最終話 そしてチート?伝説へ……
「実は俺……転生者なんだ……!!!」
「……」
「それも異世界からの転生なんだ」
「……」
「……」
その可哀そうなものを見る目は止めてくれ。覚悟はしていたとはいえ精神力が削られていく。
そこに追加の全部乗せカレーとミニパフェが届く。
「お料理、持ってきましたにゃん。取ったら完了を押してにゃん♪」
持ってきたのはネコ耳ウェイトレスさんではなく、もちろんネコ型配膳ロボットである。
「……というか奢りと聞いて、ホント容赦ないな、お前ら」
何事もなかったかのように料理を並べる、しっかり者の上の妹。
「ごゆっくりどうぞですにゃ~ん♪」
「何? 何? どうやったの、今の?」
「いやー……僕も分かんないや、ライター何処?」
衝撃の告白より、何もない空間に火を灯す、手品の方に興味を示す下の妹と親友。
まぁ、そういう反応になるよね。
俺もすぐに魔法だなんて、信じてもらえるとは思っていない。
そしてどこにもライターを隠し持ていないことを明かす。
そもそも半袖だ。俺はそんな凄腕マジシャンではない。
そしてもう一回言った。
「実は俺……異世界からの転生者なんだ……」
ここは街の食堂……というか最寄駅近くのファミリーレストラン。
足元には彼らの仕事道具……という名の参考書やら部活の道具が入ったバッグ。
学生の仕事と言ったら勉強だ。嘘は言ってない。
「そんなに今の手品、見てもらいたかったんだ。こんなにご馳走までしてくれて……」
「いやだから……ってどんだけ食うんだよっ!」
いくら奢りとはいえ全部乗せカレーのダブルは流石に食い過ぎである。
未だに一人称が僕というわりには容赦がない。これだから体育会系は……
ちなみに親友は剣道で全国大会まで行った剣(竹刀)の使い手で、双子の上の方は全国模試の上位常連。
下の方は迂闊に近づくとあっという間に組み伏せられる柔道少女。
「わ……私は、お兄ちゃんの言ってること信じるよ……」
うんうん、ホントにお前は素直でかわいいよ、上の妹。
「ねぇ、もっかいやって、もっかい♪」
うん、お前もその深く考えないとこ、割とかわいいよ、下の妹。悪い人に騙されないか、ちょっぴり先が心配だけど。
そして言う。
「それがそう、何度も続けてはできないんだ……」
「……そうなの?」
残念そうな顔を見せる下の妹。
「期待させといてゴメンな……?」
「……何か使えないね」
前言撤回。お前はもう少しかわいくなれ。
「ふーん……マジで手品じゃないんだ。それで言ってることが事実だとして、今までは隠してきたんだよね? なら何で今さら僕たちに打ち明けるのさ?」
親友によるごもっともな意見。
そして俺は元は異世界人で、宮廷魔導師にまで昇りつめた大魔導師だったことと、生まれた瞬間から前世の記憶があったことなど、全てを話して聞かせた。
「つまりお兄ちゃんは今
そうそこ、流石は上の妹。言いたかったのはズバリそこである。
「実は中身、おじいちゃんでゴメンね……」
「まぁそこは割と気にしないけど……」
……気にしないんだ。
「ねぇ、説明聴いてる間に時間経ったけど、さっきもアレ、またできる?」
お前はホントそこばかりだな、下の妹よ。
「それがなぁ……赤ちゃんの頃はそれこそ、この拳くらいの炎の塊が作れたんだけどさぁ……」
「赤ちゃんが炎の塊って、何か危ないね」
「いや水系の魔法もいけるから、その辺は大丈夫だったんだよ。っていうか、この地球ってそもそも魔素が極端に薄っっっいんだよ」
「魔素……?」
「何かこう……どこ行っても魔法禁止区域な感じ?」
「ふーん……」
「で、俺も赤ちゃんだったからさ。外の様子は分からない。それで魔法の源である魔素の蓄積に努めたってワケよ」
「そう言えば、お兄ちゃん。小さい頃、ちょいちょいイタイこと言ってたね♪」
「今、それ言う……?」
下の妹は全く空気を読んでくれない。
そして親友が核心に近いことを訊いてくる。
「そして今になって話すのは準備が整ったってこと……?」
そう、全ての準備は整った……って違ーう。何だよそれェ。
核心に掠りもしていなかった。
「いやー。それがさぁ、全然ダメだったんだよ」
「……?」
「俺は魔力を持っている。魔法も使える。でも地球上どこへ行っても魔素は枯渇している」
「つまり……?」
「貯まるどころか俺の中からどんどん蒸発していってる感じ?」
「カラカラかぁ……」
「カラカラだね」
「駄目じゃん」
「常に残り
「やっぱ使えないね」
下の妹ーーー、言い方ーーー!
