魔女の後継者~魔女になって美少女TS娘になったけど、折角なのだから男に偽装して美少女を侍らせる為に頑張る~
@kmsr
第1章
第1話 【気付いたら転生していたスラムで残飯漁り】
※新作出来ました。
突発的に思いついたアイディアを元に書き上げた作品ですがヒロインの登場は遅めです。
本日は初日なので1時間毎に1話ずつ計3話を投稿します。
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気付いた時、俺はスラムの一角で残飯を漁っている最中だった。
「???」
何が起こったのか全く分からなくて混乱する。
(え? あれ? 今日は休日だからビールを飲みながら映画鑑賞をしようと思って買い出しに行って……)
財布を持って部屋に鍵を掛けて出掛けたことまでは覚えている。
それから近所のコンビニに向かって歩いて……。
「あ」
思い出せる最後の光景は赤信号を無視して突っ込んで来る大型トラックの姿であり、そこで俺の意識は途切れ……。
(俺は……死んだのか?)
そして気付いたら、ここで残飯を漁っていた。
「いや、違う」
改めて思い返してみれば、急に残飯を漁っていたわけではなく、空腹に耐えきれずに残飯を漁る羽目になったのだということを思い出せる。
そして、よくよく自分の姿を確認してみれば――ガリガリに痩せた小さな子供の姿になっていた。
(もしかして、これは、あれか? トラックに轢かれて死んだ俺は別人に生まれ変わってスラムで残飯を漁っていたということなのか?)
内心では、何処の定番異世界転生小説の世界だよ、とツッコミを入れつつ、同時に気付いてしまう。
(俺が喋っているのも考えているのも日本語じゃない)
どうやら俺の転生先は日本ではなかったらしい。
その気になれば日本語も話せそうだが、もう何年も話していなかった言語なので正しく発音が出来るか不安だった。
寧ろ、今使っている言語の方がベースになっている感じだ。
ともあれ、まずは自分の現状を正しく把握しなくてはならないのだが……。
(正確には覚えていないが、この身体……5歳くらいか?)
スラムで残飯を漁っているような現状だし、当然のように俺に親は居らず、それどころか家族や仲間と呼べるような者もいない。
どうやら俺は天涯孤独の孤児らしい。
次に、ここが何処なのかということなのだが……。
(分からん。これに関しては全く分からん)
少なくとも日本でないのは確かなのだが、どれだけ記憶を漁ってもスラムの中で這いずり回っていた記憶しか出て来ないので、どうやら俺はこのスラムから出たことがないらしい。
(うぅ~む。一瞬、異世界転生かとも思ったが、これだと地球なのか異世界なのかも判断出来んな)
そもそも、どうして俺に前世の記憶が唐突に戻ったのかも不明だ。
本当に、なんの前触れもなく、いきなり戻ったからな。
「……腹減った」
分かっているのはお腹が空いているという現状くらいだ。
前世の記憶が蘇って、心情的に残飯は嫌だが他にどうしようもないので残飯漁りを再開しようとしたところで……。
「ぐぇっ!」
唐突に全身を何かに絡め取られて地面に引きずり倒された。
何事かと顔を上げたら複数の人間に囲まれており、縄を投げつけられて拘束されている最中だった。
(……なんだ、これ?)
本当に意味不明だが、抵抗出来るような力もない俺はあっさりと捕らえられてしまった。
◇◇◇
あれから数日が経過した。
最初はスラムの子供を捕まえて奴隷にでもされるのかと思っていたのだが、どうやらそんな単純な話でもないらしい。
俺と同様に数百人の身寄りのない子供達が捕らえられており、漏れ聞こえて来る話では魔女の生贄にされる為に集められているらしい。
(マジかぁ~)
死なせない為に最低限の食事が与えられているのでスラムで残飯漁りよりはマシかと思っていたが、どうやらスラムの残飯漁り以下の状況のようだ。
魔女の生贄とかマジで勘弁して欲しい。
(というか魔女ってなんぞ?)
地球でも中世のヨーロッパでは魔女狩りなんてものもあったらしいし、そういう意味では魔女がいたかもしれないが、現代ではそんな話は聞かない。
(ってことは過去の地球にタイムスリップしたのでなければ、異世界に転生したって可能性が濃厚になって来たな)
まぁ、それでも魔女の生贄は勘弁だけど。
そうして数日を過ごした俺――俺達は追い立てられるように広い部屋に集められ、その部屋の床に描かれた白い光を発する円の中に押し込められる。
(魔法陣?)
