弱おじブーム、到来

白川津 中々

◾️

弱おじブーム、到来。


不景気でしんどい昨今、給料据え置き。昇給賞与などという愛社精神の欠片もない慣習も撤廃され、社会は弱おじで溢れていた。

彼らは家族を作って養おうというメンタルもモチベーションもなく、漏れなく孤独に一生を終える筋書きをなぞっていたのだが、有名ストリーマーのβカロティーンが弱おじを愛でる配信を行い10代20代が注目。私も私もと模倣をはじめ、曲がり間違い弱おじとの恋愛がトレンドとなったわけである。


この空前絶滅、未曾有のモテ期にそれまで女性と縁遠かった弱おじは精神的に向上。若い女とのやっほーいにより無敵となる。自信に満ち溢れてセンスが磨かれ、脳が活性化されてタスク処理の効率や増益に繋がるプラン提案などがガンガンあがっていった。シゴデキのイケおじへと進化したのである。


しかし、それはもはや、弱おじではなかった。



「強くなったらただのおじ」


そんな言葉が蔓延し、弱おじブームは収束。火付け役となったβカロティーンも「そもそも弱おじを恋愛対象として見てはいなかった。どんどん社会が暴走していって恐怖さえ感じた」とちゃぶ台を返す始末。おじ達のやる気はみるみる下がり弱おじに逆戻り。そして、再び彼らを愛でる者はいなかった。諸行無常である。


野に放たれた弱おじ。彼らは決まってこう言う。「一人の方が気楽でいいよ」と。


結局彼らに寄り添えるのは自分自身しかいないのだ。弱おじは今日も、一人で生きていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

弱おじブーム、到来 白川津 中々 @taka1212384

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画