一方通行

にゃん

永遠に

「ホトトギスで花束をお願いします」


「かしこまりました」


先月のように、昔の住んでいたアパートの近くの花屋で花束を購入する。


そして、この世で一番嫌いだし、うるさいカジノを右に曲がれば見えてくる。

中に入って、階段を登っていく。


ガチャ


屋上への扉を開けると、どこかあの時の面影があった。


「ねえ、死ぬなよ」


この言葉が一番一方的な言葉だろうと、自嘲しながら呼び止める。

彼女はフェンスを乗り越えながら答えてくれた。


「なんで? あなたには分からないでしょうね」


「分からないよ」


だって、あなた達じゃない。


「じゃ、何?偽善者?」


「人が死ぬなんて見たくないからな。人が、諦めてる所見るのは辛いんだ」


「自分がって。この世の全員そうだ!私も!こんな、世界もういらないんだよ!」


そう、叫ぶ。


ほら、やっぱ通じない。

生きることを望まれるのは誰だって許さない、それが自分でも。

だから、そうやって震えながらも飛ぼうとしているんだろ?


でもね。絶対通じないわけじゃない。

屋上の扉を開けてやれば、思ったとおり。


「紗奈!やめろ!

やめてくれ!お前は何も悪くないから!」


彼氏だろうか。男の声が響く。

よくもあんな音を立てて階段を走ったのに息が切れないなと場違いな感想を抱く。


「何が。わかるの・・・?」


「分かんねぇよ。でも、生きて欲しいいんだ。死なないでほしい」


「なんで。なんでなの!」


そうやって、泣き出す。そこに、走ってよってくる人。


これ以上は邪魔だろう。花束を放り投げて、階段を下る。


ほらな。自分よりも大切な人の言葉は通るんだ?

あなた達は、他人を優先するから、自分が傷つきやすいんだろ?


だから、自分の命の価値を相手に任せるだろ?

だから、あんな賭けをしたんだろ?


ああ。ほんと、しょうもない男だと思う。

初恋でずっとというな、ロンマンチックな恋なわけでもない。

なのに、ずっと忘れない。


俺が間に合うか、間に合わないかに賭けて、この世から消えた彼女が。


彼女の思い出が、毒のように俺の体を回る。

多分、いや絶対。この世でこの毒を解毒できるものはないだろう。


「また、来月」





ーーーーーー

ホトトギスの花言葉・・・永遠にあなたのもの


そう言って、来た道を辿って、新しい家に戻っていく。

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