単純な円でしかないので魔法陣と言うと大げさだが、それでも雰囲気から察するに魔法陣と呼ぶのが相応しい。
そうして、その円の中に押し込められた子供達は次々と消えていく。
(これって転送陣とか、そういう奴か)
まさか生贄とか言っていたのだから、入っただけで肉体が消滅するような不可思議な殺し方はしないと思う。
そう信じて俺も円の中に入ったのだが……。
「…………」
気付いたら深い森の中にいた。
周囲を見渡すと俺と同様にポカーンと呆けている子供達が多数いた。
「今回は随分と多いねぇ」
そうして呆けていたら声が聞こえて、視線を向けると黒い衣装の露出の激しい美女が立っていた。
(あれが魔女か?)
赤い髪と真紅の瞳、妖艶な雰囲気を持つ女性は確かに魔女と言われても違和感がない女性だった。
その魔女の背後には小さな古ぼけた家が建っており、まさに魔女の家って感じだ。
「さて。お前達がどういう話を聞いていたのかは知らないが、あたしはあたしの後継者を探す為にあんた達を集めた。この中にあたしの後継者になれる奴がいるかは知らないが、精々頑張って生き延びてみな」
そうして適当な説明の後に魔女がパチンと指を鳴らすと……。
「っ!」
俺達は吹っ飛ばされて森の中へと放り込まれた。
どうやら最初の試練は森の中で生き延びろというものらしい。
他の子供達も一斉に森の中に放り込まれたらしいが、気付いたら小さな――どう見ても武器には使えそうもない小さなナイフを全員が所持していた。
察するに、この小さなナイフ1本で森の中で生き延びてみせろと言いたいらしい。
(超ムリゲー)
俺は自分の年齢を5歳前後と見繕ったが、他も似たり寄ったりで下は3歳くらいから上は7歳くらいと差がある。
だが最年長でも7歳にも届かないくらいの年齢の子供に森の中をサバイバルで生き抜けと言われても難易度はベリーハード過ぎる。
◇◇◇
僅か3日で300人以上もいた子供達の数は半分以下になってしまった。
最初は集団で協力して生き延びようとしていた子供達なのだが、この森は俺が思っていた以上に過酷な森だった。
なんせ歩くだけで凶暴で巨大な猛獣に襲われるし、呑気に寝ていると巨大な蛇に丸呑みにされてしまう。
子供を丸呑みにした蛇の口から子供の断末魔の悲鳴が聞こえて来たのは超絶的なトラウマになった。
俺はああはなりたくない。
この森で俺が最初に覚えたことは気配の消し方だ。
他の子供達が猛獣に襲われている間に物陰に潜み、必死に見つからないことを息を潜めて祈っていたら――出来るようになっていた。
同時に猛獣に怯えて感覚を研ぎ澄ませて警戒していたら気配の探り方を習得していた。
少なくとも、これらが出来ないと森で生き延びることは不可能だった。
◇◇◇
1日経つ毎に子供達の数は減っていく。
森に放り込まれて1週間を生き延びたのは30人に満たない数だった。
最初の10分の1以下だ。
この1週間で俺は《観察する》ということを覚えた。
当たり前のことのように思えるが、じっと動かずに気配を消して様子を見るということは非常に精神力を削る行為だった。
なんせ子供達が猛獣に襲われて食われている時もじっと動かずに観察を続けるということを続行し続けたのだから。
そうして観察を続けた結果、この森には猛獣も多いが俺よりも小さな動物も相当数いるということが分かった。
俺は、そういう小さな動物を狩って1週間を生き延びたのだ。
小動物を仕留める際には魔女に貰った小さなナイフではなく、拾った石で作った原始的な武器を使った。
ナイフは武器としてではなく解体に使うべきだと思ったからだ。
その選択は正解だったようで、ナイフを武器として使った子供達は早々にナイフを欠損させて食事にあり付けずに衰弱していった。
この森で生き延びる為には、考えることを止めない思考力と、忍耐力が必要だった。
◇◇◇
俺達が森でサバイバルを開始してから3年が経過した。
俺達と言っても俺は基本的に1人で行動しているし、他のグループと交流することなど殆どなかった。
