第2話 【魔女になったので世界を救う為に頑張ります】

 ※本日2話目です。1時間前に第1話を投稿しています。






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 俺とレンは定期的に魔女の秘薬――猛毒を飲まされることになった。


 どうやら毒を飲むことによって疑似的な死を体験して強制的に魔力を上昇させるという試みのようだが、これは下手をすれば――というか下手をしなくても普通に死ぬ。


 実際にカイは死んだ。


 だってマジモンの毒を飲まされて数日は苦しみ続けるのだ。


 何とか生き延びてきたが、それでも相当衰弱するし、真面に立ち上がれないくらいには身体がボロボロになる。


 幸いだったのは、そうして生き延びた後には休養期間が貰えたことだ。


「流石に衰弱状態で魔女の秘薬を飲んだら確定で死ぬからね。体調が万全じゃない時に魔女の秘薬を飲むなんて自殺行為でしかないよ」


「「…………」」


 何度も猛毒を飲み続けるなんて普通に自殺行為だと思うのは俺達だけなのだろうか?




 ◇◇◇




 魔女の秘薬を強制的に飲まされ続けて1年が経過した。


 基本的に1ヵ月に1度は魔女の秘薬を飲まされて死に掛けていたが、11歳になった俺の身体には変化が表れていた。


 魔女の秘薬を飲んで苦しんでいる時、まるで骨が溶けるような感覚に襲われることがあり、その感覚が毒が抜けた後でも抜けなくなって来たのだ。


(なんか、やばいかも)


 これはつまり、毒の後遺症が抜けなくなって来ているということかもしれないと思って恐怖した。


(嫌だ。死にたくない!)


 休息期間に与えられたベッドで眠る時も身体の震えが止まらない。


「…………」


 レンはそんな俺をジッと見ていた。




 ◇◇◇




 更に1年が経過した俺は12歳になった。


 その頃になると俺の身体の変化は顕著なものとなっており、俺は自分が勘違いしていたことにやっと気付いた。


「何これ? どうなってるの?」


 毒が慢性化していると思っていた俺の身体の変化は、実際にはもっと別の――深刻な変化だった。


「魔女の後継者として育てられることになったのに、その中に男が混じっていることに疑問を持たなかったのかい? 魔女の秘薬には肉体を強制的に魔女に近付ける効果があるのさ。だから後継者候補が男だろうと女だろうと、どっちでも問題なかったのさ」


「…………」


 うん。魔女の秘薬を飲み続けた俺の身体は女性化していたのだ。


 未使用だった男のシンボルはいつの間にか消えていて、代わりに体の内部まで作り変えられたのか――俺に生理がやって来ていた。


「……最悪だ」


 あの日、レンが俺をジッと見ていたのは俺の身体の変化に気付いていたのだろう。


 前世も含めて初めて経験する生理痛。


 魔女の秘薬を飲んで苦しむ以外で休息を許されたのに物凄く複雑な気分だった。




 ◇◇◇




 俺の身体が女性化したということは、言い換えると順調に魔女の秘薬が身体に馴染んで、身体が魔女に近付いているということだ。


 お陰で魔女の秘薬を飲んでも苦しむ期間は短くなったのだが……。


「ごふっ!」


 逆に言えば、魔女の秘薬に身体が適応出来なければ、ドンドン強くなる魔女の秘薬から生き延びることが難しいということだ。


 その日、ついに魔女の秘薬に適応出来なくなったレンは大量の血を吐いて――動かなくなった。


「残念。流石に2人同時に魔女が誕生するなんて奇跡は起こらなかったみたいだね」


 ついに最後の同期だったレンが死亡した。






 魔女の後継者は俺に決定した。


 レンはかなり惜しいところまで行ったらしいが、生への執念――つまり、何が何でも生き延びるという意思が弱かった。


 俺とレンにあった差はそのくらいだ。


「さて。それじゃ本格的に魔女になる為の修練を始めるよ」


 ちなみに魔女に後で聞いた話だが、魔女が定期的に子供を数百人単位で集めて試練を行うのは今回が初めてではなかったらしい。


 大抵は森の中に放り込んで数日で全滅するか、生き延びても真面目に魔力制御の訓練を行わずに失格となって処刑される。


 なにより魔女の秘薬を飲んで生き延びることが出来たのは俺とレンが初めてだったらしい。


(それなら、もっと大事にすれば良かったのに)


