1話 パンとお茶を足して許されるのは◯潤だけ。
◇
7月15日。この日も手すりを掴まねば息つく暇もないほどに電車内はガタゴトと揺れていた。
ポッケからなんとかスマホを取り出し旧ツイッターを開くと、トレンド1位に「連休最終日」、2位に「♯海の日」と続いていて、
すなわち2024年7月15日は世間一般からすれば、「学校?仕事?何それおいしいの?」といった祝日ムードに包まれていた。最終日だから悲しげなコメントも散見されてはいたかな。
曜日は月曜。本来なら平日であるにも関わらず、何組もの子供を連れたファミリー層が仲良さげに乗車している姿がそのことを物語る。
だけれど俺の大学は圧倒的世間知らずのようで、学科の講義が全て開講されているとのメールが「親切」にも大学用アカウントの方に届いていた。しかも講義が始まる2時間前に。
各教授から口頭で祝日も授業ありますよと知らせる形にしてほしかったなとスマホ片手に内心文句、そんなこんなで駅に到着、数分歩いて大学の正門、そして実験室がある講義棟まで向かったのを覚えている。
そっからどうだったけな……。あ。
「…ねぇ、君ってやっぱり私のこと嫌い?」
実験もあとは検査待ちのみで今日の業務は終わったのだと達成感に浸っていた刹那、目の前に大変ご立腹の班員がいた。
顔の形相怖すぎたからあまり直視できなかったけど、あの特有な声色と関西訛りのイントネーション。
うん、その班員は作田美奈で間違いないだろう。彼女とは実験班が同じという、ただそれだけの接点だった。
あまり接点がないからこそ、いきなり怒鳴る彼女に腰が抜けた。
とりあえず可及的速やかに誠意の謝罪をすることで作田の怒りを宥めた記憶がある。単位を落としてはならない必修の実験で揉め事など、真っ平ごめんだったからだ。
本当は調味料を実験卓上に置いて○すぞーと叫びたい気分だったのだけれど。
というか。あれ?
「なんであいつは実験中に怒ってたんだ?」
普段は温厚な女子生徒。すぐに激昂する輩ではない。たしか、俺が作田を嫌ってる?だっけか。
深夜にラインで実験の課題内容を質問してくるのだけはコラ~なのだが、それ以外は手際いいものだから実験では重宝してるし、嫌う理由なんて一つもないのだけれど……
◇
これも全く思い当たる節がなくて、これ以上回想しても思い出せずイライラが募るだけだから目を開けて明順応、我に戻った。
ちょうど南武線の車掌さんが「次は武蔵小杉、武蔵小杉です」とアナウンスしていたから席を立ち、電車入口前に待機。
そして武蔵小杉駅に降りて人の邪魔にならないところでスマホを取り出す。
メモアプリを起動し、「違和感その1 作田はなぜ怒っていたか。俺が嫌った?」とメモっておいた。
まあ、どうでも良い内容だったから忘れちっただけだろう。一応メモはしておいた。
やはり原因はあのパンチラギャルか。
実験の後は帰宅して、それで。あ、ライン電話が来たんだったな。その後は……。うん、いつの間にか次の日になってたな。
酒飲んだ記憶あるし、そのまま寝落ちしたんだろ。
ん、じゃあ、いつパンチラさんと出会ったんだっけ俺。と謎が深まるばかり。
7月15日に何があったか思い出そうとすればするほど頭がふわふわする。やはり何かがおかしい気がする。記憶が断片的に抜けてるのか。それとも……
パンチラさんってもしかして夢だったり?
酔っ払って寝落ち、結果夢オチってか。それが一番可能性高いかもしれない。そしたらさっきまで悩んでた意味って……
そうこう考えながら駅ナカを進むといつの間にか駅改札前に着いていた。
そこでSuicaを片手にスタンバイしたのだけれど、改札を抜ける必要はなかった。
「よっ修哉、久しぶり」
シャペロン隊員ギャルのパンツの色が知りたい。 JSG @kakumarusannkaku
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