることは、その前に、こちらから討って出ること。アム殿、今すぐ出陣の下知げちを!」


 いきなり、オルカンからヴァルガーデン・ダークス卿の討伐とうばつを迫られたアムは、言葉に詰まる。


 すると、景男が、アムの両肩に手を置き代わりに答えた。


「アムちゃん、こうなりゃみんなで、この世界の巨悪を倒しに行かなきゃ異世界で大逆転できないでしょう!」


 アムは、景男の楽観的で無責任な面はあるが、これまで強運だけで乗り越えた景男ことポジラーを信じてハルデン家の広間に集まる全員に告げた。


「私たち、モルデール軍、真・ヴァルガーデン軍、バレタニア軍は、今すぐにくきダークス卿を追い詰めて王座から引きずり下ろすために、ここに連合軍を結成いたしましょう。皆様、よろしいですね」



 つづく


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2025年1月11日 12:00
2025年1月12日 12:00
2025年1月13日 12:00

異世界で大逆転ポジラー 星川亮司 @ryoji_hoshikawa

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