第6話 別の城での犯行
白骨死体が、城址公園で発見されたということが新聞に載ってから、
しばらくの間、ウワサが絶えなかった。その理由はいくつかあるのだが、最初の頃の理由として、
「被害者が誰なのか、見当もつかなかった」
ということからであった。
確かに、その死体は、白骨化されていて、白骨化された死体というものが、
「どうして、今になって整備された後の公園から発見されたのか?」
ということであった。
どうも、
「犬が掘り起こした」
ということであるが、その城址は、他の城址に比べて、
「一番新しく復興されたもので、開発には、結構時間もかかった」
ということであったので、
「死体を埋められたのは、発掘以前だということはありえない」
ということになる。
何といっても、新しく整備された公園なので、新しく整備をする時は、当然土質というものも、しっかり調査し、ある程度のところを掘り返したはずである。
昔は、この辺りは、森や林だったわけで、そこを、城址公園として整備するのだから、当然のごとく、しっかりと調査もしているはずである。
それを考えると、
「もし、死体が埋まっているとすれば、それを見逃すわけはない」
ということになる。
「そもそも城址公園の復興なのだから、整備をする前に、学術調査が行われているはずなので、死体があれば分かるはずである。
ということだった。
いまさら、
「犬がその死体を掘り起こす」
などということがあるはずもないのだ。
そんなことがあるということであれば、
「死体が埋められたのは、整備された後ではないか?」
ということであった。
それであれば、
「犬が掘り返した」
ということも分かるというもので、しかし、逆に、その死体が埋められたのがいつなのか?ということになるのだが、
「腐乱というのもかなりのもので、10年以上が経っているというのは間違いないことであるが、それが、公園整備の前か後かということは、限定できない」
ということであった。
それでも、状況から考えると、
「埋められたのは、整備後だ」
と考える方が辻褄が合っている。
そう思うと、
「どうして、ここだったのだろう?」
ということが疑問になる。
なぜなら、
「他に古い城址公園というのが、あと二つあり、そっちの方が、見つかりにくいのではないか?」
と考えられたからである。
ただ、犯人としては、
「ここまで長く埋まっていれば、被害者が誰なのかということが分からないほどに、昔のことだ」
と考えれば、
「まさに、犯人の思惑通りだ」
ということになるのではないだろうか?
ただ、それでも、今頃になって、しかも、
「犬が掘り返した」
というのは、何か腑に落ちないところがある。
犯人としては、死体を埋めて。そして、白骨になるのを待っていたのだろうが、一番いいのは、
「発見されないに越したことはない」
ということいなるであろう。
ただ、この被害者は、白骨化してから、少なくとも10年は経っているということであろう。
ということは、法律的には、
「死亡している」
ということになる。
というのは、
「失踪届を警察に提出し、7年が経過すれば、死亡したということになり、そこから遺産想像族の問題が動き出す」
ということである。
そもそも、失踪していた人間が行方不明になり、7年経って、死亡が確定したことで、遺産相続されるということになれば、
「民法上は、死亡しているということになるが、もしこれが殺人事件などの刑事事件が絡んでいるとすれば、刑事上の話は継続している」
といってもいい。
殺人事件といえば、昔であれば、
「時効は15年」
ということであった。
しかし、今の時代は、
「凶悪犯になると、時効は撤廃された」
ということで、犯人が死ぬまで、時効は止まらない。
ということになる。
しかも、昔の時効があった時など、
「海外に逃亡していた」
ということであれば、
「その間は、時効が停止する」
ということであった。
止まった時効というのは、つまり、
「逃亡中に2年間、東南アジアに潜伏していたとして、時効が15年ということで、日本のどこかで捕まった場合は、実際には、あと2年時効までには、存在する」
ということである。
そのことを、意外と分かっていない人もいたようで、刑事ドラマに使われたりするのだろうが、
「さすがに本当の犯人は。それくらいのことは計算していないと、犯罪などできるはずもない」
ということであり、
「最初から捕まるつもりでもない限り、時効などの、犯罪が失効する時のことは、しっかりと考えているといってもいいだろう」
だから、昔であれば、
「死体が見つからない」
ということは、
「時効までの間、自分が隠れていればいい」
ということになるのだが、その間の、
「節目」
ということで考えられるのが、
「ちょうど、民事と刑事の間に存在している、
「7年という年輪というものである」
ということになるのではないだろうか?
そういう意味では、
「半分までの折り返し地点で、刑事事件として集中するようになると、犯人が、少し油断のようなものをするかも知れないといえるのだが、警察は、民事不介入なので、事件をお宮入りさせたくない」
という人がいたとすれば、その人を、
「無視することはできない」
ということになるであろう。
時効と死亡認定と、難しい心理の問題なのであった。
今度は別の犯行が発覚した。その犯行は、同じように、城址公園から発見されたものであり、白骨化されたものだった。
同じ刺殺であり、同じように、犬が掘り返したということが、共通点だった。
ということで、
「実に不思議な犯行ではないか?」
ということで、犯行に対して、賛否両論があるのだった。
「犯行は、同一犯によるものだろうか?」
ということ。
発見され方から考えれば、
「同一犯の可能性が高い」
と思われるが、それがかなり昔のことであり、犯行が同じ時期なのか、まったく違う時期なのかということを考えると、
「同じと考えると、おかしなところが多すぎる」
という考え方と、
「あまりにも似通っているのが、却っておかしな感じがする」
ということを考えると、一周回って、
「何か仕組まれた計画を思わせる」
という考えにも向かうのであった。
捜査本部としては、
「発見され方が同じだった」
ということに注目して、
「犯人とすれば、発見されないと困る」
という考え方だったのだろうか?
