異世界漂流刀鍛冶伝

ピコ丸太郎

刀鍛冶、異世界漂流

【前書き】 

私が今連載中の追放貴族ですが、テーマは『鍛治師』となります。

初作品でしたが今ではPV10,000に届きそうなところまで来ました。読んで下さいましてありがとうございます。

描く上に置いて、筆が止まり、迷走しました。

その結果、『鍛治師』について、このような物語を書きたかったんだと悟りました。

これは短編としてこの話で完結という形を取ります。

ですが、読者さんの反応を見ながら、

これを私の代表作にすべく、この話に肉付きして新作連載の第一話にしたいと考えてます。

これを読んで「面白い」「続き気になる」と思って下さいましたら、応援やフォロー、★での評価をお願いしたく存じます。

応援を宜しくお願いします。

◇◆◇◆




 この世界にはかたなという存在はないと知った。

 だが、俺は刀鍛冶として日本刀を打つ事しか出来ない。

 この世界からしたら俺は異端だろう。

 だが俺からすれば、刀に対しての冒涜ぼうとくなのだ。


 何故ならこれまでの歴史が物語っているように、日本刀は弾丸すらも切り落として真っ二つに割ることができる業物わざものだ。

 これに理解を示さない、この世界の連中がイカれているのではと思うのだ。


 この世界には『ショートソード』や『ロングソード』『大剣』と呼ばれる両刃の剣が存在するのを知った。

 目を疑った。

 この質の悪い製鉄はなんだ。と――。

 しかも、両刃と来たもんだ。

 しかし、これもこの世界に存在する、それなりの刀鍛冶が打ったとされていた。

 

 日本刀いわば刀は、人斬りの為に人の知恵を絞り出した至極の逸品。

 であるからして、刀は人を殺める道具のひとつである。

 これは刀鍛冶を生業なりわいとする俺の心得だ。


 だがしかし、この世界に来て俺は、モンスターや魔獣と呼ばれる俺の頭では到底理解出来そうにもない、この世の物かと疑って掛かる『それ』を斬るために、今も尚、刀を打っている。


 この世界に来てしまったが、刀を打つ以外に、能がない俺にはこれしか出来なかった。

 どうやってここまで流れ着いたか、そんな事は既に薄れてしまった。

 ふと昔の事を蘇らせながら、自作のたたら場に向かう。


「さぁ、ここから三日三晩たたらを踏むか。時間はある。少し昔の事を思い出しても良いのかもな」


 鍛冶場に併設して俺が作ったたたら場だ。

 この世界の鉄は質が悪い。

 そんな鉄では、名刀は生まれない。

 炭素の含有量を緻密ちみつに計算され尽くした玉鋼たまはがねが無くては、名刀は生まれない。


 だから俺は砂鉄からこうを製鉄して、玉鋼を作り上げるため、独自にたたら場を作った。


「俺がこの世界にやって来たのは、今からどれほど前の事だろうか? もう随分と月日が流れた。同時に俺に与えられたのは『魔術付与』という力……」


 俺は日本でも指折りの刀鍛冶の家で生まれ育った。

 それもあり、魔術など興味も無くその力を試そうとは思わなかった。

 そんな俺がこの世界に来て、流れに身を任せて着いた場所がここだ。


 『カズハウム王国』領内『イワム』村である。


 当初、鍛治をやる者がいる。と村人は聞きつけよくここを訪れた。王国の騎士どももだ。それに冒険者と名乗る連中も――。

 もちろん、ここに足を運んで言うことは、作製依頼であった。が全て断った。

 両刃剣の類いである『ソード』など、俺に打てるものか。と内心でそんな捨て台詞を吐いた。

 日本刀を打つ刀鍛冶としての誇りもある。

 そんな俺に両刃など打てようものか。

 揶揄からかうのもほどほどにして欲しい。


 ここに来て随分と経つが、やっと最近、この世界の世情を知った。

 この世界には『ダンジョン』と言うのがあるらしい。

 一度も足を踏み入れたことは無いが――。

 この俺に、そんな興味は無かった。


 この世界の人間からしたら、俺が打つ日本刀は珍しく見えたのだろう。それ以上に、異端だ。邪道だ。「なんだそれ? 刀身が細く戦いには向かない剣だ!」と馬鹿にされた挙句、もはや、異端児扱いをされた。


 だからか、それ以来、俺に近づこうという者はいなかった。


 だか、人との関係を断ち切ってしまうと、ここでの生活が危ぶまれた。

 刀鍛冶とはいえ、その刀を購入し使用してくれる者が居なけりゃあ、収入は無いのだ。当然の如く。


 ひたすら刀を打つことに没頭したが、そこに気付き、なんとか収入を得ようと試みたのは……。

 この世界で流通してる鉄を用いての鍛治としての仕事だ。

 やむを得ない状況であるから、当初、俺のところに足を運んできた者を頼って、詫びを入れて、依頼を仕方なく引き受けることにした。


 だが、日本刀を打つ刀鍛冶としての誇りは捨てなかった。


 良い面もあった。

 それは、俺に新たな技術を身につけるきっかけにもなった。両刃の刀の打ち方を独自で学び、打ては違うと、再び打つ。この繰り返しを行い、両刃の刀の打ち方を習得した。

 俺の成長となり得たのかもしれない。


 だがやはり、己の中では納得に至らなかった。

 日本刀と比べると、まるっきり切れ味に劣るからである。

 玉鋼を使って、両刃の刀を打つには膨大な時間を要す。それに、その手間と依頼の報酬を比べると、絶望的と言えるほど足元を見る報酬だった。安すぎたのだ。


 「無名の刀鍛冶のお前には、十分過ぎる報酬だ――」


 ふん。馬鹿にするのも良い加減にしろ。

 俺は名刀『菊一文字』を打った、則宗のりむね末裔まつえいだ。その俺に無名だと。

 戯言を抜かせ!


