第3話 【世界を救ったとしても尊敬されるとは限らない】
※本日3話目です。2時間前に第1話、1時間前に第2話を投稿しています。
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世界救済の旅は思っていた以上に時間が掛かった。
時間にして約2年。
世界中に点在する星のエネルギーを吸い上げる施設を潰して回り、その後に私の身体にエネルギーを回収して世界に還元。
更に施設で働く馬鹿共――職員を封魂結界に閉じ込めて魂から強制的にエネルギーを吸い上げて星のエネルギーの回復要因になってもらう。
勿論、その施設を運営する責任者も漏れなく調べ上げて例外なく回復要因になってもらった。
世界に接続出来る魔女は知ろうと思えばあらゆることを知ることが出来るのだ。
あんまり世界から情報を吸い上げると膨大な情報量に頭がパンクしそうになるから、これだけは最低限にしておいたけど。
結果として100万人以上の人間を封魂結界に閉じ込める羽目になった。
「人間多過ぎぃ~」
私は正式な魔女になるまで知らなかったが、この世界にはエルフやドワーフ、獣人などの人間からは亜人と呼ばれる者達も住んでいる。
だが、その亜人に比べて明らかに人間の比率が多いのは、星からエネルギーを奪い取って繁栄しているのが人間だったからだ。
他の種族は基本的に星からエネルギーを奪うことに忌避感を持っていたし、常識的に考えて愚かな行為だと分かるものだ。
それを躊躇なく実行した人間がおかしいだけかもしれないが。
ともあれ、多くの人間の尊い犠牲によって星のエネルギーを19%まで回復させることが出来たのだった。
私が魔女として覚醒した時点で10%未満だったことを考えると倍近くまで回復出来たのだが、まだまだエネルギー不足であることに変わりない。
とはいえエネルギーを奪う施設は軒並み潰したし、直ぐに星が崩壊するレベルの危機は脱したと言ってもいいだろう。
(封魂結界のお陰で今後100年は回復要因に困らないしね)
人間の魂から得られるエネルギーでは星にとっては微々たる量ではあるが、減っていくよりも増えるエネルギーの方が多いのは僥倖だ。
「さて。そろそろ帰りましょうか」
まだ予断を許さない状況だが、早急に出来ることは終えたので私は一旦、帰ることにした。
「ただいま戻りました」
私が先生の家――森の中にある魔女の家に帰ると……。
「…………」
何故か先生はジト目で私を見て来た。
「どうかしましたか?」
「どうかしましたか、じゃないよ。あんた、自分が何をやったのか分かっているのかい?」
「世界の救済では?」
間違いなく、私がやったことは世界の救済である。
「代わりに多くの人間が飢えることになった。あんたが破壊した施設は確かに星からエネルギーを奪っていたが、代わりに生産能力を向上させて飢えを緩和していたんだよ。これからは食料がなくて餓死する人間が加速度的に増えていくだろうね」
「…………」
私は先生の意見に呆気に取られてしまった。
「あんたの自己満足の正義感に突き動かされた行動の結果がこれだよ」
「…………」
私は思わず沈黙して……。
「はぁ~。世界に飲み込まれるのを恐れた魔女の現状がこれか、阿呆らしい」
あんまりにも的外れな意見に深く、深く溜息を吐き出した。
なんでかって言えば、世界の守護者たる魔女ですら、この程度の認識というのが恐ろしい。
「先生。世界の為に働くことも出来ない魔女に存在意義はあるのでしょうか?」
「なんだって?」
「トンチンカンなこと言ってねぇで、現状を正しく把握しろって言ってんだ」
私は先生の懐に転移で一瞬にして移動すると、先生の額に右手を当てて――世界力を強制的に流し込んだ。
「なっ……! 止めっ……!」
先生のような魔女は世界力を制限することで世界と深く繋がることを避けていたのだろうが、私が強制的に世界力を流し込んだので世界との繋がりが一気に強くなる。
「…………」
先生は数秒だけジタバタ暴れて抵抗したが、やがて抵抗を止めて大人しくなった。
「現状は理解出来ましたか?」
「……ああ。どうやら、あたしが間違えていたらしい」
世界の現状をやっと正しく認識した先生は呆然と答える。
