望み
第4話
「奥さま。このお部屋をお使いください」
「はい」
旦那さまから春と呼ばれていた使用人が案内をしてくれた部屋はすこし殺風景に感じるが、家具や畳は上等な品だ。
「それと、なにかご入用の物がございましたら、お申し付けください」
「はい」
春は少し物足りなそうな顔をして去っていった。
どこの嫁ぎ先でも必要最低限の会話しかしてこなかった。
そうしたら、愛想がないだの、冷たいだの言われて婚約がみるみるうちになくなった。
それ以外でも、私の人格を否定するような発言をしてきた者たちとの婚約は私から破棄してきた。
私は、『女だから』と言われるのが嫌いなのだ。
私は女らしいといえば女らしいのだろう。華道、茶道、琴、裁縫、料理まで良家の娘らしいことは一通りできる。
最初の方の縁談は慎ましい婚約者を演じてきたが、時間が立つうちにどうにも我慢ができなくなってしまった。
この先、ずっと望まれるような娘を演じなければならないのかと考えると哀しさや悔しさに襲われる。
我儘なのは分かっている。お父さまたちをがっかりさせているのも分かっている。
でも、どうしても、耐えきれなくなってしまうのだ。
いっそ、死んでしまおうかと何度も考えた。
死んでしまったほうが楽なのではないか、と。
親からの重圧や周りからの目から逃げてしまおうか、と。
私は、自由に生きたい。
裕福じゃなくても、生活が苦しくても、私は、私の望むように生きたいのだ。
いつか、それができることを信じて、今日を生きると決めた。
でも、それが叶うことは、多分……
生きて花実を咲かせたい あゆうみあやの @amatsukaze_aya
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