壊そうが壊すまいが

 貴方が祠を壊したんですかあ。


 兄さんふたりから聞いとります。そんなに怯えんでもええべ。

 ひとは死ぬときゃ死にますけえ。


 はい、見えとります。私が兄弟の中でいっちゃん見えるんじゃあんべえかな。

 だから、兄さんたちが嘘こいたとは思わねえでけえろ。あのひとたちはわかってねえだけだんべ。


 ああ、怒っとりません。

 祠なんて壊そうが壊さなかろうが同つかつことだけえ。あっちかしの祠は飾りです。



 どっから話したらよかんべか。

 ほら、喉が痛え、身体が冷っけえと思ったから風邪だとかんげえるでしょ。夕べに腹出して寝たせいだべと思うでしょお。

 それと同じです。訳が要るからそうしてんです。


 神さんと鬼女の話は誰かがくっちゃべりましたか。そんなら話が早えや。


 二番目の兄さんは神さんが悪いとか何とか言いますけんど、私にはそうは思えねえ。

 ありゃあ地震や雷と同つかつもんだけえ。


 神さんはたまに指さしてこいつが死ぬぞっつって、そん通りにひとが死ぬだけなんです。良いも悪いもねえんです。


 けんど、他のひとはそうは思いませんけえ。

 巫女が祠を建てたから、あれをぼっ壊したから祟られたんだって考えるようになったんです。

 そっちのがわかりやすいべ。


 巫女が化けて出るようになったのも神さんのせいかどうかはわかんねえけど、あの娘には何の力もねえ。

 たまに祠をぼっ壊したひとにくっついて、逃してけえろだ、助けてけえろだ、何だかんだくっちゃべるだけです。壁の穴から冷っけえ隙間風が出てくんようなもんだべ。

 二番目の兄さんはそれにコロッといかれちまったんでしょうなあ。



 はい、あの祠に神さんはおりません。

 こっちかしのそけえら中歩き回っとります。おらがなんかに縛り付けられるようなもんじゃあんべえよ。


 けんど、それがわかっちまったら、一番目の兄さんが可哀想でしょお。あのひとは祀ってもねえ神さんに怯えて暮らしとるけ。そんで、村のひとたちもおっかなくてしょうがなくなっちまうし。


 祠を壊したら死ぬ。ひとが死んだら祠を壊したせい。そう思わせなきゃいけねえんだ。


 へえから、神さんが指さして、ひとが血吐いて死んだら、私が朝っぱらにあっちかしの山まで駈けてって、祠のどっかしらをぼっ壊すんです。


 逆もそうです。誰かしらが祠を蹴っさらったら、私がそのひとをぼっ壊すんです。



 さっき二番目の兄さんが鬼女隠しの祠に行ぐせえつってたんで、急いで追っかけなきゃならねえんです。

 事の次第じゃ、実の兄さんをぼっ壊すことになるけえ、骨の折れる仕事だべ。一番目の兄さんが葬式までに寝込まなきゃええんですが。


 大丈夫ですよお。

 貴方には何もしません。ちょうどいいあんべえでした。そうじゃなきゃ。また仕事が増えるとこだったけえ。


 今、神さんが貴方を指さしとります。私がやるこたあ何もねえ。


 もう終えだってこともねえでしょお。こっちかしの村はずっと終えです。


 始まったことなんかただのひとつもねえけえな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼女隠しの祠の三兄弟 木古おうみ @kipplemaker

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画