第5話 タマモ
「玉藻前の伝説って知ってるかな?」
「なんか 読んだことある気がします」
玉藻前っていうのは 昔 京都に都があった頃 悪事を重ねたという九尾の狐。
中国からやって来た九尾の狐が 絶世の美女に化けて その時の帝に虜り入り 悪事を働こうとしたが 陰陽師に正体を見破られ 栃木に逃げたけど討伐軍に倒されて殺生石という岩になったという話。
岩になった後も その霊力で周りの生き物を殺し続けたんだって。
この話には まだ続きがあって 室町時代に玄翁和尚というお坊さんが その殺生石を砕いて 最終 玉藻前をやっつけたという物語。
「……玉藻前の物語には 実はまだ 続きがあるんやわ」
「続き?」
「そう 続きのハナシ」
ハルアキさんの話によれば 玄翁和尚に砕かれた殺生石の欠片を集めて 玉藻前を復活させたヤツがいたらしい。
それが 今から百年前 大正時代のこと。
「それを当時 京都にいた
「それって トンでもな話やないですか?」
「僕も 申し送りで聞いてるだけで 詳しいことは分からへんのやけど どーやらそーらしいねん。それで その時 飛び散った玉藻前の魂魄を各地の晴明社やら 玄翁和尚ゆかりのお寺に封印したらしいんやけど 封印し損ねた欠片が白猫の中に入ったらしいんや……」
「封印し損ねたって なんでです? それに 猫に入ったって それも どうして そんなことに?」
「そこら辺のハナシは ホンマによー分からへんのやけど。で どーやら それが ウチにいた〈タマ〉みたいやねんわ」
みたいやねん? あんだけ妖しい猫やのに何も思わんかったんか? ホンマに この人 陰陽師なんやろか?
「……さっきから『みたいやねん』とか そんなん多いんですけど ハルアキさん〈タマ〉のこと 猫又やって 分かって無いんちゃいます? ってゆーか ホンマに陰陽師なんですか?」
じーっと ハルアキさんの目を真っ直ぐに見つめてやる。
ハルアキさんは 目を逸らそうとしてる気がするけど そんなん許さへん。
グッと睨み付ける。
「ホッ ホンマに陰陽師やで……」
目を逸らせないまま ハルアキさんが 答える。
「……ただ その なんや… 僕はポンコツやねん」
苦しそうに そこまで言うと あとは一気に まくし立てる。
「さっきも言うたけど 人には〈霊感〉みたいな力があるんや。それと もうひとつが〈霊力〉。僕は〈霊力〉は かなり強いんや。術式を駆動したり 鬼神を使役したりするのに使うのが〈霊力〉。うちの家では〈祇魄〉って呼んでんねんけど。そんで〈神魂〉が〈霊感〉。〈
ガーッ って 喋り終わると カウンターの向こうの椅子にドッカと腰を下ろす。
さっきまでの オドオドした目付きと違って 開き直った風の やさぐれた表情。
優しそうな愛想ええ感じじゃないし 不機嫌そうな雰囲気やけど 頼りない感じは無くなった。
腰が据わったってゆー感じやろか?
「……あの ハルアキさん〈霊力〉は 強いんですよね?」
「〈霊力〉
「〈タマ〉を野放しにしたら えらいことになるんですよね?」
「……言い伝えの通りやったら そうなるやろな」
「ハルアキさん 理論やら術は 得意なんですよね?」
「爺さんに みっちり仕込まれたし そのつもりや……でも 僕には 見えへんのや」
ボサボサ頭の長身の陰陽師は 私の方を 鬱陶しそうに睨む。
「見えたら 倒したり 捕まえたりできるんですか?」
「……
「それやったら 見えてる人間が 側におって あそこにいるとか 教えたら ええのとちゃいます?」
ハルアキさんは 私が何が言いたいのか 分からへんみたいで 訝しげな表情で 私の方を見ている。
「私が ハルアキさんの目の代わりになって 側におったら〈タマ〉のこと 捕まえられんのと 違いますか?」
うちのタマ知りませんか? 金星タヌキ @VenusRacoon
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