 レンとの付き合いは2年ほどだが、ほんの少しだけ相棒のように思っていたので死んだレンに密かに黙祷を捧げた。




 ◇◇◇




 こう言ってはなんだが、魔女の修行は魔女の肉体として適応した私にとってはそう大変なことではなかった。


 寧ろ、女性化した肉体に意識を適応させる方が大変だったくらいだ。


 正式に魔女の後継者となり、魔女の弟子という立ち位置になった私は住環境を整えられた上で食事による栄養も改善された。


 結果として私の身体は日々女性らしく成長している。


 だからこそ以前までの――前世の記憶に引っ張られて男の意識を前面に出すのではなく、見た目通りに女性らしい意識を前面に出せるように改善した。


 一人称も《俺》から《私》に変更した。


 なにより身体を綺麗にして、真面な服を着るようになった私は――すんごい美少女だった。


「~♪」


 だからというわけではないが私は鏡台に座って髪を櫛で梳かすのが楽しい。


 まだ髪を伸ばし始めて時間が経っていないので肩口程度の長さだが、その髪はサラサラの金髪で梳かしていて見惚れるほどに美しい。


 男の時は前世と同じ黒髪だったのだが、女性化に伴って髪の色が金髪に変わったのだ。


 ついでに言うと瞳の色も男の時は黒だったのだが、女性化の後は真紅に変わっていた。


「瞳の色に関しちゃ全ての魔女が共通で真紅になるんだよ」


 瞳の色に関しては女性化というより魔女の仕様だったらしいけど。


「しっかし、よく飽きないねぇ」


 現状、私の魔女としての師匠である彼女――正式には《朝露あさつゆの魔女》スターシアは私が楽しそうに髪を梳かしているのを呆れたように見ている。


 基本的に私は彼女を先生と呼んでいるけど。


「だって、私ってすんごい美少女じゃないですか。美少女の身体だと思うとお手入れが楽しくて仕方ないですよ」


「……そうかい」


 先生の呆れが更に強くなった気がするが気のせいだろう。


「髪に肌に爪、よくも毎日毎日、ご丁寧に磨き上げられるもんだ」


「先生が《朝露の魔女》で助かりました♪」


 魔女は世界中に合わせて100人もいないらしいが、その中でも《朝露の魔女》は錬金術や調薬を専門としているらしく、髪や肌の手入れをするのに必要な薬品の調合も出来る。


 お陰でお手入れの薬品の製薬に関しては私も出来るようになったし。


 うん。効果としては地球の美容品に匹敵する性能があるので私は非常に満足している。


「選んだあたしが言うのもなんだが、あんたって無駄に優秀だから性質が悪いよね」


「そうですか?」


 無駄に優秀。


 最近、私がよく先生に言われる言葉だが、どうやら私は先生が想定する方面とは違うベクトルで優秀ということらしい。


 先生――《朝露の魔女》の後継者としては錬金術や調薬方面に力を入れて欲しいのだろうが、私は美容方面で伸びているのだ。


「それに、あたしはもっと恨まれていると思っていたよ」


「どっかの誰かが言っていましたが、感情を処理出来ない人類はゴミらしいですよ」


「……何処の誰だよ、そんなストイックなことを言うのは」


 どっかの宇宙世紀の人です。


 まぁ、私としても先生に対する蟠りを完全に消化出来たとは言わない。


 急に攫って来て人を森の中に放り込み、色々な選別をして殺しまくっていたことは事実なのだから。


 特にレンのことに関してはまだ複雑な思いを抱えている。


 だが、だからと言って先生に復讐したいかと言われればNOである。


 先生に攫われなくても、あのままなら大半な野垂れ死にしていただろうし、私に関しては高確率で病気になって死んでいただろう。


 スラムの残飯漁りで食料を得るなんて、病気にならない方がおかしい。


 それなら僅かでも可能性がある魔女の試練を受けた方がマシだった。


 まぁ、女になるとは思っていなかったけど。






 現在の私は推定で13歳。


 栄養状態の改善によって徐々に女性らしいふっくらとした身体になって来ているし、僅かに胸の膨らみも目立って来た。


