第27話 未来は愛で勝ち取りますわ!!!【最終話】

 ――リディアは本当に強くなった。


 ローズマリーは、リディアの成長を痛感していた。

 以前に戦った時とはまるで別人のようだ。ローズマリーの攻撃を的確に読み、技を返してくる。まるで、一瞬先の未来がリディアには見えているかのようだった。


「……あなたと闘えたこと、本当に嬉しく思いますわ。リディア」

「ええ、私もそう思います。ローズマリー様」


 ――願わくは、この闘いをルドルフにも見ていて欲しかった。ローズマリーは思った。

 溢れる悲しみを拳に乗せて放つ。


 リディアは、その拳を優しく包み込むように受け止めた。

 ――ああ、あなたはもうそんなに……。リディアがローズマリーとは一段違う強さの次元に到達していることを、ローズマリーは悟った。


 カウンターで、リディアの拳が飛んでくる。

 何の小細工もない右ストレート。


 ――速い。


 ただ真っ直ぐな攻撃にも関わらず、何の対処もできなかった。

 リディアの拳が、ローズマリーの脳を揺らす。


 ローズマリーの意識は、優しい闇の中に落ちていった。




『ろ……、ローズマリー様失神……!! 宮廷武闘大会、優勝者はリディア=マイヤール伯爵令嬢~~!!』

『決着は一瞬……でしたね。鮮やかな右ストレートでした』


 観客席から割れるような拍手と歓声が沸き上がる中、リディアは優雅に一礼した。


「リディア……!!」

 関係者席から、フラムが飛び出してリディアのもとに駆け寄った。


「おめでとう、リディア……!!」

「……ありがとう、フラム」


 リディアは、フラムに向かって花のように微笑む。

 ふと、フラムは真剣な表情をした。そして、おもむろにリディアの前でひざまずく。


「リディア、……僕と、……僕と、婚約してくれませんか……?」

「えっ……」


「い、今はまだ子供ですけど、早く大きくなって貴方を守れる男になります……!! だから、僕が成長するまで待っていてはくれませんか……?」

「フラム……」

 リディアは優しくフラムの手を取った。


「……ええ、もちろんですわ。フラムフェル殿下。婚約、お受けいたします」

 万雷の拍手の中を、ゲオルク皇帝が貴賓席から降りて歩み寄ってきた。


「素晴らしい戦いだったぞ、リディア=マイヤール。……君のような淑女なら、息子を任せられる。どうか、フラムフェルの隣で彼を導いてほしい」

「陛下……。もったいないお言葉、ありがとうございます」

 リディアは深々と頭を下げた。


 ゲオルク皇帝は、勝者の冠をリディアに贈呈する。それは、宮廷武闘大会の優勝者に与えられる、帝国最強の淑女である証だった。


 



 後日。


 改めて検死を行った結果、ルドルフの死因は病気ではなく毒殺であることが明らかになった。

 毒物の入手経路も特定され、裏でフランツが糸を引いていたことが白日の下となる。

 第二皇子フランツは皇位継承権をはく奪され、国外追放という重い処分が下された。

 皇位継承権を巡るこのスキャンダルは、しばらくの間メディアを騒がせた。


 同時に、長男ルドルフの死亡と次男フランツの追放によって次期皇帝となることが決まった第三皇子フラムフェルと、その婚約者となったリディアという新たなカップルの誕生もメディアの注目の的となっていた。


「……大変そうだね、有名人は」

 紅茶のカップを傾けながら、エーデルが言う。リディアは、フォルンシュタイン家のお茶会に招待されていた。


「大変ですわ、どこに行ってもカメラがついて来て」

 リディアはそう言ってため息をつく。


 フラムも諸々の事後処理で忙しく、大会以降なかなかまともに会う機会すらない。


「……ところで、ローズマリー様はどうしているかしら?」

 ルドルフの国葬以来姿を見せていないローズマリーのことを、リディアは心配していた。


「ああ、……彼女は旅に出たよ」

「そうでしたの……。やっぱり、ルドルフ殿下のことで心を痛めて……?」


「それもあるけど、各地を巡って修行するらしいよ。――いつか、君にリベンジするために」

「まあ、それは楽しみですわ」

 そう言って、リディアは微笑んだ。


「……名残惜しいですけど、本日はこれでお暇しますわ」

「もう帰ってしまうのかい?」


「ええ。今晩は久しぶりにフラムとデートですの」




 宮廷の門をくぐると、待ちきれないとばかりにフラムが駆け寄ってきた。


「リディア……!!」

「フラム、久しぶりですわね。少し背が伸びたかしら」


「はい……、三センチ伸びました」

 少し照れたようにフラムは微笑む。


 デートと言っても、一緒に夕食を食べるだけだ。

 ――まあ、フラムが成長するまで当分は清いお付き合いですわね。



 夕食の後で、バルコニーに出て二人で話をした。

 夜空には、零れ落ちそうな満天の星が輝いている。


「最近、頑張っているようですわね。皇帝になるための勉強」

「はい……。でも、正直不安です。僕なんかが、次の皇帝だなんて……」


「大丈夫、私がついておりますわ」

 リディアはフラムの手をそっと握った。


「……うん。そうだね」

 フラムは、リディアの瞳を見つめた。


「リディア……、その……」

「……何かしら?」


 フラムの言葉を聞こうと、リディアは顔を近づけた。フラムは背伸びをして、軽く唇が触れるだけの口づけをする。


「まあ、……私の不意を突くなんて、やりますわね」

 驚いて、リディアは言った。


 胸の奥に花開く小さなときめき。――これの気持ちが恋なのかしら。

 フラムは精一杯の勇気を振り絞ったのだろう。耳まで真っ赤になっている。その様子が、あまりにも可愛く愛おしかった。


 リディアはまだ恋を知らない。

 ――だから、これからゆっくり恋心を育んでいきたい。フラムとなら、それができる気がした。


「早く大きくなりたいです……」

「ゆっくりでいいんですのよ。私は待っておりますわ」


 年の差があると言っても、フラムは十二歳、リディアもまだ十七歳だ。時間は十分ある。

 不安そうな顔をするフラムを、リディアはそっと抱きしめた。


 ――大丈夫、未来は愛で勝ち取りますわ。


(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鮮血令嬢リディアの華麗なる闘い ~うなれ必殺の右ストレート!!婚約破棄された最凶令嬢は武術を極めて皇帝の妃を目指す!!~ オキジマ @xx_okijima_xx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画