お前は柔道より、少しはオブラートに包む技術のほうを磨け。
「でもでも、異世界の知識がそのままってことはさ、つまり……」
上の妹が期待を込めた眼差しを向けてくる。だが残念ながら答えはこうだ。
「技術や文化の格差……」
「そう、それそれ……」
「いや、科学技術は圧倒的にこっちが上だからさ。もしこっちの技術を向こうに持っていければ、それはもう凄いことになるけど……」
「……?」
「中世のヨーロッパ人が現代にタイムスリップしてきたとして、何か無双できること、あると思う?」
「……」
「……?」
「あ……(察し)」
テルマエお風呂の人だって、お笑いのネタくらいにしか役立っていない。
「逆じゃー意味ねぇんだよなあ、逆じゃあ」
「ちょー使えないね、お兄ちゃん」
悔しいけど、そこは激しく同意だ。下の妹よ。
「そうはいっても前の知識があるわけだしさ。人生かなり優位なのは間違いないわけだよな……?」
そしてまたしても親友が、ごもっともなことを言ってくる。
「……にほんご」
「……日本語?」
「お前たち、言葉ってどうやって覚えた?」
「……そんなの自然に……あ(察し、二回目)」
「俺、赤ちゃんの頃から意識があった訳だしさ。自力で覚えなきゃならなかったワケよ、日本語。でも日本語って前の言語と勝手が全然違くてさ……」
「あー……」
「なんかこの身体の脳みその部分? 割とスペック低いみたいでさ。日本語習得するのに全て使い果たしたって感じ?」
「苦労したんだな……」
「苦労したんだね……」
「馬鹿って辛いね……」
「……」
いつか覚えとけよ。下の妹。
「じゃあ何で今日は、僕たちに奢ってくれるだなんて……」
「自分の分は自分で払うよ……?」
「……」
自分の財布にジャリ銭(それも十円玉以下)しか入っていないことを確認して、急に視線を逸らす下の妹。
安心しろ。今さらお前に払わせようとは思っていない。
「……だがそんな俺にもやっと春が来たんだ」
「春……?」
「そんな……(彼女とか言わないよね……)」
「ほっ……」
「見ろ!」
そして俺は三人にスマホの画面を見せたのである。
「……?」
画面にはネット小説の投稿サイトが映し出されていた。
「んー……なになに? キャラクターとか文章はまだまだだけど、世界設定には光る部分が感じられる?」
「読み手そっちのけの独自の魔法解釈は、一見の価値あり? 設定厨になら……」
「どうよ! ベタ褒めだろう?」
「ベタ褒めかなぁ……」
「結構、辛辣なこと書いてあると思うけど?」
「ここ見て、ここ!」
「☆20……?」
「一週間でこれだからな。一年で1000いくペースだぜ!」
そしてネット小説にはとんと縁のない彼らからは、実に生暖かい眼差しが送られてくるのだが、そんなもの俺には関係ない!
残念転生がなんだ!
これが俺が手にしたチート能力。このチートでこの世界を無双する。そしてテッペンを掴み取る!
俺の物語はここから始まるのだ!
「俺はやるぞォーーー!」
「モグモグ……」
「パクパク……」
「(頑張って、お兄ちゃん……)」
「転生モノ、最高だぜェーーー!」
星に届け ☆ 異世界の魔法
ーー完ーー
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ここまで読んでくださいまして、誠にありがとうございます。
実にしょーもない話で申し訳ございません。
作者の『せなみなみ』と申します。
当方これとは別に、割と真面目に書いてる小説もございます。
ジャンルは異世界モノで非なろう系。
転生も転移もない、ガチのファンタジーです。
タイトルは『彼の瞳の色を知れ!』
(カノヒトミノ イロヲシレ)です。
章ごと別の主人公が活躍する連続中編小説です。
各章ごとの関連性は皆無なので、どの章から読んでも差し支えはございません。
各章はおよそ一時間程度で読めます。
こちらの方もどうか宜しくお願い致します。
第一章『再びのアネット』あらすじ
第一章の主人公アネットは大商会の娘。何不自由なく育ってきたが十才の時、悪い大人たちによって攫われてしまう。
そして奴隷として他国に売られる直前で助け出されるのだが、救いの手となった者たちの正体は……
こうしてゴブリンの里での生活を余儀なくされたアネット。そして二年の時が経ち、物語はオープニング、『皆殺しの少女』へと繋がっていく……
これはアネットが生まれてから十七才までの人生を綴った物語です。
星に届け☆異世界の魔法 せなみなみ @senaminami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます