異世界転移少年の成長契約
チャーハン@サッカー小説書いてる
第一章 「雷光轟く名もなき転移者」
第一章:01 『運命的な弟子と師匠の出会い』
「つまり――君は異世界転移してきた人間ってわけだ」
日本の成人男性と同程度の背丈を持つスレンダー体系の女性が、上機嫌に藍長髪を揺らし語りかけてきた。淡い藍色のローブとかが目立つ服装と思いつつも、僕はそんなことはほっぽるほどに驚きを顔に出していた。
異世界転移なんて、さもファンタジーでしかありえないことを当たり前かのように目の前の女性が口にしたからだ。
「……僕が転移した根拠って、あるんですか?」
「決まっているじゃないか。君が海からやってきたからだよ」
「――海から?」
「うん。海から、流れてきたんだよ。しかも死にかけの状態でね」
楽し気に語る女性の発言から察するに、僕は海で死にかけたらしい。
はっ、ご冗談を。もしそれが真実だとしたら、僕は何で頭が明瞭快活に動いているんだ。
「いや~~大変だったよぉ~~? 何せ、息をしていなかったんだから。もし少しでも遅れていたら……君は間違いなく、死んでいたよ。ったく、感謝してほしいぐらいねぇ」
「??? 全く状況が理解できないんだが……」
「はぁ~~察しが悪いねぇ」
目の前の女性は煽るような語気でいう。僕が何をしたっていうんだ。
「君はね、天下の大魔法使いである私、リーブス・ガレドリアに助けられた世界一幸運ない異世界転移少年なんだよ。ほら、こんな感じでね」
リーブスが人差し指を立てると指先に赤い炎がついた。青や緋色に変化するのを見るに、ガスバーナーレベルの温度調整が出来るらしい。
なるほどなるほど、つまり……
「僕は、異世界転移した……ってことか!?」
「だーかーらー、何度もそう言ってるじゃん」
「も、も、もししてるんだったら、何か能力を貰っているのか!?」
「偉く雰囲気が変わったねぇ。何か気になることでもあるのかい?」
「そりゃもう! だって、異世界に来たらまずは自分の能力がどうなっているか知ることからでしょ! それに……夢だろうし!」
「ほぅほぅ、夢ときたかぁ。まっ、それならそれでいいんじゃない? 君が夢と考えて行動してどうなろうとも……私にゃ知ったことじゃないし」
リーブスが椅子の背もたれに寄りかかりながら言葉を返す。鼻歌交じりに椅子の背もたれ側へ重心をかけ、ガタンガタンを言わせる様は幼い行動であると感じると同時に、僕に対しての警鐘であるとも感じられた。
いやいやいや、そんな訳ないだろと思いつつも僕は問いかける。
「なぁ、リーブスさん。もし外に行ったら、どうなるんだ?」
「……まっ、少なからず実験体にされるだろうね」
「――へ?」
予想外の返事だった。実験体にされる? 僕が?
「異世界から現れた人物。そんな人物の価値ってなんだと思う?」
突然の問いかけに、齢十六歳の頭をフル回転させる。
が、答えは一つも出てこなかった。
「……わかりません」
「そっかそっか。そりゃまぁ、そうだよねぇ~~」
リーブスは不敵な笑みを浮かべ、答える。
「単純だよ。異世界人の価値は彼らが保持する脳みそさ。人間を拘束して生きた脳からすべての知識を吸収したのち、記憶消去すれば……新しい、文明発展の力を手に入れつつ、労働力も手に入る。もしかしたら……臓器売買としての価値だって生まれるかもしれないね」
「なっ……なっ…………何を言い出すんだ、お前は!?」
「ハハハハハっ。夢物語だって思っているかもしれないけどさ……これは紛れもない現実だよ。ただ、氷壁一枚でできた表の世界で生きてきたことしか知らないから、否定が出来るだけさ」
無臭の部屋に、冷たい声が響く。僕は恐怖のあまり、リーブスから視線をそらした。目の前の状況が嘘であると信じたかったのだ。
嘘であると思いたい。嘘であると思いたい。
人間的な嘘であると信じたい。
「…………待ってください。じゃあ、あなたは僕の記憶を……」
「あぁ、もちろん見たさ。君がどんな場所で生まれて、生活をして、ここにやってきたのか。そんな経緯が、私には手に取るようにわかるよ。シマザキ・アメツグくん」
