葡萄病

TatsuB

第1話 奇病

世間にはまだ知られていない奇病がある。その名を「葡萄病」という。

この病は、血管が皮膚から飛び出し、膨れ上がる奇妙な症状を引き起こす。

飛び出した血管は丸く膨らみ、そこからさらに枝分かれして再び丸くなる。

その様子が、まるで房の付いた葡萄のように見えることから、この病は「葡萄病」と名付けられた。

症状が始まってから数日で、血管は赤紫に変わり、やがて深い紫色に染まっていく。紫色になった葡萄状の膨らみは手で簡単に取ることができる。

そうすると、症状は無くなる。

しかし、それは一時的な処置でしかない。また新たに膨らみが現れ、患者は絶えずその出血の危険と向き合わなければならないのだ。

紫色に変わるまでの約三週間、膨らみは真っ赤な血の塊のようで、わずかな衝撃でも破裂する危険がある。

その時、血管から飛び出す血液はまるで破裂した風船のように一気に溢れ出す。

もし破裂が起これば、抑えきれない大量の出血により貧血を起こし、命を失う可能性が高い。患者はその三週間を、まさに命がけで過ごさなければならない。

しかし、この病にかかるきっかけは依然として不明のままだ。

どのようにして感染し、何が原因で発症するのか、誰も知らない。なぜなら、葡萄病の患者は、症状が悪化する前に葡萄の様な膨らみを破裂させ、出血多量で命を落とし、病院に運ばれることもないからだ。

人々はその症状を見たこともなく、ましてやその恐ろしさを知る術もない。


ある夜、成田翔太は左腕に小さな赤い膨らみができていることに気がついた。

何かにぶつけたのだろうかと思い、軽く触れると鋭い痛みが走った。「おかしいな」と思いながらも、その日はそのまま眠りについた。


次の日、膨らみは一回り大きくなっていた。それはまるで血管が皮膚を突き破り、外へと這い出しているかのようだった。

少し触れただけで鋭い痛みが走り、次第に色が濃ゆい紅に変わっていくのがわかった。

翔太は不安を感じつつも、その赤い膨らみを無視するしかなかった。


三日後、膨らみはぶどうの房のように枝分かれし、さらに増えていた。

腕にはいくつもの赤い球体が張り付き、まるで自分の体が異形の植物に侵食されていくようだった。

恐怖が翔太の胸を締め付けた。病院に行こうとしたその時、急な痛みとともに、

一つの球体が破裂し、鮮血が勢いよく噴き出した。あまりの出血量に目の前が真っ暗になり、翔太はその場に崩れ落ちた。


目を覚ますと、病院のベッドの上だった。医師が翔太に状況を説明してくれたが、その病名を聞いた時、翔太はあまりピンとこなっかた。「葡萄病」という名は、翔太にとって初耳だったからだ。

医師はこう言った。「今まで例が少なく、まだよく分かっていない病気です。紫色になるまでの間、絶対に傷つけないようにしてください。そうでないと...命が危険です」

翔太は身を震わせた。紫色に変わるまでの三週間、彼はひたすら自らの腕を守るために神経を尖らせ続けた。

何気ない動作でも球体に触れるのではないかという恐怖が常に頭をよぎった。

身動き一つするたびに、心臓が高鳴るのを感じた。だが、二週間が経過した頃、一つの赤い球体が不意に擦れ、再び出血を引き起こした。


医者が必死に止血処置を施したものの、翔太の意識は次第に遠のいていった。そして、最後に見たのは、自分の腕に広がる赤紫の葡萄のような異形の塊だった。

翔太の死は、また一人の犠牲者を増やすに過ぎなかった。

誰もができものや内出血と思い込み、その恐ろしい病の存在に気づかないまま、時が過ぎていく。もしかしたら、街角ですれ違うあの人の腕にも、赤い膨らみが隠れているかもしれない。

それが単なるできものではなく、命を蝕む「葡萄病」の始まりだと気づくことなく...。

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