第2話
行先は堀香大学。
偏差値そこそこの私立大学で、地元ではそれなりに認知度が高い大学だ。
最近は経済学で大きな成果を出したとかで、教授がTVに出ていた。
まあ、それも文学部生の俺とは何の関わりもないのだが。
堀香大学の文学部棟は、朝の静けさに包まれていた。正面の大きな時計が8時を指している。今日は特に講義があるわけでもないが、俺はキャンパスへと足を運んだ。
理由はただ一つ。
「あの教授」に会うためだ。
俺が堀香大学の文学部に入ったのは、ある教授と会いたかったからだ。
堀香大学文学部哲学科教授、霧島 直哉。
彼は「蘇生薬」が開発された後、真っ先に反対を表面した、数少ない学者のうちの一人だ。
彼は蘇生薬に対して、常に反対の姿勢を崩さず、独自の研究を進めている。
蘇生薬が生まれた時、世界は一瞬で変わった。死が克服されたことで、多くの者は歓喜した。けれど、それがもたらす倫理的な問題には、誰も深く目を向けなかった。
確かに人は死ななくなった。しかし、それは本当に「生きている」と言えるのだろうか。
「蘇生薬」は、人々の道徳や倫理観を壊す「破壊薬」になってはいないか。
蘇生された者の多くが、自分の生の意味を見失い、自暴自棄に陥る。
蘇生が繰り返されることで、人間関係や社会の秩序は徐々に、しかし確実に狂い始めた。
誰もが、たとえ愛する者の死であっても悲しむことはせず、「また蘇るだろう」と淡々とした反応を示すようになる。
そんな社会が暴力的にならない訳が無かった。
たとえ死んでも、いくらでも取り返しがつく。
誰もがそんなことを考えている中で、
人々から良心などとうに無くなってしまった。
俺はそんな世界がどうしても受け入れられなかった。
だからこそ、俺はこんな世界を変えるため、
ある決意を固めた。
---蘇生薬をこの世から消し去る---
それが、俺の目的だ。
人々が死と向き合うことなく、倫理や道徳を放棄してしまったこの世界は、もう限界に達している。
急激な治安悪化、飢餓、戦争......
これらを取り除くには、世界が「蘇生薬」と決別し、厳然たる「死」という事実と向き合う他に方法はない。
その為に俺は堀香大学に入り、霧島教授へコンタクトを取ることにしたのだ。
蘇生薬と崩れゆく世界と君と @ankomahi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。蘇生薬と崩れゆく世界と君との最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます