第5話 死体発見

 この日は、どこか普段と違って、

「いつもよりも、アベックが少ないな」

 と、若い警官は感じていたのだった。

 いつもであれば、ほとんどのベンチは座っていて、たまに開いているところがあるのではないかという程度のものであった。

 実際に、アベックの声もほとんど聞こえず、

「覗きの常習犯」

 としては、

「今日はやりにくいな」

 と感じていたことだろう。

 昔であれば、公園のベンチでは、大胆になれるというカップルが多かったのだろうが、今では、そんなこともない。

「声が聞こえないだけに、不気味さはぬぐえず、覗きの中には、

「なんだ、つまらないな」

 と思っている人もいる。

 別にお金が手に入るわけではないので、それほど真剣になっているわけではないが、

「ちょっとした楽しみ」

 ということで、一種の、

「風物詩」

 のようになっているといってもいいだろう。

 そんなアベックの中の一人が、

「キャッ」

 という言葉を挙げた。

 声の感じから、声を出したのは、女性のようだ。

 男の方はというと、完全に身体が固まっているようで、声を出すことができなかったのだろうか?

 女性の方は、本当は、

「声を立てることなどできるはずはないのに」

 と後から思えば、そう思ったのだろうが、しかし、あの時、男の方が声を立てていれば、

「私は声を出すことはなかったはずだ」

 と思ったものだ。

 声を出したのが、女性だったことで、まわりにいた、

「覗きの常習犯」

 という連中は、まるで、

「クモの子を散らす」

 かのように、散り散りに去っていったのである。

 覗きなとというと、

「常習犯」

 といっても、しょせんそれくらいのもので、その時に何が起こったのか、覗きの連中で、把握をできた人など、いるはずもないのであった。

 その時の女は、必至になって、

「声を立てないようにしよう」

 と思っていたことで、実際に、その声は小さなものだったのだろうが、何といっても、静かな公園に反響したのだから、声は大きく感じられたであろう。

 しかも、その時は、夏の虫と秋の虫とが、その声のコントラストを描いていた時であったので。その声の大きさに関係なく、虫の声との反響が、その場の緊張感を極限まで保たせていたことで、覗きの連中は、

「どういう声が聞こえてくるのか?」

 ということは、想像していたのだ。

 というよりも、

「そういう声を聴きたい」

 ということを自分たちで想像し、

「その声が、どのような声なのか?」

 ということを想像していることで、その声が少しでも想像と違っていると、急に我に返って、

「クモの子を散らす」

 というのも、当たり前のことであろう。

 それは、そのあたりを統括している、

「常習犯の中の常習犯」

 であっても、同じことで、却って、

「そんな男ほど、最悪に、

「一目散で逃げるに違いない」

 ということである。

 何といっても、

「その場で逃げ出すか逃げ出さないかということは、

「覗きというものが、どのような罪であるか?」

 ということと、

「その罪と、捕まってからの自分たちの将来とを比較すれば、これほど割に合わないことはない」

 と思っていた。

 覗きの連中には、

「覗かれる方も、それを期待している」

 という思いがあるのだ。

 そうでなければ、何もくそ暑い公園などに出没する必要などないであろう。

 というのも、

「蚊に刺されたり、暑いという思いをしながら、夜の公園で、わざわざイチャイチャすることもない。俺たち、覗きの存在も分かっているだろうからな」

 ということであった。

 もし、これが痴漢のように、触られる危険性があれば、怖いだろうが、そんなことが起これば、警察も黙っていることもないので、もっと大々的に警察連中も、警備に余念がないに違いない。

 しかし、覗きというのは、確かに犯罪ではあるが、決して相手が嫌がるような、接触を試みるということはしない。

 あくまでも、

「相手が見てほしいと思っているから、覗いでいるだけのことで、これは、一種の人助けなのだ」

 と考えているのであった。

 警察からすれば、

「そんな都合のいい犯罪などあるものか」

 と思っている。

 それは、

「覗きが犯罪だ」

 と思っているからで、そうなってしまうと、

「覗きを犯罪だと認定する警察」

 と、

「覗きは人助けだと認識している覗き連中」

 ということを考えると、それは、

「交わることのない平行線」

 というもので、彼らは、もし警察に捕まったとしても、

「俺たちは何も悪いことはしていない」

 という思いが強いであろう。

 初めて捕まったくらいでは、初犯ということもあり、

「事件として扱われることもない」

 というくらいかも知れない。

 だから、

「しょせんは、それくらいの罪なのだ」

 ということであるが、ただ、二度目はそうもいかない。

 完全に、

「痴漢」

 と犯罪的には変わらないのではないだろうか。

 といっても、刑事罰というほどのことではなく、

「迷惑防止条例」

 という、都道府県で制定されている、

「条例」

 というものがその罪状となり、捕まったとしても、起訴されるとしても、略式起訴ということで、実際の公開裁判というものが行われるということはなく、そのほとんどは、罰金刑ということで済まされるものであった。

 ただ、前科というものが就くことにはなるので、そこまでくると、さすがに、

「引退するか」

 と考える人もいるだろう。

 ただ、こういう犯罪は、

「常習性」

 というものがあるようで、

「薬物犯罪」

 と似たところもあり、その犯罪は、いわゆる、

「依存症的なところがある」

 ということで、

「なかなか改心することはない」

 という人も中にはいるようだ。

 特に、これが、

「痴漢」

 ということになると、再犯の可能性はグンと上がるということのようで、警察もそのことはしっかり把握をして、

「性犯罪の中でも、そこまでひどい犯罪ではない」

 ということを考えると、

「覗きというのは、なかなかなくならない」

 ということになるであろう。

 しかも、

「自分たちは望むことをしているのだ」

 と考えるのだから、それも無理もないことであろう。

 そんな中において、その日は、少し寒気を感じる日であった。それまでが、暑くて夜でも、熱帯夜が続くことで、アベックはもちろん、覗きをする連中も、いい加減きついと思っていたのであった。

 さすがに、そんな毎日を過ごしていると、少しでも涼しいくらいの方が、楽に思える、何よりも、

「夏の虫が鳴いているのを聞いている」

 というのは、辛さ以外の何物でもないと思っていたのである。

 秋の虫が聞こえるようになると、覗きの方も、

「一つの季節が終わった」

 と感じるのである。

 本当であれば、

「少しは涼しくなってくれてありがたい」

 という気持ちもあるのだが、実際に、覗きや痴漢の時期というのは、そんなに長い時期は続かない。

「季節もの」

 といってもいいだろう。

 というのは、そもそも、そのターゲットであるアベックが、寒くなってくると、表に出没することがなくなるからだ。

 確かに、

「見てほしい」

 という気持ちはあるだろうが、さすがに、真冬の寒い時期に、

「見られたい」

 という一心で、表でイチャイチャするわけもない。

 当然、

「不本意ながら」

 と思いながらも、ラブホテルなどにしけこむというのは、当たり前のことであろう。

 だから、涼しさを感じたり、

「夏の虫の声が聴けなくなる」

 ということになると、

「ああ、今年のシーズンも、だいぶ来てしまったな」

 ということになる。

 彼ら覗きの常習犯というのは、地域によって、違うのであろうが、ここでの出没者は、

「ホームレス」

 であったり、

「日雇い労働者」

 のような人もいるだろう。

 中には、

「生活保護」

 を受けている人もいて、特に生活保護を受けている人は、

「覗きというのがバレると、生活保護が受けられなくなる」

 ということで、彼らだけは、他の人たちとは一線を画している。

 つまり、

「君子危うきに近寄らず」

 ということで、毎日のように出没することもなく、ただ、自分の性癖を満足させるということだけにまい進するという感覚であった。

 だから、

「彼らほど、警察に対して警戒心が強い連中はいない」

 ということになり、逆にそんな連中を、覗きのグループは、

「引き入れたい」

 と思っている。

 警察への警戒心の強さが、覗きの連中には、他の犯罪に手を染めている人に比べてないからだ。

 なんといっても、

「覗きというのは、そんなに罪が重くはない」

 という感覚が強いので、甘く見ている人が多いということである。

「自分たちは、プロだ」

 というとおこがましいが、少なくとも甘く見ている連中ほどひどくはないと思っている人から思えば、

「生活保護の人たちの警察に対しての嗅覚というものを利用しない手はない」

 ということになるだろう。

 生活保護」

 を受けている連中は、

「世の中に少なからずの不満を持っている」

 いや、

「不満というよりも、恨みと言った方がいいかも知れない」

 生活保護を受けている人は、

「仕事がしたいのに、できない」

 という人たちのための制度であるはずなのだが、中には、生活保護費を、

「不当にもらっている」

 という人もいるという。

 それを考えれば、本当に生活保護をもらうべき人たちまで、白い目で見られ、しかも、

「仕事をしたいのにできない」

 というのは、

「身体障害を、事故か何かで患ってしまった人」

 であったり、

「会社に勤めていて、ハラスメントなどにあって、精神疾患を患い、ドクターストップを受けるようになった人から見れば、これほど理不尽なことはないと思うに違いない」

 ということである。

 何といっても、

「社会が悪いから、働きたくても働けない」

 ということになる。

 それこそ、

「どうして、この俺だけ」

 と思うのも無理もないことだ。

 実際に、その人を奈落の底に叩き落した人間は、ぬくぬくと仕事をしているのだから、これ以上の理不尽はないというものだ。

 今の時代は、そんなことがまかり通ってきて、ここ 20年くらいというところで、

「今になって、コンプライアンス違反だということになる」

 ということであった。

 そんな彼らとすれば、

「世の中を恨むな」

 という方が無理というもので、しかも、そんな、

「生活保護」

 という立場を利用して、金をせしめるという、とんでもないやつが現れたことで、

「一番の被害者は俺たちだ。ただでさえ苦しんでいるのに、これ以上何で俺たちが苦しまなければいけないんだ」

 ということになるのである。

 これは、

「受動喫煙禁止法」

 というものにも言えることで、

「そんな状況になってまで、愛煙家というのはいるのだが、彼らは肩身の狭い思いをしている」

 ということである。

 それなのに、そんな中に、

「ルールを守らずに、今までの立場を盾に、文句を言って、やりたい放題にしている連中を見ていると、ルールを守っている人たちまで、白い目で見てしまう」

 ということが、まかり通ってくるのだ。

 だから、

「ルールを守らない連中に対して一番腹を立てているのは、実は、ルールを守って吸っている、愛煙家たちではんあいか?」

 と言われるもの、無理もないことであった。

 生活保護者も、大多数が

「不当給付」

 というものを受けている連中に対して、真面目にやっている人が一番腹を立てるというのは、それこそ、

「道理に合っている」

 といってもいいであろう。

 生活保護の状態で、

「覗きをやっている」

 などというのは、本当であれば、

「ずるい」

 と言われても仕方がないだろう。

 しかし、

「覗き仲間」

 とすれば、そこで差別をしようという気持ちにはなれない。

 どちらかというと、

「覗き仲間という感覚が余計な偏見を持っているような気がする」

 ということで、

「来る者は拒まず」

 という意識から、相手がどんな人であれば、仲間になりたいと思えば仲間なのだと思っているのだった。

 きっとその感覚は、

「皆それぞれに、仲間意識が少しでもないと、寂しい」

 という気持ちであったり、孤独感が、自己嫌悪を払しょくさせるという感覚になるのだろうと感じるのであった。

 皆、

「自分だけではなく、皆、何かの正当性を見つけるために、共通点であったり、仲間意識というものだけを必死でつなぎとめるという意識を持っていないと、自分だけでは持たない」

 という思いが強いのではないかと思うのだった。

 そんな中において、いつの間にか、皆の中でそれぞれに仲間意識が出来上がっていて、その分、

「自分たちで、相性がぴったりだと思う人が決まってくる」

 というものであった。

 それは、

「他の人とは違う」

 と思いながらも、そこに罪悪感のようなものが秘められていることで、余計に、つながりの強さを求めようという気持ちから、惹きあうものを感じたいという思いから、罪悪感が、余計に、仲間意識を高めるという、

「捻じれた感情」

 というものが浮かんできていると思うのであった。

 だから、それぞれに行動も自然とペアが出来上がっていて、

「俺たちは、覗きをする中で、お互いに逃げることのできない十字架を背負っているんだ」

 という感覚があるということであろう。

 さすがに、

「十字架」

 というものをいかに背負うのかということを考えると、今度は、

「覗かれる方にも、こちらの正当性を保たせるだけの、信憑性のようなものを抱かせるというのは、無理のあることであろうか?」

 と考えられるのであった。

 何といっても、覗きをしていると、

「相手は覗かれたいと思っている」

 という、皆が感じている共通点について、実は、皆が一堂に返して考えたことではないのだ。

 というのも、

「皆それぞれで考えていることを、皆の前で披露することを、皆心のどこかで拒否しているのではないか?」

 といってもいい。

 あくまでも、言い訳になってしまいそうな感情は、

「皆で共有するよりも、一番相性が合う人と共有するのが一番だ」

 ということであった。

 それは、

「考え方が似ている」

 という感覚とは少し違い、

「似ているということが、共通点という意識と同じなのかどうか?」

 という考えとは、一線を画した考えではないか?

