現実世界とファンタジー世界が混ざったようなので、この新しい世界を楽しもうと思います。

氷天

第0章 チュートリアル

第1話 これって、異世界転移ってやつ!?(違います……)

この日、この世界は一変した。


それは空想──ファンタジーのものだと思われていたものだった。

そんなものがこの世界に突如として出現したのだ。

ダンジョンなどの建造物、エルフや獣人といった異世界御用達の種族たち、更には魔物や精霊そんなファンタジー世界のものがこの世界に乱入してきたのだ。


そんな状況下の中、まるで何事もなかったかのように寝ているやつが1人いた。

まぁ、それもそうだろう…彼は───


……


「……んぁ?」


ベッドで寝ていたはずだけど、床に落ちてそのまま寝ていたのか?身体の節々が痛む。

ペタペタと辺りを触ると、冷たく硬い感触。床で寝てたみたいだな……。

少し痛む腰を擦りながら立ち上がり、机の上に置いてあったであろうスマホに手を伸ばし、違和感に気づいた。


まだ微睡んだ思考のまま、辺りを見渡し、途端に目が覚めた。その理由は明白だ。

ここは俺の部屋ではなかったのだから。


「えぇ、ここどこだよ……?」


混乱しながら辺りをよく見渡す。亜麻色のレンガ?で作られたこの空間は、俺の部屋の数倍もの広さを持ち、家具や俺が集めていたグッズも何もかもがないそんな簡素な空間だった。

閉じ込められているという訳でもなく、俺の前後には車が一台通れるくらいの道がある。……本当にどこなんだ?

この光景で一番に思いつくのがダンジョンなんだが……。


「いやいや、最近異世界ものを結構読んでたけど……それはないだろ?」


自分自身にツッコミを入れつつもう一度当たりを見渡す。これがダンジョンなら迷宮型と言ったところかな、何を考えているんだ?


まだ頭が働いていないのか、さっきから荒唐無稽な考えしか浮かばない。

どこだ…本当に、どうすりゃいいかな。……こんな訳の分からない状況なのに結構冷静…な気がする。まぁ、ただの現実逃避かもしれないけど……。

そもそもの話、これは夢なのではないか?そう思って頬をつねってみる。普通に痛い。

夢では痛みを感じないというのが本当であれば夢ではないようだな。夢の内容を覚えられないからよく分からん。


そんなことは放っておいて、とりあえずでた考えとしては、ここを中心に少し移動してみる、ということだった。

まぁ、情報が一つもないからそれ以外に選択肢はないだろう。

ここがダンジョンだとしたら、ここはセーフゾーン?安全地帯?的な場所だろうし、ここを活動の中心とすれば都合もいい。

ちょっと楽しくなってきた。こう、冒険って感じがする。少し怖いけど、ダンジョンだと思えば周りを見て回るのが楽しみになってきた。

ただ──


「装備がTシャツ、短パン、素足っていうのが残念だな、武器も持ってないし、して言うなら拳ってところか?」


そんな装備で大丈夫か?と聞かれれば「無理だろ」と食い気味答えられるぞ?

まるで縛りプレイじゃないか?俺、そんなに好きじゃないんだよなぁ……。見てる分にはいいんだけど。


……


俺の前後にあった道の前の道を進むと、わかっていたが丁字路にでた。一応壁に背をつけて左右の確認……ん?なんかいる?


丸く、丸く透き通った体を持ったあいつは、最弱の魔物と言われる[スライム]じゃあないか?あれがリアルスライムか……さわり心地が良さそう。


とりあえずこれでドッキリなのでは?ていう考えは否定されたな……[ゴブリン]とかならまだ着ぐるみとかで、ドッキリかなんかだと疑うことができたが。

スライム、あれを再現するのは無理だろう。すっごい跳ね回ってるし……。というかドッキリだとしてもスケールがデカすぎるか。それに、そんなことをできるような人脈も作ってないしな。

てことは、ガチダンジョン、ガチ異世界っぽいな……。

となると……


「これって、異世界転移ってやつ!?」


テンションが上がってきて、そう叫んだって言うほど大声は出ていないが、少し大きな声でそう言った。

そのせいで、あのスライムが俺の存在に気づいたらしく、俺のいる場所に跳ねながら近づいてくる。

いや、だって異世界転移だよ?そんなことが起きたらテンションが上がるのも仕方ないでしょ!と、誰に向けてか分からない言い訳を心の中で訴え、思考を変える。


あのスライム…倒すか?あ、でも倒し方が分からないな……。RPGとかではHPとかがあるし、異世界もの漫画とかじゃ魔法か剣でぶった斬ることが多いよな、打撃は半減というか喰らわなそう…。今の俺じゃあ、武器がこの拳しかないから打撃のみ……。効くのかな?


