第7話 大団円
今度、三つ目の死体が、また別のところで発見された。
今度は、そんなに古いものではなく、白骨化はされていたが、発見されたのは、約三年くらい前の死体だという。
この死体の身元は意外とすぐに判明した。
死体は、近くの医者の死体であり、これはハッキリと殺害されていたということであった。
ただ、一つ不思議だったのが、
「この死体には、首がなかった」
ということであった。
首がないのに、すぐに判明したというのは、比較的白骨化してから、まだ新しいということと、
「医者の失踪」
というものが、ある意味、警察と無関係だということではなかったからだ。
というのは、
「この医者というのは、元々は、まともな開業医だったのだが、一時期、不正に手を貸したことが分かったことで、経営が紛糾し、
「病院を閉めるしかない」
と言われたくらいであったが、細々と町医者として経営をしていたことで、何とかなっていたように見えたのだ。
もっとも、それも、昭和の終わり頃のことで、バブルが崩壊し、世の中が混乱を極めていたことだったので、そんな中で何とか生き残っていたのだった。
しかし、それも、
「裏の商売」
ということで、何とかやっていた。目立たないようにしていたのは、
「表に出ることのできない商売」
ということを中心に行っていたので、医者の立場というのも、
「目立ってはいけなかった」
ということである。
「裏の商売」
というと、
「非合法の手術」
を請け負ったり、
「やくざ関係の抗争で、拳銃で撃たれたりして負傷した人間の手当」
などということも、仕事の一つだったり、
「整形手術」
などということも請け負っていたという話だったのである。
その医者は、
「腕は確かにいい」
ということは間違いないということであった。
そのことがウワサになることはなかった。
もし、ウワサになってしまえば、やくざ関係にも困るというもので、
「闇での仕事」
というのは、お互いにありがたいということで、今まで営んでいたのであろう。
そのことを、警察も把握していた。
といっても、ほとんどの課が知っているわけではない。
「暴力団関係」
の部署の人たちには周知のことであったが、刑事課をはじめ、それ以外の課では知られることのないことであった
その中でも、一部知っている人がいたのだが、それが、
「生活安全課」
というところであった。
その生活安全課の主任と言われる人だったのだが、
「一身上の都合」
ということで、ここ最近辞めたのであった。
その詳しい理由に関しては、正直誰も知らなかった。
上司である課長も知らなかった理由で、本人がかたくなに、
「一身上の都合」
ということだったので、それ以上詮索することもできず、辞表を受け取るしかなかったのであった。
もっとも、家庭に事情があったのは間違いないようで、
「奥さんが、最近病気になり、入院したことで、付き添いを必要とした」
ということもあった。
それは、上司にも相談していたことであったが、だからといって、上司が何とかしてくれるわけでもなく、警察が個人の事情を考慮するわけもなく、
「辞めるしかなかったんだろう」
ということで、
「退職を余儀なくされた」
ということでもあった。
本人は、
「アルバイトでもやって食いつなぎます」
ということであったが、それも、無理なことではなかった。
ただ、年齢的には、50歳を超えているので、その状態の中で、こちらも、細々とやっていたのだ。
そんな彼が、今回白骨死体で発見された医者と交流があったということが分かった。
いろいろ調べてみると、
「彼が刑事の頃から、馴染みがあった」
ということであるが、
「どれくらいの間柄だったのか?」
ということは、誰にも分からなかった。
生活安全課の刑事と、
「怪しい町医者」
ということで、
「不思議な関係」
であることは間違いない。
生活安全課をその男が辞めてから、一年半くらいで、生活安全課にいる頃から、実はこの医者の失踪に関しては分かっていたのは、医者がいなくなったことを、看護婦から相談されていたからだった。
だが、
「私は生活安全課なので、失踪事件にかかわることはできない」
ということを言って、結局、ありきたりではあるが、
「捜索願を出してください」
としか言えなかったのだ。
「捜索願ですか」
と、看護婦が渋っていたが、結局、
「それしかない」
ということが分かったのか、結局、
「出すしかない」
ということで、捜索願を出した。
それも、
「捜索願を出しても、警察は事件性がないと動かない」
ということを聞いて、出したようなものだ。
