第26話 宮廷武闘大会・愛と悲しみの決勝戦!!
突如として現れた第三皇子の姿に、闘技場はざわめいた。
第三皇子フラムフェルが行方不明となり、ゲオルク皇帝は混乱を避けるために水面下で捜索させていた。――だが、よもや女の子の格好をしてメイドとして働いているとは、誰も考えもしなかった。
「ルドルフ兄さんの死因は病気ではありません。フランツ兄さんによる毒殺です……!!」
衆人環視の中、フラムは毅然とした態度でそう言った。
「なっ……、何を出鱈目なことを! 証拠でもあるのか……!?」
フランツは言い返す。
「――彼らが全部話してくれましたよ、フランツ殿下」
そう言って、縛り上げた二人の男を連れてジョセフ=マイヤールが姿を現した。
「昨晩、我が家に侵入した連中です。リディアが不在のタイミングを狙ったのかもしれませんが、残念でしたな。……この連中の顔に見覚えがあるのではないですか? 殿下」
「し、知らない。私はそんな奴らは知らないぞ……!!」
フランツの表情に動揺の色が浮かぶ。
追い打ちをかけるように、ジョセフは男達から取り上げた銃を取り出してみせた。
観衆からざわめきが漏れる。ゲオルクも目を見開いた。
「彼らはこんなものを持っていました。民間人が入手できるものではありません。――偽装してありますが、これは宮廷の近衛兵団が持っているものと同じ銃ではありませんか?」
フランツの顔が引きつった。ゲオルク皇帝の表情も青ざめている。
「フランツ……、まさか……」
「ち、違います父上……!! これは、フラムフェルが私を嵌めるために仕組んだ罠です! 全部でっち上げです……!!」
「でっち上げかどうかは、調べてもらえれば分かります。僕は、ルドルフ兄さんの食事に毒を盛った料理人が誰なのかも知っています。おそらく、ルドルフ兄さんに病死の診断をした医者も共犯です……」
フラムは言った。
「――分かった、フラムフェル。お前がそこまで言うなら調べよう」
重々しくゲオルクは言う。
「ち、父上……!!」
「全てがはっきりするまでお前は謹慎していろ、フランツ。勝手に外に出ることは許さん」
「そ……、そんな……」
うなだれるフランツを、近衛兵が連れていく。マイヤール邸に侵入した男達も近衛兵に引き渡されて連行されていった。
去り際に、フランツは憎悪のこもった眼でフラムを睨みつけた。――フランツは、時間をかけて用意周到にルドルフの暗殺計画を進めていたのだろう。
フラムさえいなければ、フランツの策略は全て上手くいっていたはずだ。
「…………」
フランツに睨まれても、フラムは動じなかった。毅然として兄を睨み返す。
「頑張りましたわね、フラム。立派でしたわ」
「はい、リディアやマイヤール伯爵のおかげです……」
リディアの言葉に、フラムは顔をほころばせた。
突然の事態に、会場は騒然となっていた。とてもではないが決勝戦という雰囲気ではない。
「……私、決勝戦は辞退しますわ……」
ずっと蒼白な顔をして立ち尽くしていたローズマリーが、言葉を絞り出した。
「えっ……?」
驚いて、リディアはローズマリーの方を振り返る。
「だって……、もうルドルフがいないのに、戦う意味なんて……」
ローズマリーの唇は震えていた。
――ローズマリー様は、ルドルフ殿下のことを本当に愛しておりましたのね。
少し前までのリディアだったら、ローズマリーの気持ちを理解することはできなかっただろう。
――でも、今は違う。
フラムのおかげで、リディアは『愛』とはどういうものか少しだけ理解できた。それは決して奪い合うものではなく、優しく相手を想う気持ちなのだ。
愛する人を失ったローズマリーの気持ちを、リディアは慮ることができた。
「ローズマリー様、私と戦ってくださいませ。……亡くなったルドルフ殿下のために」
リディアは、ローズマリーに言った。
「ルドルフ殿下も、きっと強くて気高いあなたのことが好きだったのだと思いますわ」