その少ない交流で分かったことは、もう俺達の数は8人まで減っているということだった。
寧ろ、よくも3年もの間、8人も生き残ったものだと思う。
1週間で300人以上いたのが30人まで人数が減り、その30人の中の8人が3年もの時間を森の中で生き延びたのだ。
この3年の間、俺達の中には最初の魔女の家を探そうとした者もいたのだが、どういう原理なのか、どれだけ森の中を探しても魔女の家は見つからなかった。
それどころか森から出ようと思っても、どれだけ歩いても森の外へは辿り着けなかった。
どうやら3年経った今でも魔女の試練は継続中らしい。
この3年で俺は小動物の解体をスムーズに行えるようになったし、森の中に生えている食用に出来る植物を複数見つけていた。
勿論、自分で人体実験して何度も腹を壊して得た成果だ。
俺は今日も森の中の環境に溶け込み、気配を消して観察に努め、暗殺者のように無駄な動きを一切削ぎ落して小動物を仕留める。
そして食える部分と食えない部分に素早く解体してから不要な部分を捨てて、早々に現場を離れた。
それから持ち去った肉を臭い消し用の葉っぱに包んでから――猛獣の追跡がないことを時間を掛けて確認する。
うん。森の猛獣は血の匂いに敏感なのだ。
そうして、やっと食料にありついた後、寝床にしている樹に登って気配を消し、周囲の環境に自分を溶け込ませながら休息を取る。
生き延びる為のコツは活動時間を最小限にして、なるべく動かずにじっとしていることだ。
余計な体力と余計なリスクを最小限に留めることが生き延びるコツと言えるだろう。
今日の活動を終え、ジッと時間が過ぎていくのを待っていたら唐突に周囲の景色が真っ白になって……。
気付いたら魔女の家の前にいた。
「おや。今回は8人もいるのかい。豊作だね」
そうして魔女の家の前にいるのは魔女。
ハッと周囲を見渡すと俺以外にも7人の子供達が集まっていた。
どうやったのかは知らないが、魔女は森の中にいた俺達を強制的に呼び集めたらしい。
「それじゃ第二試練を始めようかね」
そうして3年前と同じく状況に付いていけていない俺達を置き去りにして魔女はパチンと指を鳴らして……。
「ぐぅっ!」
一瞬の頭痛と共に吹き飛ばされて――再び俺達は森の中へと放り出されたのだった。
前と何が違うのかというと、俺の頭の中に俺の知らない知識があるという点だった。
それはどうやら魔力という不思議なエネルギーを扱う為の基礎知識らしく、俺の身体の中にも少ないながら魔力が存在しており、それを制御出来るように訓練しながら森の中で生き延びろという魔女からのオーダーだった。
(余計なことを……!)
普通に生き延びるだけでも精一杯なのに、そこに課題を追加されたようなものだ。
当然、そんなことをしている暇はないのだが……。
(やらないという選択肢は……取れそうにないな)
この第二試練とやらがどのくらい続くのか知らないが、魔女の試練を無視して魔力の制御とやらをサボって試練が終われば――待っているのは確実な死だけだ。
◇◇◇
課題は面倒だったが、魔力の制御という日課は俺に色々な恩恵を与えた。
(これが魔力か)
地球では感じることも出来なかった不可思議なエネルギー。
当初は使い方など分からず、魔女が強制的に頭の中に叩きこんだマニュアルに従って試行錯誤を繰り返した結果……。
(使えるな)
どうやら魔力だけでも身体能力を強化することが出来るらしく、狩りの効率が格段に向上した。
無論、俺の魔力は乏しいので強化出来ると言っても微々たるものだが、その微々たる強化が俺の森での生活に少しだけ余裕を持たせてくれた。
だが、そういう魔力による強化を森での日常生活の延長程度に考えられなかった子供もいたらしく、魔力で強化された身体能力に無駄に自信を持った子供の数人が無謀にも猛獣に挑んで――返り討ちにあっている場面を目撃した。
(阿呆か。子供の力を少し強化したくらいで猛獣に勝てるわけがないだろうが)
魔力の扱いを少しばかり覚えたと言っても俺達は子供であり、子供の力を強化したとしても大人でも勝てそうにない猛獣に勝てると思う方がどうかしている。