 といえるのではないだろうか?

 ということで、

「その日も、

「公園内で、それぞれが、他のペアを邪魔しようとさえしなければ、あとの行動はあくまでも、

「自己責任」

 ということになる。

 しかも、その自己責任というものを、犯罪がらみで、

「一人で負う」

 ということに恐怖を感じるということで、

「仲間がいて、その仲間と分かち合える」

 ということであれば、嫌ではない。

 昔の軍隊などでは、よく、

「連帯責任」

 ということで、

「規律を守ったり」

 あるいは、

「士気を高める」

 ということのために、必要だといえるのかも知れないが、裏を返せば、

「最初から責任を一人で負う」

 ということにしてしまうと、そのプレッシャーから押しつぶされることになるだろう。

 しかし、最初から、

「連帯責任」

 というのが、

「当たり前ということだと考えれば、そこに、無理のない考えが生まれる」

 ということになるであろう。

 何といっても、

「連帯責任だ」

 ということにしてしまえば、罰則のやり場に困ることはない。

 もし、教育の一環とまでしなければ、

「連帯責任」

 というのは、結局、

「何よりも、追い詰める」

 という考えに至るということに違いないというものではないだろうか?

 それを考えると、

「二人一組」

 で行動していると、他の仲間の口を割るというようなことはしない。

 さすがに警察としても、

「覗き」

 という程度で、昔の警察のような、拷問めいたことをするわけもなく、

「ある程度の時間我慢できさえすれば、無罪放免ということになり、その時はなかったことにできる」

 ということも可能であろう。

 もし、そこで警察の口車に乗って、自白でもしてしまうと、そこから、

「覗き集団」

 というものが秩序ごと壊れてしまうということになる。

 ただ、これらの覗き集団というのは、ある意味、

「警察の裏の情報網」

 といっていいかも知れない。

 下手に、警察が一網打尽などにしてしまうと、せっかくの街の情報であったり、裏組織の動きを探ってくれる、

「情報屋」

 という存在がなくなってしまうということで、

「それは困る」

 という、

「必要悪がなくなるのは、これほど悪いことはない」

 ということになるであろう。

 そんな覗き集団を大目に見ていたところで、警察とすれば、

「思わぬ発見があった」

 といってもいいだろう。

 アベックの女性側が叫んだ声が、人払いとなり、覗き軍団までいなくなったところで、取り残されたのは、

「何かを発見して、奇声を上げてしまったアベックだった」

 二人はその場あら立ち去ることもできずに、お互いに逃げだしたいのだが、腰が抜けた状態になったのか、お互いに抱き合ったまま、震えが止まらずに動くことができなかった。

 そこに警備の若い警官が訪れ、その異様な光景を目の当たりにしたことで、

「何かあったんだ」

 と直感した。

 普段であれば、

「抱き合っているカップルにかかわるなど、そんな野暮なことはしない」

 と思っていたが、

「ここは、職務質問しないわけにはいかない」

 と思い、急いで近寄ると、

「なるほど、これは恐怖で硬直しているんだ」

 と感じると、警官までもが、緊張で少しおじけづいているかのように感じられたのだった。

「大丈夫ですか?」

 と声をかけると、それまで固まって、抱き合ったまま身体を離すことができなかったカップルは、若い警官を見て、

「助かった」

 と言わんばかりのその表情は、それまでの身体の硬直に、いくばくか、楽になるおまじないを与えたかのようだった。

「お巡りさん。大変なんです」

 といって、女性が、その先を指刺した。

 夜のとばりが降りた状態で、申し訳なさそうに光っている街灯が、あたりを照らしていた。

 そもそも、そこまで明るくないところから、ここにアベックがやってくるようになったわけで、あまり明るくしないのは、

「お互いに顔が見えると、気まずくなるからだろう」

 ということで、

 最初から、

「アベックありき」

 で設計されているということだ。

「どうせアベックが集まってくるのであれば、一か所にいてくれる方がいい」

 というのは、誰の考えなのか、確かに警察としても、その方がいい。

 ただ、覗きの連中からしても、それは願ってもないことで、

「こんなことでは、覗きを煽ることになるのではないか?」

 ということであったが、

「覗き以上の犯罪が蔓延ってしまうのも困るし、さらには、人が散らばってしまうと、それだけ、汚い場所がいくつにも増えるということで、掃除の手間が増えるということは、それだけ人員を増やさなければいけないということで、それは、自治体からしても、困ったことである」

