三題噺 

あああああ

全部盛り。ハロウィン・ノーベル賞・シチュー(寒暖の差・サンマ・復帰)

 十月も終りが近いというのに、日々の寒暖の差は私の体力を確実に奪っていた。

 ニート生活を脱却して社会復帰を果たすには、どうやら時間が経ちすぎていたのかもしれない。

 アルバイトの面接ですら、電話の時点で何度断られたことか。

 渋谷のハロウィンだの、大物作家がまたノーベル賞を逃しただの。くだらないことで騒げる世間の人間は、よっぽど生活が満たされているのだろう。


 子供の頃は、この時期になると母がいつもかぼちゃのシチューを作ってくれていた。

 今はシチューはおろかサンマ一尾ですら贅沢に感じてしまうくらいの懐事情だ。


 サンマか……。

 今年のサンマは美味しいのかな。


 魔が差したのだろうか。ふと、私は海に行きたいと思ってしまった。

 別に海を眺めたいわけでもない。勿論、泳ぎたいわけでもない。

 海へ行きたくなったのは、産んでくれた母に申し訳が立たない、そんな後ろめたい理由からだった。


 急に涙が溢れてきた。

 こんなこと、考えるつもりなどなかったのに。

 自分が情けなくて仕方がない。


 しかし、私の足は確実に海へ向かっていた。

 なけなしの千円札を一枚、たった一枚握り締めて。


 数十分ほどで海に着いた。

 もうこれで終わりなのかもしれない。

 私はそっと、海のよく見える椅子に座り込む。


 握り締めていた千円札は、少しだけ手汗を含んでいたのだろうか、貸玉機をうまく通らなかった。

 数回ほど試して、やっとのことで千円札が回収されると、皿に銀色の球がじゃらじゃらと落ちる。


『六番台のお客様! 本日七回目の大当たりです! おめでとうございます!』


 若い女性のアナウンスが聞こえる。

 嗚呼、海は私を裏切らない。

 今日はサンマを買って帰るとしよう。

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三題噺  あああああ @agoa5aaaaa

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