こっちに向かってくるスライムを観察してみる。結構弾力性がありそうだな……。これ、無理かもな……。


「おっ、と…」


そんなことを考えていると、スライムが俺に目掛けて、飛びかかってくる。特に、変形して包み込んで窒息死させるみたいなものでは無く、純粋な突進のようなので横に移動しながら身体を逸らし回避する。速度は……結構あるな、よく避けられたなと褒めてあげたいレベルだ。そこから2、3回同じ行動を繰り返した。どうやら攻撃手段は跳ねて突進する以外にないらしい。

避けるのにも慣れてきて、しっかり避けられるようにはなり、ダメージを食らうことはないが……。


「どうやって攻撃したらいいんだ……?」


ダメージは喰らわないが俺の方もダメージを与えられる気がしない。

打撃でも喰らうならぶん殴るけど、そこら辺分からないしとりあえず一発殴ってみるか。


またも突進してくるスライムの攻撃を避け、空中にいる間に横から拳をぶち当てるっ!

拳を当てた瞬間、ぱんっといい音がなり、スライムが壁にぶつかり、壁に張り付いた。


「おぉ…いい感触してるな」


拳からの感触で理解する。ちょうどよく揉みたくなるような弾力、そして中毒性のありそうな心地良さ。星5つだな……。

じゃなくて、一旦後退し距離を空けてスライムの様子を見る。

壁に張り付いていたスライムがズルズルと壁から滑り落ちる。少し平べったくなったが、ダメージを食らった感じがしないな。

少し形が変形しただけだ──あ、戻った。

てことは……


「ノーダメージ、みたいだな……」

「嘘だろぉぉ、おい……」


俺<スライムなのか…?俺はスライムより弱いのか、うごごごごご……。

はぁ…これどうす──あ。


「いや、まだだ!ふはは、勝手に除外していたよ。別に拳で攻撃しなくてもいいじゃあないか。この手の使い方はほかにもある!

小学生男子は1度はやったことがあるだろう攻撃方法があるじゃないか!

打撃が聞かないなら突きだ……。

思い切り突き立てれば行ける!多分!」


と、語尾に多分をつけて保険を掛け、作戦を開始する。

さっきとは異なり、スライムの攻撃避けず、突進して来た時を狙う。

……くる!肩を引き、指を伸ばし、スライムのど真ん中を貫くように思い切り……突き刺す!


「デュクシィィ!」


少し、攻撃性が強まったが、小学生男子の攻撃技[デュクシ]は綺麗に決まりスライムの身体を貫いて……はいなかったが、スライムの身体に俺の手がめり込んでいた。


「あんな叫んだのに、貫通できてないのはなんか恥ずかしいな……」


そう呟きながら、離れないスライムの中を探ってみる。冷たくて少し気持ちがいい。って……なんか、固いものがあるな。これって、スライムの核かなんかなのかな?手の中に納め、思い切り握ると意外と簡単に壊すことができた。その瞬間スライムの身体が支えを失ったかのように溶け消えた。と、同時に俺の足元に小さな紫色の石と小瓶に入った……ジェル?が出現した。ジェルの方は分からないけど、紫色の石は何となくわかる。多分[魔石]だ。あぁ、いや、名称は違うかもしれないけど……多分そういう奴で合っていると思う。ラノベ知識だけど……。というか、死体とか残らないんだな。残ってもどうすればいいかわかんないし困るけどさ。完全にゲームのドロップアイテムって感じで、このジェルっぽいのとか小瓶に入ってるし、どこからガラスとコルクが来たんだろう。とりあえず拾ってポケットの中に入れておいた。


初めての魔物との戦いだったが、評価としてはそこそこいいほうなんじゃないだろうか?