生活安全課の刑事が、どこまでこの医者のうさん臭さを知っていたのか看護婦には分からなかったが、看護婦は、
「医者の悪行」
というのは分かっていたのだ。
それでいて、彼女が不安に感じていたのは、
「医療の内容というのが、胡散臭いことが多すぎる」
というのを、一番分かっていたことで、
「いつか、こんなことになるのではないか?」
と思っていたのだ。
「半分は、何かの事件に巻き込まれていて、死んでしまっている可能性も否定できない」
と思っていたのだ。
「結局、白骨死体で見つかった」
ということで、病院は、開店休業状態。白骨死体が発見された時は、看護婦はすでに他の病院で勤務していて、警察から、発見されたということを聞かされた時、本人とすれば、
「ああ、やっぱり」
と考えたようで、それほど驚きもなかったようだ。
刑事は、一つの、
「歴史上の話」
を思い出していた。
それは、
「本能寺の変」
であったが、その話を聞いた時、一つ考えたのは、
「織田信長の首」
という話だった。
これは、
「三つ目の現場で、死体の首がなかった」
ということを聞いた時、この、
「本能寺の変」
という話でも、首が問題になったということを思い出したのだ。
というのは、信長が、もうダメだと思った時、奥の間に引きこもって、家臣の、森蘭丸に対して、
「わしの首は絶対に敵に渡すな」
といって、本能寺に引きこもり、火をかけたというのであった。
ここには大きな意味があり、
「首が相手に渡らない」
ということは、いくら謀反人が、
「相手を滅ぼした」
といっても、その首という証拠がないのだから、何の説得力もないのだ。
というのも、もし、打ち取ったとしても、必ず、他の家臣がこちらを討とうと狙ってくるのは分かり切っていることで、何しろ、謀反人の方だって、相手の勢力の殲滅を図るわけであり、それができて初めて、
「下剋上」
が成立するわけである。
つまり、
「首実検がなければ、誰もついてこない」
ということで、
「いくら、俺が主君を討ち取った」
といって、自分の方につけといっても、誰も従わないだろう。
しかも、
「ひょっとすると主君が生きていたら」
ということを考えると、簡単に謀反人に就くこともできない。
それを考えると、いくら自分の家臣であったとしても、元々は、その上の人物の家臣なのであって、謀反人についてしまうと、結果、自分の身を滅ぼすことになる」
ということになり、その結果が、
「天下分け目の天王山」
と言われる
「山崎の合戦」
だったのである、
あの戦で、羽柴秀吉が勝利できたのは、
「中国大返し」
や、
「人心掌握術」
というよりも、それ以上に、
「信長が、自分の首を相手に与えなかった」
ということに尽きるのかも知れない。
それを思い出した刑事は、
「首がないということは、医者が死んでいない」
ということへの示唆なのではないかと考えたのだ。
「医者は生きているかも知れない」
と思うと、他の白骨死体は、
「保険金詐欺」
で行方府営になった人で、死体が見つかることは、最初からの計画だったのかも知れない。
そして、その死体が見つかることで、
「保険金詐欺ではない」
ということを決定づけることだと犯人側が考えたとすれば、その計画に危機感を覚えた医者が、身を隠すという意味と同時に、相手の組織に、
「プレッシャーを与える」
という計画があったのではないか?
と考えた。
これを想像できたのは、最後の白骨が見つかった際に、首の部分に箱が埋められていて、その箱の中には、紙に書かれた、
「本能寺の変」
という言葉があったのだ。
「なるほど、早く見つからなければいけない理由は、紙に書かれた文字が見えなくなる前ではなければいけないということか」
と警部補が考えた時、警部補には、事件の全容が見えたのだった。
事件はほどなく解決したが、今回の事件で、逮捕したのは、
「保険金詐欺の連中」
だけであった。
しかし、彼らには時効が成立していて、逮捕はできない。
医者も、生きていたので、殺人事件でもない。
せめて、他人の死体を埋めて白骨にせしめただけなので、こちらも、時効なのかも知れない。
そうなると、
「事件ではない」
ということであるが、そのおかふげで、犯行グループは信頼を失い、結局潰れることになったのだ、
それを思えば、
「なんちゃって犯罪だ」
といえるのではないだろうか?
( 完 )
なんちゃって犯罪 森本 晃次 @kakku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます