会談
俺と一樹兄貴は郷田家の広い庭を歩きながら、次の策について静かに話し合っていた。
俺は深いため息をつき、真剣な表情で一樹兄貴に向き直った。
長い旅路、そして血塗られた大谷家での出来事が、俺の心に重くのしかかっていた。
一樹兄貴のための嫁探しの旅は、想像以上に厳しいものとなってしまったが、報告をせねばならない。
太陽が沈みかけ、空が薄い紫色に染まる中、俺は先に切り出した。
「兄上、まずは伊達家の玲奈殿のことです。」
俺は言葉を慎重に選びながら、玲奈について話し始めた。
「玲奈殿は、世間では『醜女』と呼ばれているようですが、俺が見た限り、彼女は心が美しい女性です。彼女との結婚は、郷田家にとって非常に有利です。伊達家を、盟友とすることができれば、郷田家の立場も強化されます。」
俺は一瞬躊躇したが、勇気を出して続けた。
「実は、兄上...俺は玲奈殿のことを美人だと思っているんです。」
そう言いながら、俺は懐から玲奈の姿絵を取り出し、一樹兄貴に見せた。
一樹兄貴は驚いた表情を見せた。
「美人だと? 隼人、お前...」
「はい。俺の美的感覚が他の人とは違うことは自覚しています。剛蔵や勇太からは『ゲテモノ喰い』と揶揄されていたほどです。」
俺は少し寂しそうに微笑んだ。
「今は亡き二人に、そうからかわれたことを思い出すと、なんだか懐かしくて...」
一樹兄貴は玲奈の姿絵をじっと見つめながら、俺の言葉を静かに聞いていた。
「確かに、玲奈殿の容姿は我々の美の基準とは異なるな。だが、お前がそこに美しさを見出すのなら...それも一つの見方かもしれない。」
俺は頷き、続けて琴について話し始めた。
「そして、大谷家の琴殿。彼女は武勇にも秀でており、まさに兄上にふさわしい女性だと感じました。相撲では鬼人の豪傑レッドルを倒すほどの実力を持ち、さらに社交性にも長けています。彼女の強さと明るさは、きっと郷田家にとって大きな助けになるでしょう。」
琴の名を聞いて、一樹兄貴の表情が明るくなった。
その様子に、俺は兄貴の心が既に決まっていることを悟った。
一樹兄貴は静かに口を開いた。
「隼人、正直に話そう。私は琴に惹かれている。彼女の強さ、そして優しさ。それに、大谷家の危機を救うためにも、琴と共に戦うべきだと考えている。玲奈殿との政略結婚は確かに有利だが...今の私には、琴以外の女性を考えることはできない。」
俺は一瞬驚いたが、すぐに理解を示すように頷いた。
「兄上の気持ちはよくわかります。実は...俺にも提案があります。」
一樹兄貴が興味深そうに目を向けると、俺は続けた。
「俺が伊達家に婿入りし、玲奈殿を妻に迎えてはどうでしょうか。俺は彼女の内外両面の美しさに惹かれています。そして、この形なら郷田家と伊達家の同盟も維持できます。」
一樹兄貴は驚きの表情を見せた後、真剣に考え込んだ。
「隼人...それは本心か?」
「はい。玲奈殿は俺が守り、支えたいと心から思える方です。そして、これは郷田家と伊達家双方にとって良い選択になるはずです。」
一樹兄貴は長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「わかった。お前の決意を尊重しよう。そして、私は琴と共に郷田家の未来を築いていく。まずは大谷家の危機を救い、翼を討つことが先決だ。」
俺は安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうございます、兄上。俺たちで必ず勝利を掴みましょう。」
俺たちは固く握手を交わし、新たな決意を胸に刻んだ。
郷田家の未来、そして大谷家との戦いに向けて、兄弟は共に歩み始めるのだった。
一ヶ月後、郷田家と伊達家の領境にて、緊張感漂う会談が行われていた。
風は冷たく、冬の気配が近づいている。
俺たち郷田家からは一樹兄貴、俺、そして絢子様が参加。
伊達家からは秀隆殿、玲奈、亜人傭兵団の指揮官ブルードンが同席していた。
今日は、両家の今後の関係、そして政略結婚について話し合う重要な日だ。
会談が始まると、まずは秀隆殿が口を開いた。
