問.9 純情可憐

 純情可憐

 (純粋、心が清らか、可愛らしい)


 しゃんとした立ち姿。着物を着る機会が無いから、どういう感じかは知らないし、集まったクラスメイトの中で何人かは浴衣だ。

 歩きにくいだの、いろいろ言ってるのに。咲野さんだけは違った。ゆったりと――でも、しっかりした歩き方で、転けそうな一面が全く無い。


「お前、首のところ見てただろ」

「見てねぇーし」


 あぁ、そっか。浴衣のときってうなじが目立つんだっけ。歩き方があまりにも綺麗だったから、忘れてた。


 咲野さんは学校と同じ髪形だった。くるんと纏められていて、そのせいか見ても緊張することがないとわかった。


 咲野さんが立ち止まる。


「射的、やりたいとか?」

「難しい、よね。興味はあるんだけど」

「せっかく来たんだし、やっていけば?」


 ぎこちない構え方に、初めてなんだって気づいて、教えた。小学生のときに一度やっただけなのに、覚えてるもんだなぁ。


「やっぱり難しい」


 商品をかすっていった。当たるだけ凄いけど。


「まだ出来るよ」

「残り、あげる。好きなの取って?」

「ちなみにだけど、好きなやつある?」

「あそこにあるお菓子」


 スーパーでも買える物だった。買ってきたほうが早いんじゃない?


 構えて、指を動かした。


「兄ちゃんやるねぇ〜。ほいよ」


 こんなすぐ当てられるとは思わなかった。おじさんから商品を受け取る。


「はい、好きなやつ」

「へっ?どうして?」

「咲野さんがお金払ってたし?」

「一度出来て満足したから、あたしは別にもう……」

「狙ったら取れたし、いらない?俺もらおうか?」


 そしたら、指が微かに動く。


「ん、どうぞ」

「まるで少女マンガみたい。緊張してくる」


 素でそれ言えるんだ。もしかしてって考えそうになる。やばい。

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ワンシーンを長々と、 糸花てと @te4-3

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