「なっ!? なっ、なっ、っつっ……」
怖い。怖い。すごく怖い。
なんで僕の記憶を覗き見れたんだ。僕の名前を知れたんだ。
わからない。わからないことが、すごく、ものすごく怖い。
脳細胞一つ一つが熱い、腕が、足が、どくどく脈打っていく。
血液が漏れ出しそうなほど、喉から咳がこぼれだす。
「…………そこまでなくかい?」
「だって、あんたは僕を殺すんだろ? 誰かに、売り捌くんだろ!?」
「そんなこ――」
「あるさっ! みんなそうだ……誰かのために、僕が優しくしてもすぐに好意を忘れるんだ! 人間はみんな、慈愛と敬愛をもって他人に対して、優しい行動をしないといけないのに! 誰もかれも、自分のことばっかり考えて、僕のことをないがしろにするんだ! それって、僕の権利への侵害でしかないんだ! 侵害された人間は、死ぬしかないんだ! けれど、僕は、死にたくはないんだ! 死にたくないから、誰かに優しくしても、その優しさは一つたりとも返ってこなくて、こうして僕の心はどんどんと削り去っていくんだ!! あぁ、あぁぁぁああ!! 僕は、僕はっつ!! どこまで行っても、地獄でしかない――」
「ちょっと君、うるさいよ」
「がっ――」
額に人差し指が当たった直後、僕の身体から力が抜ける。
パソコンの様に発熱し続けていた脳みそが一気に冷却されていく。
「……つまり君はあれだろう? 他人に優しさをふりまけば万人がそれを返してくれるって思いこんでいるたちだろう? なるほど確かに正論だ。けれど……あまりにも傲慢すぎる」
「……何でですか?」
「簡単だ。君は人間について表面上しか見れていないんだ。その人間が、どの様な人生を歩んできたかという視点を持つことが、あまりに欠如しているんだ。それは、君が他人に対して表面上のやさしさをふりまけば良いと考えているに過ぎない。表面上のやさしさなんて、他人からすれば簡単に見透かせるんだ。しかも、君のタチが悪いのは他人がみんな、自分に対して優しくしてくれると妄信していることだ。他者がみんな、自分と同じように恵まれていると考えている。それは――あまりにも愚かすぎるよ」
「……そんな訳がないでしょう。僕は、正しい。正しいんだ……」
体が重い。いきなり思考を回したせいで、体調が悪い。
けれど、これだけは言える。他人に優しくすることは人間の存在意義。
それが出来ない人間は、淘汰されていく運命なんだ。
「はぁ……君はどうしても、おバカさんなんだねぇ」
「――でも」
「ん?」
「あなたのいう事が完全に間違えているとは、言い難いです……だから、僕はあなたが言うことが正しいのか……あなたと行動することで、見極めていけるようにしたいです……だから、だから……その。僕を貴方の弟子にしてください」
「――へぇ」
あまりにも、だせぇと僕は思った。もしこれが夢であるなら、覚めて、この失態をすべて消失させてほしいと思った。
けれど……それ以上に、冷めないでほしいと思った。
僕のこんな子供じみた言葉に対して初めてここまで真剣に伝えてくれた人だったからだ。
「ふぅん……君は、嫌いな人間から学びたいんだねぇ。ハッハッハッ」
リーブスさんは、楽しそうに笑った。
腹を抱えて、嬉しそうに声を出して高らかに笑って。
そうして――彼女は。
「……いいよ。私の弟子にしてあげるよ。アメツグ君」
僕に、楽しそうに言った。
「代わりに一つ、条件を付けさせてもらおう」
「何ですか?」
「……一日に一つ、異世界の情報を渡してほしい。勿論、君のさじ加減で決めていいよ。だけど、必ず一つだ。これがないなら――師弟関係はすぐに、消させてもらう。それでも構わないかい?」
「……わかりました」
「いい返事だ。よし、それじゃあ――よろしくね。わが弟子よ」
こうして僕こと、
世界一と呼ばれる魔女の下で、第二の人生を歩むこととなった。
異世界転移少年の成長契約 チャーハン@サッカー小説書いてる @tya-hantabero
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