そんな中で考えられることとして、
「発見されないといけないのだろうが、それが、ある程度時間が経ってからでないといけない」
ということである。
もっといえば、
「今回の白骨死体というのは、死亡推定時刻の推定から考えると、10年以上が経過しているということになるのだろうから、少なくとも、民事上とかでは、すでに、死亡しているということになっているはずだ」
ということであった。
ただ、白骨化した状態で発見されて、しかも、その本人が死亡しているということになっているのであれば、そこに、どんな問題があるというのだろうか?
一人の刑事が、逆の発想ということで、
「今回の事件は、同じ犯人によるものだということを我々に暗示させているように感じるのだけど、本当であれば、そういうわけではなく、まったく関係のない事件を、関係があるかのように偽装した犯行ではないでしょうか?」
という意見が出た。
「そこに、どんな目的があるというんだ?」
と聞くと、
「そうですね、私が最初にこの手の事件で考えることとすれば、基本的に、死体は発見されないと困るが、あまり早く発見されてしまうと困るということだったんですよね」
というのだ。
「なるほど、それは分かる気がする」
と、捜査本部の現場の指揮を執っている警部が、そういった。
すると、発言の刑事がさらに続けて、
「死体が発見されなければ困るという犯行として何が考えられるかということで、一つは、保険金詐欺ではないかということが一番最初に頭に浮かんだんです」
というと、
「それが偶然続くということなのかい?」
と、警部は、
「疑問点をただ指摘しただけなのか?」
それとも、
「自分の考え方を確かめたい」
という気持ちからなのか、そう思って聞いてみた。
「そうですね。これが組織的な犯行であるという想像は禁じえませんね。今回のように似たような発見され方をしたことに何か、人の意志というものが働いていると思うからですね」
と答えたのだ。
「そうだな。人の意志がそこに働くことで、事件は計画性を持つことができるわけだが、我々捜査員からすれば、その人の意志が共通性となり、捜査の糸口となってくれることを望んでいるわけなので、そこから、捜査というものが、続いていく。そういう意味では今回の、この二つの事件には、何か共通性があると思って、まずは捜査をするという必要があると思うわけだ」
と警部は言った。
そこで、本部長も、
「そうですね、今回の事件は、分からないことが多すぎるわりに、共通性のようなものがある。そこに、人の意志が働いていると考えると、そこが解決の糸口になるということではないかと思うと、捜査の方針をいきなり絞るのは危険であるが、まずは、できることや考えられることから、パズルのピースを当てはめていくしかないということになるのではないでしょうか?」
と言った。
今回の本部長は、普段から冷静な口を利く人で、命令調というのは、あまり口にする人ではなかった。
しかし、肝心な時には、締める時は締めるということで、県警本部でも、
「若いのにやり手だ」
と言われていた。
部下からの信頼も厚く、ただ、引き締める時の役目は、前述の警部であり、
「あの警部がいるから、本部長の敏腕ぶりが発揮されるということなのだろう」
と言われるのであった。
ただ、この警部は、今回の事件で、他の刑事、特にベテラン刑事であれば、分かっていると思われる事件を気にしていた。
しかし、それをあえて口にすることはなかった。それが、捜査に、固定観念であったり、事件性というものを別にゆがめてしまうということになりはしないかというのを考えることで、
「ハッキリと口にできないことを、個々で分かってくれていることを望む」
と思いながら、捜査本部での発言も、気になっているところは、口調を少し荒げたり、何度か念を押すかのように口にしたりということになるのであった。
「今回の事件は」
と、何度言いたいと思ったことか。
ただ、この話をすると、話が長くなる」
ということと、
「それぞれに、考え方があることで、あまり捜査本部で話題にすると、それぞれに先入観を持った捜査になるということを怖がっている」
ということであった。
警察というところは、どうしても、捜査本部の意志がすべてに働いて、それが一人の意見を押し殺すことになる。
いくら、そちらが正しいとしても、一度決まったことは、それを覆す、
「動かぬ証拠」
でもない限りは、
「一度決まった方針」
というものに逆らうということは、
「たとえ管理官であっても、許されることにあらずで、その人は、捜査から外れなければいけない」
ということになる。
下手をすれば、
「査問委員会」
というものに掛けられて、
「有罪」
ということになると、
「懲戒処分」
というものが与えられないとも限らないだろう。
それが警察という組織であり、警察内部においての、
「基礎になることである」
といっても過言ではないだろう。
警察というところは、しょせんは、
「公務員」
ということで、その厳しさは一番であり、つながりというよりも、メンツであったり、規則を重んじるといってもいいだろう。
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