「先生って意外と自我が強かったんですね。他の魔女に同じことをしたら皆、自我が消えて世界の為に行動する人形みたいになったんですけど」
「……平然と怖いことを言うね」
この2年で私は30人以上の魔女と邂逅したが、皆、先生と同じように的外れなことばかり言うので世界の為に行動するように強制的に世界力を流し込んでやったのだ。
そのお陰で私のやることがなくなって帰ってくることが出来たのだけど。
「それで、先生は世界の為に動かないのですか?」
「……あたしは元々引退するつもりで後継者を育てていたんだ。大人しく森の管理でもしながら過ごすさ」
「そうですか」
魔女の仕事として森の管理は非効率的だが、引退魔女として世界の為に森を維持するというのなら悪い選択肢ではない。
「というか魔女って引退出来るのですか?」
「……こんなに世界が危ういとは思ってなかったんだよ」
まぁ、世界の崩壊が1000年後だというのなら引退して次代に任せようという魔女が居ても不思議ではない。
残念ながら私が動かなければ1000年どころか10年も怪しかったけど。
「この現状なら世界に急かされるのも納得だよ」
現状は世界が魔女に対して《早くなんとかしろ!》と急かしている状態なのだ。
そんな中で呑気に引退しようとする魔女がいたら《ふざけんな!》と殴られても仕方ない。
まぁ、殴るのは私の役目だけど。
◇◇◇
私が先生の家に帰ってから数日。
私は久々に鏡台に座って丁寧に髪を梳かしていた。
「~♪」
2年もの間、世界中を回って忙しかったので髪や肌の維持はなんとか出来たが、手入れは最低限にしか出来なかったので、やっと本格的な手入れが出来て嬉しい。
「あんた、たったの2年ででかくなったね」
「成長期ですから♪」
現在、17歳になった私の身長は160センチにギリギリ届く程度。
だが、先生が言っているのは身長の話ではない。
2年前にはDカップだった私はFカップに成長を遂げているのだ。
「理想的な大きさと形です。魔女の制限にも屈しない素晴らしいおっぱいです」
「……あっそ」
基本的に魔女には出来ないことはないが、それでも世界から最優先で制限されていることがある。
それが魔女は自分の身体には干渉出来ないという点である。
魔女は基本的に不老不死だし、どんな損傷を受けても瞬時に肉体を修復することが可能だ。
だが、こと容姿と体型に関しては弄ることが出来ないように世界から制限を受けている。
どうやら過去の魔女の中に自分の美しさを維持する為に無駄に世界力を使いまくって馬鹿をやらかした奴が居て、そのせいで制限が制定された。
つまり、魔女は大抵のことは出来るが、容姿とプロポーションだけは自前で何とかする必要があるのだ。
私が超絶美少女で抜群のプロポーションを持っているのは魔女だからではなく、日々の努力の賜物なのである。
「はぁ♡ 私はなんて美しいのかしら♪」
「……ナルシスト、きもっ」
先生がなんか言っているが、私の素晴らしい形の耳には届かなかった。
髪と肌を完璧に仕上げ、続いて爪のお手入れを開始する。
「あんた、ムダ毛の1本でも残さず処理しそうだね」
「この美しい私にムダ毛なんて生えてくるわけないではありませんか」
「……そうかい」
先生は何故か諦めたような顔をしていた。
「あたしはもう500年以上は生きているが、歳を取ると容姿なんてどうでもよくなるけどね」
「先生は乙女心を失くしてしまったのですね。可哀想に」
「……いちいちムカつくな、こいつ」
全ては私が美し過ぎるのがいけないのだ。
「お前の美しさはどうでもいいが、そろそろあんたの二つ名を決めないといけないね」
「二つ名?」
「あたしで言えば《朝露の魔女》が二つ名だ」
「へぇ~」
そう言われてもピンと来ない。
「魔女は正式な魔女になると二つ名を決める。あたしは魔女の中でも薬学に秀でている。他の魔女の中にも薬を作れる奴はいるだろうが、薬学に関して言えばあたしが1番だ。だからこそ《朝露の魔女》を名乗った」
「ふぅ~ん」
薬学と朝露の関係が分からないが、この世界の特有の関連性があるのかもしれない。
「だから、あんたも自分に相応しいと思う二つ名を考えておきな。本来は正式に魔女になった時に決めるもんだが、あんたは2年も家出してたからね」