一応反省点として、スライムとはいえ命がかかっていたのに、おふざけ要素が強かったことだな、ほとんど楽しんでいたし。デュクシってなんだよ。恐れて動けなくなるよりかはいいのかもしれないけれど……。

楽観的というか短略的というか、緊張感が足りない気もしなくはないが、まぁこんな世界に来てしまったことだし、楽しんだ者勝ち的なスタンスでやっていこう。

まぁ、もう少し考えた方がいいってことは理解してるけどね?スライム相手にあんなグダグダな戦闘をするのはこれで最後にしたいし、他の魔物ならこんなグダグダしてると死にかねないしな。


あれから道を適当に進み、出会ったのはスライムとスライムとスライム……スライムとしか会わないんだけど?ここにはスライムしかいないのか……?その数もまだ両手で数えられる程度だし。


まだまだ浅い層なのか、ここが簡単なダンジョンなのか、分からないが異世界初心者の俺がノーダメージで来れる時点でかなり簡単なダンジョンなのだろう。

ちなみに一応、出会ったスライムは全部倒しておいた。この異世界にレベルの概念があるなら倒しておいて損はないだろう。


そうだ、俺ってスキルとか異能力とか持っているのだろうか?

特に力が湧き出るーって感じはしないし、そもそもスキルの使い方を知らないのだから持っていても扱えないのだけれど……。

異世界転移ボーナス的なものは無いのか?

そもそもなんでスタートがダンジョンの中なんだ?


「あーやめやめ!んなこと考えてもどうせ答えなんでないんだから考える必要なし!」


今は先に進むことを考えよう。


……


「こっちかぁ……」


俺の目線の先には下へと続く階段があった。

このダンジョンの構造は分からないけど……下は出口に出るほうではないよなぁ?

上への階段を探した方がいいんだろうけど、正直、下の方が気になる。


「まぁ、少しだけなら……ね?」


好奇心は猫をも殺すと言うが、俺は猫じゃないから大丈夫!と、謎理論を展開しながら階段を降りることにした。


階段を降りた先は、上の層とさほど変わらない同じような光景だった。

まぁ、ダンジョンだもんな…と疑問を飲み込み歩を進める。


目立って雰囲気が変わった様子もないし、ってそんな事がわかるような経歴は持っていないけれども、危ないっていう感じはしない。ただ、危機感がないってだけなのかもしれないけれど……。


あれから数十分、接敵数10匹、全部スライムだった。ここもスライムだけなのか?スライムって地味に倒すの面倒なんだよな…。結構思い切り突き刺さないと行けなくて、そろそろ指が痛くなってきた……。と少しテンションが下がったところに──


「うっ、なんだこの匂い……?」


何かが腐ったような匂いと、錆びた匂いが鼻腔を刺激する。……匂いが強いもの苦手なんだよな。

今更だが、雰囲気が重い感じがする。俺なんかでこの気づけるのだから、警戒を強めておこう。……スライムしか出ないからって楽観視しすぎたかな。鳥肌がたってきた…。


[すぅ……ふぅ………っ]


うん、落ち着いてきた。さて状況確認といこうか。今のところの異変は異臭がするってことだな。

この腐った匂いから判断するなら、ゾンビとかのアンデッド系の魔物なのだが……。

匂いは、右側からかな?壁から半身を出し、右の道を確認する。

予想とは違ったが、そこには、ただの死体……か?あの死体は[コボルト]でいいのかな?小柄の四足歩行の狼が1、2……全部で5匹分の死体があった。


「……死体って残らないんじゃなかったか?」


これがゲームならバグやらなんやらと理由があるが、そんなバグなんて、多分ないだろう。

そもそも死体が消えるかどうかも確証はないよな。スライムは消滅したってだけで、他の魔物が消えるとは限らない…か。

でも、嫌な予感しかしないんだよな。セミファイナルみたいに近づいた瞬間動くやつじゃないの?あのコボルトは死んではいるけど……。

とりあえず、危なそうだし近づくのはやめとこう。もし、コボルトの死体がアンデットなら勝てないし、逃げられないだろうからな。


「アンデッド系は対策しないと倒せそうにないな……」


アンデッド系の魔物は恐怖も痛みも感じないから、牽制しても、何しても向かって来るから嫌なんだよなぁ……。力も結構強いし、腐敗してるのに何故か硬いしさ……。

その代わり動きが単調だったり遅かったり凹凸に弱かったり、光属性や火属性の魔法に弱いっていう弱点を持つけど、残念ながら俺はその両方を持っていない。

というか、俺って魔法使えるのか……?魔力?とか感じないし、分からないことが多すぎる……。


外に出ることを優先した方が良かったかもな。この異世界と創作の異世界じゃ、仕組みも違うだろうし。

ま、ここまで来てしまったし、進むしかないんだけど。


もう一度、壁から半身を出して5匹の死体を見る。うん、通りたくないな。とりあえず、引き返すか……。

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現実世界とファンタジー世界が混ざったようなので、この新しい世界を楽しもうと思います。 氷天 @hisora000

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