第5話

さん、服は大丈夫ですか?」

「あぁ、袴を胸で締めるのは少し慣れないが」

「しぐさが男の人だから違和感凄いな……」

 かつての鬼岩城からは考えられない光景の中を、俺はオバナとサクラの案内で歩いていた。

 灰色の上衣に紫の行灯袴、封印の影響で肩のあたりまで伸びてしまった髪を頭の後ろでまとめた出で立ちは、両手に立つ花たちに引けを取らないとは神主さんの言だ。

 さすがに名前が男の物だと悪目立ちをするためそこは偽名を使っている。

「それで、行きたいところって何処?」

「古物商、でいいのか?まぁ好事家への伝手だな」

 サクラの言葉に俺が返すと、二人が小首をかしげる

「古物商、ですか?」

「なんで?」

 2人の疑問に組んでた腕を下ろすと、袖の中から銅銭の紐通しが滑り落ちてきた。

「……ん?お金、ですか?」

「み、ヤナギ……これ、じゃ……」

 オバナが落ちてきた銅銭に興味を持つ中で、サクラがソレに気が付いた。

「例の封印の時に巻き込まれたものだ。両替するよりも好事家に売った方が良い値になると思わないか?」

「そ、そりゃ戦争の時の銅貨なんて貴重も貴重だけど……」

「いいんですか!?そんな貴重品売っても!?」


「俺には使えなきゃ意味が無いからな」

 2人の疑問にそういって、その前を歩き出した。


「デカいな……」

「今じゃフウセキで一番の名所だからね。」

 古物商へ行く途中、他とは明らかに違う雰囲気の区画へやって来た

 他の区画では木を組んで作られた建物ばかりだったのに対し、この辺りは四角い石のようなものを積み上げて建物を作っている。

 その中でもひと際大きな建物の前に俺たちはいた。

「フウセキと他の大きな国を繋げる、蒸気機関車の駅です」

「蒸気機関車?」

「蒸気機関……水を思いっきり熱して出した湯気で動かす乗り物だよ」

「湯気で動かすのか……?」

「ヤナギさんの所にはありませんものね」

 2人の解説を聞きながら、私は駅と呼ばれた建物を後にした。

「このあたりは石造りの建物が多いな、それにあかばかりだ」

「これ石じゃなくて煉瓦って言って、粘土を焼き固めたものなんだよね」

「粘土を焼いた物……つまり瀬戸物か!?壊れないのか!?」

「さ、さすがにお皿とかと違って丈夫になるように作られてますけどね……あ、見えてきました」

 周囲を囲む建物についてサクラの教えてもらっていると、オバナが目的の場所を指さした。

 どうやらこの多くの人が行き交う通りの一角にひっそりと建つこの店が、二人の知る古物商らしい。

「おっちゃーん、来たよー!」

「おぉお嬢か、父親にはいつも世話になってるな」

「……知り合いなのか?」

 扉を開けて一番に入って来た言葉に、髭を蓄えた初老の男性の言葉について呟けば、オバナがすぐに補足を入れてくれた。

「サクラちゃんの家は結構な名家でして、ここにも出資してるんです」

「なるほど、それで彼はサクラをお嬢と呼んでいるのか」

「それで、今日はどうした?特に掘り出しもんは来てねぇが」

「あぁいや、今日は案内なんだよね」

「あん?……見ない顔だな」

 そういってこちらを見たサクラにつられるようにして店主もこちらを見る。

 その視線に引っ張られるように、彼の前にあった台に銅銭を置いた

「旅の者で、最近ここに来たんだ。家にあったものを持ってきたのだが、買い取れるか?」

 男が手袋を付けた手で銅銭を一枚つまむと、それを隅々まで調べ始めた。

「戦争期の銅銭か……下手に両替屋に持って行かなくて正解だぜ姉ちゃん。こんだけ状態が良けりゃその手の蒐集家マニアにいくらでも売れる。……一枚に付き銀銭一枚でどうだ?」

「っこれ一枚が今の銅銭の百倍の価値!?」

 査定結果に驚愕したサクラが思わず銅銭を一枚つまんで叫ぶ。

 それを見た古物商が素早く彼女の手から奪い取った

「素手でさわんじゃねえ!……この時代の硬貨はきれいに形が残ってるのがすくねぇんだよ。だから欲しいやつはいくらでも値を釣り上げんだ。」

「売れるのなら何でもいい、それで頼む。」

「よし、交渉成立だ!……量が量だからな、少し時間がかかる。店のもんでも見て少し待っててくれや。」

「分かった」

「アタシも何か見てこようかな」

「ヤナギさん、私も行きますね。」

 手を打った男が勘定台の裏で作業をし始めたのを見て、俺も店の品物を物色し始める。

 俺の隣であれは何、これはそれと小声で解説を入れてくれるオバナに感謝しながら店内を物色していると、あるものが目についた

「これは……?」

 引き金が見えるソレは、いうなれば掌ほどに短くした鉄砲、だろうか?

 すぐに判断が出来ないのは私の知るそれとは大きく違うところばかりだからだ。

 まず火縄を掛けるところが無い、代わりに筒のような部品をはめ込まれている。

 柄も後ろに長く伸びた木のそれではなく、片手で握りこめるほどの大きさの、皮の巻いたものが筒を囲む金属板の下についていた。

「鉄砲、ピストルですね。小さな爆発で金属の玉を飛ばす武器です」

「あぁ、鉄砲でいいのか」

「なになに、どしたの?」

 横にいたオバナの説明でやっと納得できた私の様子が気になったのか、サクラもこちらにやって来た。

「あぁ、鉄砲か。ヤナギの戦争中にはあったんだっけ」

「大きな戦場では運用されていたな。俺たちは使っていなかったが」

「そうなんだ?」

「あぁ。急行軍で整備の時間が取れなかったからな、それに……」

「それに?」

 サクラの言葉に、当時を振り返りながら答えた。


「俺が知ってるのは火のついた縄を火薬に叩きつけて爆発させる物だ。準備してから発射まで時間がかかり過ぎて、暗殺じゃ使い物にならない」


「いつの時代よ……いや、昔の時代の人だったわ」

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