 最近では錬金術にて自作したブラジャーを身に着けるようになった。


「…………」


 先生は白い眼を向けて来たけど。


 先生に習った錬金術で出来ること。


 一般的な錬金術師なら化学の延長線上で色々な物質を専用の器具を使って熱したり冷やしたり組み合わせたりして、化学的なアプローチで成果を出す。


 だが、私達のような魔女が扱う錬金術は魔力を物質に通して結合を解き、別の物質を組み合わせて再構築することが出来る。


 要するに、どっか元の世界の漫画やアニメに登場した背の低い金髪の錬金術師みたいな真似が出来るのである。


 流石に手を合わせただけで錬金術を行使するような短縮は出来ないが、それに近いことが魔力を使って実現可能なのだ。


 先生は大鍋をかき混ぜてマジで魔女っぽいやり方で調合しているけど。


 あんま意味はないけど、そういうのが好きらしい。


 私は錬金術を行使して自分の服や下着を作ったり、習った調薬で美容品を作ったりして先生に呆れられているが。




 ◇◇◇




 順調に魔女としての修行を続けていき、私は15歳になった。


 髪も腰まで伸びるくらい長くなったし、胸もDカップになるくらい大きくなった。


 うん。自分でも見惚れるくらいの超絶美少女となっていた。


 毎日、お手入れを欠かさなかった金髪はツヤツヤで冗談抜きでキラキラ輝いているし、肌は妥協なく磨き抜いたので瑞々しく潤っている。


 そうして今日も満足出来るくらいにお手入れを終わらせた時……。


「あ」




 私は世界との接続に成功した。




「へぇ。予想以上に早かったね」


 そんな私を見て先生は呆れたような、感心したような顔をしていた。


「おめでとう。あんたは今日で魔女の見習いを卒業して、正式な魔女となった。どんな気分だい?」


「……今なら何でも出来そうです」


「だろうね」


 先生の問いに答えた私を先生は当然だというふうに頷いて返した。


 世界との接続。


 言い換えればアカシックレコードへのアクセス。


 魔女というのは世界に接続され、世界の意思を受信して、世界の願いを聞き届ける者の総称。


 具体的に言えば世界を――星を護る為の守護者だった。


 だが、その護るべき星は今……。


「先生」


「ん?」


「どうして、こんなになるまで放置していたのですか?」


「…………」


 壮絶な悲鳴を上げていた。


「それに、他の魔女は何をしていたのですか?」


 現在、この世界は滅びの危機に瀕していた。


「魔女にだって出来ることと出来ないことがあるんだよ」


「それは嘘」


 この世界――この星の上の居る限り、魔女に出来ることには制限がない。


「あんまり深く世界と繋がるのは止めておきな。飲まれちまうよ」


「…………」


 先生の言いたいことは分かる。


 人の意思と星の意思とでは文字通り出力の桁が違う。


 深く世界と繋がり過ぎれば星の意思に飲み込まれて人としての意思が消えてしまう。


 一般的な魔女はそれを恐れて世界との接続を最低限に調整している。


(だから、この悲鳴が聞こえないのか)


 いや。聞こえてはいるのだろうけれど、そこまで深刻であるとは思っていないのだ。


「先生、少し出掛けて来ますね」


 だが現状は先生が――世界中の魔女達が思うよりも遥かに悪い。


「待ちな。あんたにはまだやることが……」




「黙れ」




「っ!」


 私が先生に視線を向けると、先生は目を見開いて驚愕した。


「もはや一刻の猶予もない。私の邪魔をするな」


「…………」


 私は魔女になったことで使えるようになった魔法の中から転移を選択、行使して世界を救済する為に動き出した。






 別に私には世界を救済する為の強い意思や使命感があるわけではない。


 だが現状を見逃せないのも事実だった。


(星のカウントダウンが始まっているというのに、呑気に傍観出来る神経が分からないわよ)