「……お仕事です」
自慢じゃないが、私は魔女の中でも最も仕事をしている魔女だと思うぞ。
世界の崩壊を防いだのだから。
「まぁ、適当に考えておけってこった」
「……分かりました」
二つ名など欲しくないが、必要だというのなら考えておこう。
◇◇◇
ファンタジー小説、バトル漫画、ゲームのRPG。
そういう物には必ずと言っていい程にラスボスが存在する。
ラスボスを倒すのが目的とは限らないが、物語を盛り上げる為には最後に登場するラスボスが必要で、ラスボスを倒すことで物語はフィナーレを迎える。
そういう意味で、この世界のラスボスと言えば誰だろうと考えた結果……。
「どう考えてもラスボスは私以外に考えられない」
考えるまでもなく私以外に居ないことに気付いた。
世界の何処かで勇者が誕生したとして、その勇者が最後の最後に挑む存在なんて私以外にあり得ない。
寧ろ、私以外にラスボスがいるとしたら私が倒してしまうだろう。
うん。だから間違いなく私がラスボスなのだ。
それ故に、私の二つ名にはラスボスに相応しいものを付けようと思ったのだが……。
「というわけで、私の二つ名は《
「……どうしてそうなった」
私の二つ名は《安穏の魔女》となった。
うん。色々と考えたけど、最終的にこうなってしまったのだ。
寧ろ考えすぎて、知恵熱が出るくらい考えて、その上で出した結論だった。
もう、これ以上考えたくない。
それに合わせて私の衣装も変更した。
今までは私に似合いそうな白いブラウスに紺のスカートなどを愛用していたが、今後はロンスカートタイプの黒いワンピースを着ていくことにした。
更に黒いローブを纏い、頭には黒い三角帽子を被る。
うん。凄く魔女っぽい。
「後は黒猫とかカラスを使い魔にしましょうか」
「……あんたは何処を目指しているんだい?」
「可愛いでしょ?」
「…………」
この衣装、確かに魔女っぽさをコンセプトにしているが、なにより私を可愛く着飾ってくれることに主眼を置いている。
黒いローブとか黒い三角帽子って地味に見えるかもしれないが、形状が全体的に丸っこくなっていて、とてもファンシーなのだ。
ローブには丸いポンポンもリボン状になって付いており、とってもお洒落♪
「本当に、あんたは何処を目指しているんだい?」
究極のラスボスです。
こうして私の衣装は決まったのだが……。
「魔女って武器は何を使うんでしょう?」
武器を持っていないことに気付いた。
いや、だって今まで必要なかったし、世界力で圧倒してしまうので武器を使うという発想さえなかった。
「魔女は基本的に魔法で戦うから杖とかじゃないかい?」
「……杖」
まったく必要とは思えない。
「先生はどんな武器を持っているんですか?」
「あたしはフラスコに薬品を入れて投げているね」
「……参考にならない」
本当に、この人は肝心なところで役に立たない。
「他の魔女が持っている武器は?」
「剣とか槍とか持っている奴はいたね。魔法があるから弓を持っている奴は見たことがない。後は……変わり種の奴が楽器を武器にしていたね」
「楽器……ねぇ」
悪くはないけど前世でもあんまり演奏とかしたことないんだよね。
「ふむ。私みたいな超絶美少女なら、歌を歌って攻撃とかもありかもしれませんね。武器はマイクとかどうでしょう?」
「……好きにすれば?」
反応が微妙だった。
もうちょっと色々考えてみるとしよう。
◇◇◇
今日も今日とて私の専用武器を考えていたら先生がお出掛けするというので同行することになった。
「何処に行くので?」
「……城だ」
どうも先生の管理する森に隣接する国があり、その国の王に会いに行くことになったらしい。
「何しに行くんですか?」
「あんたが大暴れしたから、その後始末じゃね?」
「……私は悪くないと思います」
うん。私は悪くない。
私は正確な行き先を知らないので先生の転移で連れて来てもらった。
転移先は城の目の前で、城の門を守っている兵士が2人居て、唐突に現れた私達に驚いて硬直していた。
「驚かれているみたいですけど?」
「ここに出たのは初めてだからね」
「普段は何処に出るんです?」
「城の中庭だ」
「今日は、どうしてここに?」
