(5)祝祭
「……ではこれで、領邦内全二十二か国全てが和平条約に署名された。これにて、正式に『宗派戦争』は終わりを告げる」
大広間に集まった諸侯の間から、押し殺した歓喜の声が上がった。
あれから半年後。西のクランス王の仲介で、全ての領邦国家が参加する和平条約が締結された。どの国においても、パラパ派とシトリ派は対等の地位を得る。両派の違いを理由に、差別されることがあってはならない。宗派の違いを理由に、戦争に訴えてはならない――。
「これほど早く和平が整ったのは、やはり皆が戦争に
国王の代理として和平会議に出席していたシルフィナの隣で、ゼーランは独り言のようにつぶやいた。シルフィナは、近衛隊長でもある婚約者に視線を向け、小さくかぶりを振った。
「それもあるでしょうけど、やはりあの言葉の力を信じたいものです」
あの言葉――「信じることが、何かを排除することであってはならない」――は、この和平交渉の際のキーワードだった。過去の遺恨を水に流し、新たな未来を築く。長年の宗派対立に終止符を打ったのは、あの東方の戦士の言葉だったと、シルフィナは信じている。
「それにわたくしも、あの言葉のおかげで気づいたのです。パラパラ炒飯も、しっとり炒飯と同じくらいに美味しいと」
シルフィナは、輝くような笑顔を近衛騎士に向けた。「それに、あなたがあの時作った炒飯、食べる人への心遣いに溢れていたことに気付けたのも、ね」
「そのような……」ゼーランは困惑し、赤面して目を逸らした。ふふっ、とシルフィナは笑みを漏らす。
「お米を炒めるとき、あなたはわざわざお玉をヘラに持ち替えたわ。あれは全てのお米が熱い鍋に触れるようにするためなのよね?」
「……はい」
「おこげに醤油、とくれば、あれだけ香ばしかったのも分かります」
王女は近衛騎士の手に、そっと自分の手を重ねた。「これからも、わたくしのために炒飯を作ってくださいな」
「……御意のままに」
「さ、この後は和平成立を祝う晩餐会よ。いっぱい楽しみましょう……炒飯は出ないみたいだけど、ね」
「今日はこの祝いの席のために、特別な料理を用意しましたぞ」
クランス王が、にこやかに宣言した。円卓を囲む諸侯の視線が自分に集まったのを確かめてから、王は満足げに口を開いた。
「我が王室御用達の農場で飼育した鶏のから揚げです。肉汁溢れるもも肉に、しっかりと下味を付け、香ばしい衣に包んで上質の油で揚げた逸品ですぞ!」
おお、と諸侯から歓声が上がった。そして扉が開くと、揚げたてのから揚げを山と盛った大皿が、何枚も運び込まれる。そしてクランス王は、給仕から受け取った銀の器を持って、大皿の一つに近づいた。
「そしてこの料理に相応しい、南部名産のレモンの絞り汁です! これを一気にどばーっとかけ回してお召し上がりください! ……おや、皆様どうされました?」
この日、第一次宗派戦争――通称「パラパラ炒飯対しっとり炒飯戦争」――は終わりを告げた。そして同じ日、より凄惨な第二次宗派戦争――「から揚げにレモンかける・かけない戦争」――が勃発したのである。
宗派戦争最後の日~シトリ派の王女、堕ちるまで 倉馬 あおい @KurabeAoi
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