 ということなのだ。

 女性が指さしたあたりは、少し暗めのところで、街灯がギリギリ当たっているところであった。

 暗い部分と明るい部分が、ちょうど斜めの線を描いていて、気にしなければ、

「一切気にならない」

 という光景でもあった。

 しかし、彼女は、そのことに気づいた時、

「嫌なものを見た」

 と思い、

「見なかったことにしよう」

 と思ったのだが、それがどうしてもできないことで、次第に不安が募ってくるとことで、その震えが、相手の男にも伝わったのだ。

「どうしたんだい?」

 と男はまさか相手が、そんな大それたものを見つけたなどと思いもしない、

 というよりも、

「覗いているやつと目が合った」

 ということではないかと想像し、それ以外には考えられないというところまで行っていたのだ。

 しかし、実際に彼女の震えの大きさは、それまでの彼女の性格を把握しているつもりであいる自分からも、

「想定外の気がする」

 というものであった。

「一体、何を発見したというのだ?」

 と思い、後ろを恐る恐る振り向きながら、彼女の目線から、その物体の位置を確認しようとしたのだった。

 実際に、その視線がたどり着いたその先にあるものは、最初、

「少し大きな石がある」

 ということであった。

 しかし、不自然に中途半端な大きさの石であり、

「大きすぎることもなく、かといって、小さいというわけでもない」

 と思っていると、もう一つ感じた不自然さは、

「なんであんなに白いんだ?」

 と感じたことだった。

 まるで、観光地の日本庭園にある、石灰石をさらに磨いたかのような白さではないだろうか。

 でなければ、彼女が気づくことも、ここまでブルブルと震えるということもないだろう。

 その白さの原因を彼女は想像し、その想像が、

「悪い方にしか考えられない」

 ということを見つけた時、震えが始まって、今もなお、止まることがないところまで来てしまったということであろう。

 歪に身体をねじりながら、後ろを振り向いていたが、もうそんな状態ではない。彼女を振り払って、正面から見ないと、その正体を想像はできるのだか、本当にそれなのかを確認しないと、そこからまったく動くことができないということになってしまうのであった。

 それを思うと、さらに身体をねじり、力を持って、こちらに委ねる彼女を押しのけるくらいしないといけなかった。

 アイコンタクトで彼女を制すると、彼は思い切って身体を捩じると、その向こうに見える白いものが、

「俺の想像した通りだった」

 と思うと、またしても、寒気が襲ってきた。

「これは、この場を自分だけで収めることはできない」

 と思い、それだけに、まわりが、

「クモの巣を散らしてしまった」

 ということは、困ったことだったのだ。

 そんな時、

「大丈夫ですか?」

 とやってきたのが、警官だったことで、

「実にナイスタイミング」

 と二人は、まるで、

「地獄に仏」

 というものを見つけたような気分になったに違いない。

 警官も、二人に促されるように、ゆっくり見ていると、警官は、二人のアベックに比べれば、それだけの訓練を受けているということもあって、二人を制するように、その場に待たせておいて、自分はその白いものに近づいていった。

「ああ、これは、白骨死体ではないか」

 ということを、途中ですぐに分かったのだ。

 白骨死体というものが気持ち悪くないわけはないのだが、

「そこにいるのが人間で、こちらに危害を加えようとしているわけではない」

 ということが分かると、少し安心した気がしたのだ。

 しかし我に返ると、

「ここから先は、どれくらい続くのか分からないが、喧騒とした雰囲気が続くことは分かっていた。

 自分が規制線を貼ったり、本部からの刑事たちが行う、

「捜査の雑用」

 をしなければいけないということは分かっていることであった。

 とにかく警察本部に連絡し、すぐに刑事や鑑識が駆け付け、

「あっという間に喧騒とした雰囲気が、出来上がるに違いない」

 ということが分かることであろう。

 まだ若い警官は、訓練では何度か行ったことはあるが、本当の事件の発見者となるのは、初めてだったのだ。


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