「あんたが居るからだろ」
「……なるほど」
許可のない私が同行しているから城の外を選択したらしい。
それから門番と話した先生は私のことを話すと、門番の1人が城の中へ入っていき、その間に私達は城の外で待たされた。
「これって無礼じゃないですか?」
星の守護者たる魔女を外で待たせるとか、普通に無礼だと思う。
魔女は最低でも王族に匹敵する扱いをするべきだ。
「人間には色々と柵があるのさ」
「私達が合わせてあげるような柵ですか?」
個人的に言えば、人間が馬鹿な装置を使って星のエネルギーを奪って星の崩壊の危機を招いたのだから、星に住む人間の半数は封魂結界に捕らえて星のエネルギーを回復させる餌になってもらいたい。
関係者100万人で済ませたのは事情を把握していない私の温情に過ぎないし、この国にも星のエネルギーを吸い上げる施設があったのだから同罪だ。
というか先生が下手に出る理由が分からない。
「何かあるんですか?」
「……100年以上前に色ボケ魔女がやらかした」
当時、人間の男に骨抜けにされた魔女が居て、魔女の力を封じる《魔女封じ》を作り出して魔女への対抗手段を人間達に譲り渡したのだとか。
「馬鹿じゃないんですか」
「同感だ。だが、そいつが魔法道具作りに関してだけは天才的で、本気で魔女の力を封じるアイテムを作って量産しやがったのさ」
「…………」
だから先生でも下手に逆らえない相手だったわけね。
「あいつがどんな心境だったのかは今を持ってして分からんが、惚れた男に尽くすことが自分の幸せだと信じていたらしい。男に言われるまま魔法道具を作り続け、最後には《魔女封じ》の実験体にされて殺された」
「駄目な女代表って感じですね」
「そうだね」
ここで重要なのは《魔女封じ》を使えば実際に不老不死の筈の魔女を殺せると証明されてしまったことだろう。
その《魔女封じ》がどの程度効果があるのか知らないが、厄介な物を残してくれたものだ。
その後、戻って来た門番が許可を取って来たことによって私達は無事に城の中に入ることが出来た。
そうして私達はメイドに城の中を案内されることになったわけだが……。
「メイドかぁ。メイドも悪くないですねぇ」
私は前を歩くメイドのメイド服に注目していた。
ただ、ここのメイドが着ているメイド服はあんまり可愛いとは言えないデザインだったのが残念だ。
「なんだい、あんた。メイドになりたいのかい?」
「可愛いメイド服を着た私というのも悪くないと思いまして」
「……使用人の制服だよ」
どうも日本とは違ってメイドに萌えを求める文化はないらしい。
そんなことを話しながら辿り着いたのは赤い絨毯が敷かれた広い部屋で、私達は大勢の兵士に囲まれており、中央には玉座が設置されて1人の中年の男が偉そうに座っていた。
そして、その隣には、これまた偉そうな態度の青年が腕を組んでふんぞり返っていた。
「察するに座っているのが国王で、隣の偉そうなのが王子ですか?」
「……そうだ」
小声で先生に聞いてみたら当たっていた。
それは兎も角、魔女というのは世界力さえあれば本当に何でも出来る。
例えば目に透視能力や望遠能力を付与することも余裕だ。
「あれが《魔女封じ》かしら?」
「……そうだ」
部屋を囲むように四方に小さな隠し部屋があり、その4つの部屋のそれぞれに紫色の水晶が設置されていた。
ついでに言うと4つの部屋にはそれぞれローブを来た魔法使い風の人間が待機しており、その《魔女封じ》と思わしき物を私達に向けて調整していた。
(なるほど。使用の際は対象の魔女に向けてから魔力を注入するという工程が必要なのね)
言ってみれば狙撃銃に近く、人力で操作しなければ効果を発揮しないようだ。
(さて、どうしてやろうかしら)
件の《魔女封じ》を向けられる最中、私は少しだけ思案した。
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魔女の後継者~魔女になって美少女TS娘になったけど、折角なのだから男に偽装して美少女を侍らせる為に頑張る~ @kmsr
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