それぞれのハロウィン
花森遊梨(はなもりゆうり)
肝心な部分が同レベルな二人
ブラックベリーが腐ってしまった。
せっかくコフ卜コにタカと電車で行って買ってきた貴重な果物が、たった5日間冷蔵庫に入れたせいで半分近く腐ってしまった。だが、そんなブヨブヨになったくらいで諦められるか!うん、ブヨブヨのべと甘さの奥にアルコールみたいな香りを感じる。まだ腐っていないベリーの甘酸っぱさとのシナジーでいくらでもおいしく食べられそうだ。
そもそも腐った果実を食べる動物や虫は多い、ヒューマンだってホモ・サピエンスである。
「痛った‼︎何するのタカ‼︎」
学校指定のオイモジャージで腐った果実を貪る少女は
「腐ったものをいかにもご馳走みたいな顔して食べんな‼︎」
えんじ色の学校ジャージだった。美しい黒髪やかわいい顔、しかし操を叩いた手の脂肪の少なさがその性別を物語る。
彼は
「でもさ、捨てる前に一つだけ
「全く…あ、意外とおいし?」
「でしょ?」
二人が食べているのは腐ったブラックベリーである。魂のレベルが同列とはこのことかもしれない。
ハロウィンとはやたら露出の高い恰好をしてヒトのオスとメスが有性生殖でもおっ始める人間の繁殖期か、威圧的な恰好をして「菓子をくれ、さもなければ渋谷に行って悪戯するぞ」という悪魔や悪霊のシノギを人間が奪うせいで結果的に同じ被害を生じさせている悪魔歓喜の暗黒行事とばかり思われがちだ。
ハロウィンを楽しむことが目的なら、慣れない仮装をして慣れない渋谷に行って「知らなかったのか?野外での(ピー)一回はチョメチョメの数に入らない!」と厳つい異性に物陰に連れ込まれてメタルキング並みの余計な人生の経験値を得て大人の階段を3レベルくらい上げてくるより「それぞれ楽しめるハロウィン」を計画すべきなのだ。よって、まず一番大事なのは気のおける者たちだけでやることだ。
そして本来のハロウィンとは収穫祭。秋の実りを味わう行事である。だから二人で秋の食材をお料理して過ごすのが一番、これこそが二人のハロウィンと言える。
操が作るのはカボチャのアイスクリーム
潰したカボチャをアイスに混ぜて冷凍庫に放り込むだけ。元々は幼稚園の幼稚園児向けの本に書いてあった製法であり、あれから10年以上経ったいまでも立派に通用する
「そんな高級アイスクリームを混ざるだけのくだらない工程に使うとは!」
鷹斗が作るのはサツマイモのアイスクリーム
こちらは牛乳と生クリームと砂糖と卵を混ぜ合わせて、最後にあらかじめ潰しておいたサツマイモと混ぜて冷凍庫に入れるだけ。
要は「この料理を作ったのはアタシだよ!」と冷蔵庫が意思を持ち喋り出したら明け渡さざるを得ないレベルで冷凍庫に依存し切っている。
「アイスクリームにそんな高い卵を使うの!?平飼いのナチュラルエッグなんてご飯にかけるのが一番美味しいのに!!」
お互いにアイスクリームが大好きだし、お互いに理解できないこともある。
NEXT料理
公園で拾ってきた野生の栗のマロングラッセ
「金曜日に学校に行っただけでこんなになるとは…」
栗の入っていた袋いっぱいにうねうね革命。
煙で燻されることも、お湯で煮られることもなかった野生の栗から虫が脱出イリュージョン。
「せっかく集めてきた栗をたかがイモ虫くらいで諦めたくない」
「だな。そういえばハロウィンは動物の犠牲を捧げていたらしいし」
んん?
「基本はフライドポテトと一緒。塩は揚げてから振る。」
操が鍋の中に入れたサラダ油を煮えたぎらせ、鷹がその中に生きたままの栗虫をドバドバと注ぎ込んでいく。
虫などの一般受けしない食材を食べるのには「焼き」をイメージするかもしれないが、これは食感、苦み、悪臭といった青空ゲロの要因をカバーできない場合も多い。その点、「揚げ」は全てをカバーする。という知識は操から授かった。
「やばいぞ、形はイモムシなのに不覚にもパチパチ鳴る音はホントにポテトっぽい」
「ビジュアルに不満があるなら、やっぱりグチャグチャに潰してから団子とかポテトチップみたいなユニバーサルデザインにしておけば」
「その作業中にこっちは間違いなく吐く自信があるんだよ。虫を潰すとか軽めの虐待になるじゃあ?」
油の中から好き上げられ、ずらずらと並べられる栗虫の素揚げ
表面からぬめるような黒い光沢がなくなったのを覗けば、ほぼ原形通りをキープしている。
鷹と操は顔を見合わせた。
行きたくはかいか、所かない事には先に進めない。あと冷めれば冷めるほど味は思いなるが
「一緒に食うぞ。三、二、一で行くぞ」
「「三」」
「「二」」
「「一」」
「ゼロ、でやっぱり食わなかったな!! 先に俺一人に食わせてモルモットにするつもりだったな操!!」
「かくいうタカもためらったでしょ!!! 私一人だけ生贄にしようとて!!」
二人は軽めの殴り合いになったが、それで本題から逃げられる訳ではない。
さて、栗虫の実際のお味は?
ー10月31日、今夜のクレイジーアイスTVは見逃せない!!
ー恐怖!ハロウィンの渋谷と臓器売買強盗集団!ー
「酒やタバコをやらない若者の臓器を根こそぎ奪い取れ!!」
「やあリア充くん、君のすい臓を頂戴?」
「心臓をプリーズ。嫌ならお前の死体からぶち抜くから手間が一つ増えるだけサ!」
「お前らの腹の中には非正規で一生働いたって手にできない金が詰まってる。門戸開放の時だ」
「ダメだ。こんな色の悪い肝臓、食用豚の腹の中から出てきたって食材にも使えやしない。エナジードリンクの飲み過ぎだな」
朽ち果てていくだけの下級国民は臓器として階層移動を果たし、上級国民の一部として生きられることを誇りに思え!!
そんなあまりにも傲慢かつ身勝手な思想で繰り広げられる鮮血の宴
「「「「「うわああああああ!!」」」」」
「確かにこの仕事は苦労も多いし返り血や悲鳴を浴びることも多いよ。だが、その分だけ確実に人に喜ばれる実業なのだ」
体は資本、守り切れるか日本人!
「.....意外といけるな栗虫」
「 マロン味のポップコーンみたい、山栗を食べてるからちゃんとおいひいんだね」
さつまいもとカボチャのアイスクリーム
栗虫の素揚げ
野菜室の奥から見つかった柔らかキウイベリーの盛り合わせ
こうしてハロウィンは過ぎていく
物騒なテレビ番組(フィクションです…よね?)
秋の実りの隣に腐った果実や虫の料理をならばえるという収穫祭だか悪魔崇拝なんだかわからない夜は過ぎていく。
それぞれのハロウィンの光景であった。
ー次の番組は千里眼松岡の実録ドキュメント「リンカン島とJKの教え。有坂紗奈と呼ばれた少女の謎」をお送りいたします。
それぞれのハロウィン 花森遊梨(はなもりゆうり) @STRENGH081224
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