第4話 陰陽師?



「僕は 安倍あべ 陽輝はるあき。一応 陰陽師なんやわ……」


「オンミョウジって何ですか?」


「へっ? 陰陽師 知らん? アニメとか ゲームとかで出てくるの 知らへんかな? なんか…こう…… 和風の魔法使いみたいな感じの ホラ…?」



 その陰陽師は 知ってる。

 でも それは物語の中の登場人物で 今の京都で陰陽師なんて仕事 聞いたことあらへん。

 大人になったら何になりたい?って聞かれた時「マジシャン」って言う子はいるかも知らんけど「魔法使い」って言う子は 低学年でも いいひん。

 それを〈陰陽師〉とか 私が子どもやと思って バカにしてるんやろか?

 まぁ 私も〈猫又〉生で見たワケやし 百歩譲って 陰陽師が存在するのは 信じるにしても 目の前の〈くたびれたオジサン〉風のお兄さん……白いワイシャツに紺色のエプロン姿の安倍さんが 陰陽師やっていうのは あまりに信憑性が無さすぎる。


 疑い満々のジト目で お兄さんを見つめていると 緊張に耐えられなくなったのか 安倍さんは しどろもどろで 言い訳めいた 解説を始める。



「……いや まぁ あの その…。 あんな映画や小説みたいに凄いことできるワケでも あらへんのやけど……。まぁ 安倍家ってゆーても ウチは 庶流の そのまた分家みたいな血筋やし 曾祖父ひいじいさんの代で ちょっと名は売れたけど その後 鳴かず飛ばずやってゆーのも 事実で…。あの… 僕は 僕で術式の理論やらは しっかり叩き込まれたんやけど 実践は… その そんなに 得意ちゃうってゆーか なんてゆーか……」



 私も 口下手やし しどろもどろになっちゃう時あるけど お兄さんの話し方は ウジウジぐちゃぐちゃしてて イライラする。

 まるで 清原さんか 定子ちゃんが如く ピシャリと切って こっちの質問をぶつけてみる。


 

「で そのさんが なんで貼り紙なんかで〈猫又〉探してはるんです?」 


「えっ? いや その……」


?」



 なんか18歳も歳上の 大人の人やけど クラスの頼んない男子の相手してるみたいな感じ。

 ふにゃふにゃしてんと ちょっとシャキッとしいや。

 もう一度 詰めてやる……掃除サボってる男子を詰める要領で。

 


「ど・う・し・て?」


「……いや あの その…さ。〈猫又〉ってゆーんやけど 僕 ホンマに猫又かどうか 確信持てへんかったし……」 


「確信!? 私 ちゃんと見ました!それに 写真に写ってますやん。あの写真 撮ったの オジサンじゃないんですか?」


「その〈オジサン〉ってゆーの ヤメテくれへん? 安倍さんとか ハルアキさんとか なんとかならへんの? 僕 まだ 30前やし……」



 そこ こだわるとこなんか?って思うけど 言い直してあげる。



「じゃあ ハルアキさん。『確信持てへん』って どういうことなんですか?」


「あの写真なんやけど 普通の人には 普通の白猫の写真に見えるハズやねん……たぶん」


「どういうことですか?」


「その ナニ? いわゆる〈霊感〉みたいなのが低い人には 普通の猫に見えるねん。で 〈霊感〉高い人には 本当の姿が見えるみたいな感じになってるハズなんやわ……」



 そう言いながら ハルアキさんは カウンターの下をゴソゴソ漁って 1台の写真機を取り出す。

 写真屋さんが持ってるような ちょっと大きめな一眼レフ……にさらに なにやらゴチャゴチャと線やら 箱やらが繋いであったり 小さなお札みたいなのが 色々貼ってあったりして 怪しい感じ。



「これ ウチの家伝書と僕の独自研究を基に作った〈幽世かくりよ情報光学変換デジタル化装置 試作2号機 ~持ち運びも便利になりました~〉やねん。これで撮ると……」


「名前長いし〈幽霊カメラ〉で ええことないですか?」


「……へ? …いや あの〈幽霊〉が写るワケやなくて…。幽世から洩れてくる様々な情報を 物質世界上で 光学情報に……」


「長いし〈幽霊カメラ〉で ええんちゃいます?」


「……。〈幽霊〉はヤメテ欲しい…。せめて〈幽世かくりよカメラ〉で お願いします」


「で その〈幽世カメラ〉で撮るとタマの尻尾が二股に写るワケでしょ?」



 〈幽世カメラ〉って言ってあげると ハルアキさんは ホッとしたような表情……大人のクセに いちいち面倒臭い。



「それで もう一度聞きますけど『確信持てへかったし』って どういうことですか? もしかして ハルアキさん タマの尻尾 見えてへんのですか?」



 さっきから『ハズ』とか『たぶん』とか 曖昧なことばっかり言って タマの正体についてハッキリしたことを言わない ハルアキさん。

 話 聞いてると〈尻尾〉 見えてへんのちゃうの?って疑惑が湧いてくる。



「みっ 見えてへんことは ないよ?」



 ジト目で しばらく黙ってると やっぱり 言い訳めいた解説が始まる。



「……そっ そりゃまぁ… いつもしっかり見えてるってワケやないんやけど。頑張れば見えるってゆーか。調子のいい日は見えるってゆーか…そんな感じでは あんねんけど…さ」


「じゃあ〈猫又〉かどうか 判らへんのに あんな貼り紙 貼ったんですか?」


「……いや あの その…。普通のネコやないってゆーのは 解ってたよ? 曾祖父ひいじいさんの代から 生きてるらしいし。僕が生まれる前から 家にいたんは いたんやし。ただ 100歳超したんは つい最近で それまでは『ハイ』なんて言わなかったし それも『ニャア』を『ハイ』って聞き間違えてるのかと……」



 慌てた口調で 捲し立てるハルアキさん。



「でも ネコって そんな百年も生きひんでしょ? そもそも なんでそんな長生きなんです? なんか理由があるんちゃうんですか?」


「そっ それに関しては 曾祖父さんから代々申し送りがあって……」



 そう言ってハルアキさんが ボソボソ話し始めた内容は 今までの話に輪を掛けて〈トンでも〉な内容だった……。

 ………。

 ……。

 …。


 


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