第50話

「やあ、ルチル。久しぶり、かな?」


ルチルさんは一瞬かたまり、ぱっと目を大きく見開いた。


「えっ! ええっ!?」


どうやら、猫のヴェリルとこのヴェリルとを同一視したみたいだ。


「ええーーー!」


よろけるルチルさんを店長さんが支える。ヴェリルは近くにあった椅子を持って行ってあげた。


「リビアンから聞いたんじゃないのか?」


「聞いてはいたけど、聞くのと見るのとじゃ、大違いよ~!」


「私があまりにイケメンなんで、驚いてるんだな」


今のヴェリルは大人だけど、子どもの姿のヴェリルとだぶって見えた。年下の男の子にも、威厳がある大人にも見えるなんて、ちょっと羨ましい。それが魔法使いの特権なのかな?


ううん、それはきっと、誰にでもあてはまるんだ。私だって、今は子どもだけど、そのうちに大人になる。その前に、きっと大人っぽくなるんだ。


ユアンは私の耳もとで、コーヒーのような大人の声で言ってきた。


「お茶の用意を、手伝ってくれる? お客様に頼むのは、申し訳ないけれど」


「もちろん。だって、お客様だけど、婚約者でしょ?」


ユアンは柔らかい笑顔で私を見る。


「リゼルのご両親に、了解をもらわなくちゃね」


大丈夫よ。きっと、賛成してくれるわ!


「それとね、僕の年齢だけど……二十二だよ」


「本当!?」


最初はすごく大人ぽく見えたユアンだけど、知れば知るほど、近いような気がしていたのよね。


「ちょっとお兄さんぽく見せたくて……頑張っていたのかも……」


「やっぱり? そんなことしなくていいのに」


それでも、十歳の年齢差は大きいけれどね。


私より少しだけ「お兄さん」という表情で、ユアンが笑う。私は笑い返して、ユアンと二人で歩き出した。






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クチナシは魔法の香り リリアンジュ @liliange

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