「リディア……」
ローズマリーは、ゲオルク皇帝の方に視線をやった。皇帝は重々しく頷く。
「――うむ、亡き息子のためにも戦ってはくれまいか。選ばれし淑女達よ」
「ルドルフの弔い合戦……というわけですのね。分かりましたわ……」
ローズマリーは言った。
流れる涙をぬぐい、ローズマリーはリディアを毅然と睨みつける。
「受けて立ちますわ、リディア。――あなたの覚悟がどれほどのものか、私に見せて下さいませ!」
「……望むところですわ!!」
『え……、えっと、いいんスか? オッケーなんスね……!?』
ずっと固唾を飲んで様子を見守っていたシトリンが、マイクに向かって言った。
『で、では、これより宮廷武闘大会、決勝戦を開始するっス……!!』
客席から歓声が巻き起こる。
二人の淑女は、舞台の上で向かい合った。
「頑張ってください、リディア……!!」
フラムがリディアを激励する。
「ええ。見ていてくださいませ、フラム」
リディアは力強く微笑んだ。
『激しい戦いを勝ち残り、最強の座に輝くのは果たしてどちらなのか!? 対戦者は、安定した強さで格の違いを見せつけた御三家が一角、麗しき薔薇の姫君ローズマリー=エレンガーデン侯爵令嬢! ――そして、予選から勝ち上がり、鮮血令嬢の二つ名の通り多くの血の華を咲かせてきたリディア=マイヤール伯爵令嬢~~!!』
決勝戦のゴングが鳴った。
二人の令嬢が動いたのは、同時だった。
両者の長い髪が、金と銀の軌跡を描く。
ローズマリーの戦い方は、変幻自在の足技。フェイントを駆使して、思わぬ方向から鋭い蹴りが飛んでくる。
――でも、リンネに比べれば、遅い……!!
リディアはローズマリーの蹴りの軌道を読んでいた。的確に攻撃をさばき、カウンターで拳を放つ。
「甘くってよ……!!」
しかし、ローズマリーもその程度の動きは読んでいた。足を跳ね上げてリディアの拳を叩く。
「くっ……!!」
間髪入れずに飛んでくるローズマリーの蹴りを、リディアは後ろに飛びのいてかわした。
「……わずかな間に、腕を上げましたわね。リディア」
「光栄ですわ、ローズマリー様……!!」
二人の攻撃の軌道が交錯する。
その様子は、まるでダンスを踊っているかのように華麗だった。観客席からは感嘆のため息が漏れる。
フラムは、ジョセフとともに関係者席からその戦いの様子を観戦していた。
「綺麗……」
思わず、フラムは呟く。
「ええ……。淑女の戦いとは、本来こうあるべきなのです」
ジョセフは言った。
「……フラムフェル殿下はご存じですかな。何故、我が国が銃火器の扱いに厳しいのか」
「はい。昔、何千万人もの国民が犠牲になった大きな戦争があって、その反省から我々は武器を捨てたのだ……と、本で読みました」
「ええ。血で血を洗う歴史への反省から、我々は武器を捨て、肉体での闘いに回帰した。――『決闘』とは、元来平和の象徴だったのです。ただ強いだけでは、戦う資格などない。『決闘』とは崇高で気高く、そして美しいものなのですよ」
それは、今から約五十年前のことだ。国民の多くが犠牲となった大きな戦争があった。
当時まだ十代の新兵だったジョセフも、戦場に駆り出された。戦場で、機銃掃射を受けて人間が一瞬でくず肉のようになる光景をジョセフはまだ覚えている。
そもそも『決闘』で女性同士が戦うようになったのは、この戦争で男性の人口が極端に減ったことがきっかけと言われている。
元来貴族同士の闘いだった決闘に、庶民向けの娯楽としての側面が付与された結果、強さだけでなく美しさも求められるようになっていった。
そして、『決闘』は淑女の嗜みとしてネオエルシアに定着した。
――ローズマリーとリディア。
二人の闘いは、まるで決闘の理想を体現したかのように美しかった。
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