 しかし、これがこの世界では普通らしい。

 そもそも、俺の打ち方とこの世界で存在する『剣』の打ち方はまるで違う。

鋳造ちゅうぞう』を用いるらしい。これは比較的安価で大量生産に向いている。だが、耐久性や切れ味に劣る。

 もはや、消耗品の一部としか捉えていないのだ。


 そんな考えなのだから、異国なのか別世界から来た刀鍛冶の俺からすれば、受け入れ難い事であった。


 それでも、この世界の世情を受け入れるしか出来なかった。そんな状況に陥ったのだから割り切るしか他にない。


「はぁ……、少し休憩するか。コイツを磨いてやらんとな」


 ミシミシとたたらの踏み板が音を立てる。

 そしてパチパチと熱反応を見せる鋼が炉から声を出す。


 腰に結い付けた手拭てぬぐいを引っ張り、額に垂れる汗をぬぐい、首にじんわりと湧き出た汗が凝固した塩の結晶を拭き落とす。

 それから木樽に溜まった水をすくい、勢いよく水飛沫みずしぶきをあげながら顔を洗い、ゴクりと喉を鳴らして水を口にする。

 再び、濡れた顔を手拭いで拭く。


 鍛冶場の奥、木棚や作業テーブルが並ぶ。

 これもいちから俺が作った。

 ここは打ち上げた刀を最終仕上げするための場だ。


 刃を研いで刃紋を付け、つかに打った者の銘を刻む。


 

---


「きゃあーー!!」

「おめぇは向こう行っとけぇ!」

「やべぇぞ!こっち来やがる」


「おい新入りぃ!! お前は、住民に逃げるよう伝えろ! 近くにいる冒険者には協力を仰げ!」


「わっ……分かりました!」


「ギャハハァ、アレからもう1年経つって事かぁ!? お前ぇさんも明日の闘技会に参加すんだろぉ? やめとやめとけぇ! なぁ、それより飲もうや?」


「たっくぅ! 酔い過ぎだよっシゲさん! 俺はずっと待ってたんだよ! 闘技会の日をよぉ。で、俺が大活躍して、そっからでけぇギルドからスカウトされて、晴れて冒険者の仲間入りだよぉ!!」


「おい!! 呑気に酒なんて飲んでな! そっち行ったぞぉ!! 早く逃げろぉ!!」


「あぁん? お前ぇさんがギルドからスカウトだぁ!? あぁっはは!! 無理だ無理。聞いた話にゃあ、明日はうんとヤベェでけぇ目玉が用意されてるって話だ。あの『剣王』でさえどうかって話だぜ!?」


「おい! 早く逃げろと言ってんのが分からんのかぁ!?」


「うっせえんだよ! 俺らがどこで酒飲もうが勝手だろぉ!! ったく騎士だからってでけぇ面しやがって。……シゲさんよぉ? その目玉ってなんだよ? そいつを俺が狩っちまったらよ、流石にギルドだって俺の事放っとかねぇだろ?」

 

 村の住民たちの悲鳴がどこからも木霊する。

 そして酒場から漏れる話し声。



---


「ふん……。騒々しい。博覧闘技会が明日に迫ったからと言って皆、浮き足立っている。ここの連中はまったく落ち着きが無くて困る」


 俺の生涯の目標。『菊一文字』に引けを取らない名刀を打ち上げる事だ。

 だが、平和になりそもそも戦国ではない日本の世に、そのような名刀を遺しても、何の為だと言うのか。

 もはや日本には名刀を使いこなせる者はいない。

 戦国の世のような剣術家や、剣豪と呼ばれる存在はついえた。

 俺はそんな葛藤をずっと抱きながら、刀と向き合って来た。


 そんな渦中に置かれた俺に訪れたのは、異世界漂流だった。


 俺の気持ちを逆撫さかなでするように唐突にそれは訪れた。


 平和の世を築き上げた日本とは違い、この世界は今、優れた武具や剣を欲している。

 どれほど刀鍛冶としての腕を磨いたところで、何になるのか。と疑念を叩きつけられていた矢先、こんな世界に来てしまった。誰の悪戯いたずらなのかまったく見当けんとうもつかない。


 しかし今、俺にほんの僅かな希望が見えたところだ。


 これも運命ではと悟った。

 名刀を遺しても意味はあるのかと――。

 そんな気持ちを抱える刀鍛冶をこの世界は欲している。

 そして、腕のいい刀鍛冶を必要としている。


 なんの因果かと思うが。


 ならば、俺の刀鍛冶としての腕を、この世界で試そう。

 そして、名刀を遺そう。


 そんな誓いにも似た決心を俺自身に植え付けた。

  


 

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