 転移で移動した私は宙に浮かびながら眼下に見える巨大な施設を見下ろす。


 この施設には星からエネルギーを吸い上げて周囲の環境を改善する為の装置が設置してある。


「こんな物を放置するなんて、魔女としての自覚がないのかしら」


 ぶっちゃけ、この装置は恐ろしく変換効率が悪い。


 星から100のエネルギーを吸い上げて、1の環境改善を行うというふざけた変換率なのだ。


 私から言わせれば世界の寿命をすり減らすだけのゴミである。


「消えろ」


 私は右手を掲げて、その手の中にエネルギーを収束させる。


 昨日まで私が行使していたのは魔力だったが、今は完全に別のエネルギーを行使出来るようなっている。


 基本的に人間が行使出来るのが魔力か霊力。


 エルフやドワーフが行使出来る自然力。


 精霊が行使出来るのがまんま精霊力。


 それぞれに分野は違うが、各々に出来ることが異なるエネルギーの名称だ。


 1つの例外を除いて、それぞれのエネルギーに優劣はなく、その全てのエネルギーは星からの供給という形を取っている。


 そして、その1つの例外こそが――世界力。


 ありとあらゆるエネルギーの頂点であり、世界を構成する星が蓄えている純粋で高密度のエネルギーである。


 そして、世界の守護者たる魔女だけが行使を許されるエネルギーでもある。


 その世界力を右手に収束した私は施設に向かって解き放つ。


 一撃、そして一瞬で施設は消滅し、攻撃に使った世界力は欠片もロストすることなく世界に還元されていく。


 世界力は魔女が行使した場合、使っても殆ど消費されることはなく、大部分は世界に還元出来るのだ。


「さてと」


 私は施設の跡地に降り立って、世界から吸い上げていたエネルギーの残骸を我が身に吸収していく。


 魔女だけに許される特権にして特性。


 魔女はあらゆるエネルギーをその身に吸収して世界力に変換、後に世界に還元する能力を持つのだ。


「ちっ。こんなんじゃ全然足りないわ」


 星から吸い上げていたエネルギーは世界に還元したが、無駄に浪費した分のエネルギーは戻って来ない。


「この責任は取ってもらうわ」


 私は施設で働いていた職員達に視線を向ける。


 施設は消滅させたが、そこにいた人間までは消滅させていなかったのだ。


 何故かって?


 勿論、こいつらに責任を取らせる為だ。


「封魂結界、起動」


 その周辺にいた全ての人間に対して直系2メートルほどの球体の結界が包み込む。


 人間が行使出来るエネルギーは微々たるものだが、人間を構成する根源たる魂には膨大なエネルギーが蓄積されている。


 封魂結界とは、その人間の魂から強制的にエネルギーを吸い上げて星に還元させる為の結界だ。


『ぐぎゃぁああああああああああああああああああああああああ!!!』


 まぁ、捕らえられた人間は想像を絶する苦痛を味わう羽目になるけど。


 魂から無理矢理エネルギーを吸い出しているので、結界に捕らえられた人間は魂のエネルギーが尽きるまで強制的に生かされて死ぬことも許されないまま苦痛を味わい、魂の純度を維持する為に正気を失わないように――失えないように調整してある。


 知的生命体とされる人間の魂なら十分なエネルギーが蓄積されている筈だし、それを全て吸い出すまでは最低でも100年くらいは掛かるだろう。


 つまり、無知にも星のエネルギーに手を出した馬鹿共は100年の間、正気を失うことも出来ないまま想像を絶する苦痛を味わい続けるのだ。


「とは言っても、まだまだ足りないわね」


 魂に蓄えられたエネルギーは膨大だと言っても星のエネルギーと比較すれば脆弱過ぎる。


 数百人程度の魂を星に還元したとしても焼け石に水だ。


「次に行くか」


 私は次の施設へ向けて転移を行使した。






 この世界、この星ではもう何百年も昔から星からエネルギーを吸い上げて環境改善する為の装置が使われていた。


 お陰で人口は増加して、表面上は平和が保たれているように見えていたのだろうが、実際には星のエネルギーが尽きかけていた。


 具体的に言えば、星のエネルギーは総量の1割を切るレベルだ。


 星の維持にもエネルギーが必要なことを考えれば本当にギリギリとしか言いようがない。


 こんな状況を放置している魔女の正気を疑う。


(先生の態度から考えて、どうもまだ余裕があると思っていたみたいだけど、これの何処に余裕があるっていうのよ)


 明らかに現状はギリギリもギリギリ。


 救世の意思のない私が動かなければ星が崩壊するのではと危機感を抱くレベルの危機的状況だ。


 お陰で私はかなり深く世界と繋がることになったのだが……。


(そういえば、私は世界の意思に飲み込まれないのね)


 先生は世界の意思に飲み込まれるのを恐れて接続を最低限に制限しており、その為に現状に気付けなかったようだが、私は深く世界に接続しても自我が消え去る気配がない。


 世界を救済する私の邪魔をしない為かとも思ったのだが……。


「……違うわね」


 答えはもっと単純なところにあった。


 私が異世界からの転生者だから。


 だから異界の魂を持つ私は世界から見て異物である為、世界と同化することがなかったのだ。


「なるほどね。私が転生したのは、この為って訳ね」


 どうして私だったのかは知らないが、どうやら私は世界を救う為に転生して来たらしい。


 強制ってところが気に入らないが、流石に星が崩壊したら生き残れないのでやるしかないんだけどね。



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