「今日は両家にとって大切な話し合いをする時だ。特に玲奈の婚姻について、そして今後の同盟の強化について話し合わねばならん。」
俺は、旅を通じて玲奈の人柄や伊達家の現状を見てきたことから、その結婚話がただの政略ではないと理解していた。
そして玲奈がただの駒として扱われるべきではないことも心に刻んでいた。
「玲奈殿については、旅の間に多くを学びました。」
俺は一樹兄貴に向かって真剣に語る。
「彼女は、優れた女性です。彼女の心の強さ、そして家族を思う気持ちは尊敬に値します。」
一樹兄貴は俺の話に耳を傾け、静かに頷いた。
そして、決意を固めたように口を開いた。
「秀隆殿、玲奈殿、まず私の本心を申し上げます。」
一樹兄貴は真っ直ぐに秀隆殿と玲奈を見つめた。
「私には、既に心に決めた人がおります。大谷家の琴です。」
場の空気が一瞬凍りついた。
秀隆殿の表情が曇り、玲奈は静かに目を伏せた。
「一樹殿...」
秀隆殿は言葉を選びながら続けた。
「両家の同盟関係を考えれば...」
しかし、その時、俺が一歩前に出た。
「秀隆殿、俺から一つ提案させていただきたい。」
俺の声は落ち着いていながらも、強い決意に満ちていた。
「俺が玲奈殿を妻に迎え、伊達家に婿入りする...それは、いかがでしょうか。」
その言葉に、一樹以外の全員が驚きの表情を見せた。
特に玲奈は、思いもよらない展開に目を丸くした。
「隼人...」
一樹兄貴は俺の決意の深さを感じ取りながら、静かに見つめた。
「俺は旅の中で、玲奈殿の本当の美しさを知りました。」
俺は玲奈に向き直り、真摯な表情で語り続けた。
「玲奈殿の優しさ、強さ、そして家族への愛...それらすべてが、俺の心を動かしたのです。政略だけではない、本心からの申し出です。」
玲奈の頬が僅かに赤みを帯び、彼女は俺をじっと見つめた。
秀隆殿は腕を組み、深く考え込んだ。
「隼人殿...それが本当の気持ちなのか?」
「はい。俺は玲奈殿と共に、伊達家の未来を支えていく覚悟があります。そして、それは郷田家と伊達家の絆をより強固にする道でもあるはずです。」
秀隆殿は長い沈黙の後、ゆっくりと頷いた。
「わかった。隼人殿の誠実さ武勇は、先般の当家への訪問の際によく分かっている。玲奈、お前はどう思う?」
玲奈は一瞬の躊躇いの後、静かに、しかし確かな声で答えた。
「父上...私は、隼人殿を信頼しています。彼となら、きっと...」
その言葉に、場の空気が柔らかく変化した。
一樹兄貴は満足げに頷き、絢子様も安堵の表情を浮かべた。
「では、これにて話はまとまったな。」
秀隆殿は声に力を込めた。
「隼人殿が伊達家に入り、玲奈と結ばれる。そして両家は、より強固な同盟関係を結ぶ。」
最後に、ブルードンが前に出た。
「一つ報告させていただきたい。」
彼の表情は厳しく、声には怒りが滲んでいた。
「大谷家でのブラッドとレッドルたちの死...。これは、決して許されることではない。私たち亜人傭兵団も、必ずや翼を討つべく、全力を尽くす所存です。」
一樹兄貴は真剣な表情でブルードンを見つめ、力強く頷いた。
「ブルードン殿の言う通りだ。まずは翼を討ち、大谷家の危機を救わねばならない。そのためにも、今日の同盟強化は大きな意味を持つだろう。」
こうして会談は、予想とは異なる形で、しかし双方にとって望ましい形で締めくくられた。
郷田家と伊達家の新たな絆が結ばれ、そして翼との決戦に向けて、着実な一歩を踏み出したのだった。
会談後、一樹兄貴は俺と二人きりになった時、静かに俺の肩に手を置いた。
「隼人...ありがとう。お前の決断に、心から感謝している。」
「いいえ、兄上。これが俺の本心です。そして...」
俺は微笑んだ。
「兄上と琴殿のことも、心からお祝いしたいと思います。」
俺たち兄弟は互いに頷き合い、それぞれの道を歩み始める決意を新たにしたのだった。
戦国武家かと思ったら異世界!?この修羅の国でどう生き抜けと!? モロモロ @mondaru
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