第8話 私7 〜私達

なんとか、新鮮な空気の場所に出る。広く高い空間。食物の香りも満ちている。しかし、私を誘わない。

もう時は来た。体が充実している。次に私を呼ぶものがある。

水だ。水を探そう。


滑らかに宙を進むと、水はそこかしこにある。近寄ってみて、水面に触れてみる。

ここじゃない。これじゃない。いまいちだ。

何がかは解らないが、落ち着かずに次へむかう。

すると、沸き立つように見える水場がある。喜びにあふれている。水面に降り立つと、体が燃え立つように共鳴する。

ここだ。

体勢を整えていると、水中に踊る物が近寄ってくる。あぁ、懐かしくも安らぎを感じる。大きいものや、まだ小さい物達。よく見ると、深くに遠くにたくさん、楽しげにゆらめいている。私は確信に満ち、袋に手をかけた。


ダプッ

水面が突然揺らぐ。水面に押されるように、すんでの所で袋を締めて飛び立つ。

え、どうなっている?


いつの間にかやってきた塊が、水辺をうごかしている。ザァザァと水は流れになる。

水は?あの喜ぶに満ちた水はどこへ?

混乱の中探すと、水は流れながら広がり少なくなっていく。楽しく踊っていた子達は、踊りの動きのままもがき、少しでも水のある方に行こうとするが、空気の幕に押さえつけられていく。先ほどまでの光景が嘘のようだ。


もはや動けなくなった子は食物として認識され他の生物に運ばれようとしている。

私は高く飛び上がる。あそこは違ったんだ。私は次の水を探す。


草の陰に、程なく新しい水場がみつかる。慎重に近づき、何度か水面に触れてみる。ここも良さそうだ。喜びに溢れてはいないが、静かで美味しそうな水だ。周りで動く物はない。

水面にそっと降り立つと、期待で体が熱くなるようだ。袋からゆっくりと取り出す。命がけで集めた液体に浸され、充分に育った宝物。私はうっとりと、水面に置いていく。私はこの為に生きてきた。


なぜ気づかなかったのか。一瞬で水に巻き込まれた私は、次の瞬間水面に力を取られ動けずにいた。広がっていく私の身につけていた物たち。

そうして水面に現れた大きな穴に水ごと飲み込まれる。美味しそうに食べられる。


私はこの為に生まれてきた。


私は残した。

たとえ、私達が100生まれ、99死のうとも1の私がまた100残せばいい。99が他の者を支えている。


さぁ、私よ。飛べ!残せ!






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飛べ、残せ やってみる @yasosima91

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