今まで通り、魔力は今までの生活が少しだけ便利になった程度に考えておくべきだろう。
◇◇◇
俺達が魔力の訓練を始めてから2年が経過した。
俺が前世の記憶を取り戻したのが本当に5歳だったのなら、俺は10歳になったことになる。
無論、10歳なんてまだまだ子供だし、食生活も乱れていた俺は並の10歳児と比べても小さくて痩せている状態だ。
それでも俺はまだ生き延びていた。
(俺って意外と生き汚かったんだな)
地球ではもっと無気力で、あまり生きることに執着するタイプではなかったのだが、異世界に転生したことで生への渇望に目覚めたらしい。
そうして、今日も今日とて森で狩りをする為に気配を消して周囲に溶け込み、獲物になる小動物が現れるのをじっと待っていたのだが……。
(って、おい)
待機していた俺の足元から急に魔力が発生して視界が真っ白に染まり……。
気付いたら、また魔女の家の前にいた。
「3人、かい」
魔女の家の前には当然のように魔女が居て、俺達――魔女によって強制的に呼び寄せられた子供が3人いた。
最近は交流することもなかったので知らなかったが、生き延びていたのは俺を含めて3人だけだったらしい。
「ふむ。魔力制御の訓練もサボらずに行っていたようだね。とりあえずは合格だよ」
「「「…………」」」
どうやら真面目に魔力の制御訓練を行っていたのは俺だけではなく3人とも共通らしい。
「とはいえ今日からが本番だよ。あたしの後継者に相応しくなれるように本格的な訓練を始めるからね」
「「「…………」」」
うん。俺もそうだが他の2人も嫌な予感を覚えているのか顔を顰めたのが分かった。
「まずは自己紹介でもしてもらおうかね。魔女になる為の授業に参加させるのに名無しってのは不便だしね」
そう言って魔女は最初に俺に視線を向けて来る。
「まぁ、紹介出来る項目もあんまりないだろうし、名前と年齢くらいで構わないよ」
そう言われて自己紹介を促されたのだが……。
「年齢は……多分、10歳くらいだ。名前は……ない」
前世は兎も角、今の俺には名前すらないのだ。
自己紹介をしろと言われても困る。
「……マジで?」
流石に名前がないことは魔女にとっても予想外だったのか驚いていた。
「まさか……あんた達も?」
「「…………」」
魔女は残りの2人にも視線を向けるが、2人も無言で首を縦に振って名前がないことを肯定した。
「マジかぁ~」
魔女は予想外な出来事に頭を抱えて天を仰いだ。
「まぁ、いいか。それじゃ、あんたの名前はケイだよ」
どうやら今日から俺の名前はケイになるらしい。
「そっちのあんたはレン。最後のあんたはカイだよ」
レンは3人の内で唯一の少女であり、カイと俺は男だった。
(そういや、魔女の後継者選びなのに男でも大丈夫なのか?)
そんなことを疑問に思ったが、質問出来るような雰囲気でもなかったので聞くのは止めておいた。
「さて。まずは魔力を上げないと話にならないね。あんた達、これを飲みな」
そうして魔女に渡されたのは黒い丸薬だった。
それぞれ1つずつ渡され、そこはかとなく不気味で嫌な予感しかしないが、拒否出来る状況ではないので仕方なく俺達は丸薬を口に放り込んで飲み込んだ。
その瞬間……。
「ごふっ!」
俺は血を吐いて倒れた。
おまけに身体が痺れて動けない。
「ああ、言い忘れていたけど魔女の秘薬は劇薬だよ。魔力を強制的に上げる為には死に匹敵する苦痛が伴う。まぁ、殆ど毒薬みたいなもんだね」
ふざけんな、このクソ魔女が!
どうやら血を吐いて倒れたのは俺だけではなく3人全員らしい。
急速に身体の中に毒が侵食していく感覚。
体中に激痛が走り、悲鳴を上げたいのに身体が痺れて声を上げることも出来ない。
それから俺は三日三晩、苦しみ続ける羽目になった。
そうして3日後、生き延びたのは俺とレンだけで、カイはお亡くなりになってしまった。
何の為に名前を付けたんだか。
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