第3話

 俺がに気付いたのは、全身が暖かい何かに包まれたことを理解したころだった。

「……っ!!」

「わっ起きた!」

「急に起きたら危ないですよ!」

 その感覚に驚いて体を起こす。自分の腕を見る。

「死んでない……っ!」

 その声の高さに三度目の驚き。自分にもわかるほど普段より高い声が出た。

 思わず自分の喉を触る。顎の下にある喉仏が消えていた。

「えっと……大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫だ……ッ!!」

 困惑した声でこちらの心配をする少女に礼を言おうと振り向く。


 その女は額に二つの角をこさえた有角人ニクトツだった。


 それを認識した瞬間、俺は女を突き飛ばした

「きゃっ!」

「ハナっ!?」

 勢いよく尻もちをつく有角人ニクトツから距離を取るように布団を蹴飛ばして立ち上がる

 使える弾は何があるかと袖をまさぐろうとして、服がいつものそれじゃない事に気付いた

 印が没収されている、仕方なく空手の構えを取る

 体がふらつく、封印が不意に解けた直後、調子を戻していない俺の体術でどこまで抗える?

「待って待って待って!」

 そこまで考えたところで、倒れ込んだ有角人ニクトツを人間の少女がかばうように割り入ってきた。

「なっ……どけろ!キミを攻撃する意思はない!」

 人間が有角人ニクトツをかばうような動きに、思わず叫ぶ。

「とりあえずっ話し合いましょ?ねっ?」

「交渉の余地などない事は分かっているだろう!」

 紅袴の少女の日和見な言葉を叱責する。

 それを見た有角人ニクトツが声を上げた


、戦争は終わりました!」

「……何っ?」

「『戦刃』と呼ばれた有角人ニクトツの大将が封印されたことで、人間の優位が決定的となり終結しました。もう、私たちが戦う理由はありません!!」


「……そうか」

 その言葉に足の力が抜け、俺は床にへたり込む。

「俺たちの特攻は、無駄じゃなかったんだな……すまない」

「はい?」

「何でしょうか?」

 急に床に腰を落とした俺を、傷をつけられてもなお心配する優しい二人の少女に問いかけた。


「俺の時代から……戦争が終わってから、どれほどの年月が流れたんだ?」



(俺たちの戦争が歴史となった時代か)

 祈願城、今ではそう呼ばれている城の中にある林の中を歩く。

 枝葉の隙間から入る木漏れ日を眩しく感じて手を翳す。

(随分遠い時代に来たもんだ。元々そのまま死ぬつもりで使ったんだけどな……)

 翳した手がで何かに振れて、

(おまけに種族も性別も変わってるときた。)

「ったく、忌々しい」

 意識して声に出す。

 いやに穏やかな声が出た。

(この辺りは静かだな……『戦刃』にも、自然を愛でる趣味があったのだろうか)

 ざわざわと葉を揺らす木々をなんとなしに見上げながら歩いていると、林の奥に目的の場所を見つけた。

『英雄を静かに眠らせてあげたい』そう願ったかつての人々が、死んだ仲間とも達をこの静かな林の奥に埋葬し、この小さな石積を建てたらしい。

 今でも神主……俺の石像を保護していた人が、こちらも掃除しているそうだ。

(あいつらは騒ぐ方が好きだったけど)

 そこだけは相いれなかった奴らの墓に花を添える。

「今の時代、死者には花を添えるらしいぞ。」

 両手を合わせて、呟く。

「黄泉の先まで一緒に行くつもりだったのに……ははっ」

 呟くたびに涙が頬を伝う。

「いつもいつも……なんで俺だけ、生き残んだよ……」

 涙声は、木々の中に消えていった。


「ミチカゼ~!こんなところにいたんだね。って泣いてる!?大丈夫!?」

 後ろから聞こえてきた声に振り向く。

 ここ数日で見慣れた、膝ほどある長い黒髪を毛先がばらけないように布でまとめた少女。サクラが俺の泣き顔を見てあたふたとし始めた。

「あ、あぁ……大丈夫だ。同胞はらからの墓だ、泣きもするさ。……俺を探していたのか?」

 涙を袖に吸わせて、慌てる少女をなだめて先を促す。

「あっそうだった。神主様が食事の用意が出来たら呼んでくれって」

「分かった、すぐに向かおう」

 俺は立ち上がってうなずいた。上下を若草色に揃えた少女が笑って身を翻す。

「場所分からないよね、一緒に行こう?」

「あぁ。」

 前を行く少女の足跡を追って、俺はゆっくり歩きだした。

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