第5話 アオ

ブオーー。船が音を鳴らして進んでいる。ブオーー。僕はそれを波止場で眺めている。ブオーー。ブオーー。日に燦々と照らされているのだけど海からの湿った空気に包まれてちょうどいい暑さだ。ブオーー。波打ち際は浜辺で見ると押して引いてと見えるけど、波止場でにると、うねうね揺れる海の表面に目がいく。あまり見すぎると目が痛くなりそうだけど。いつまでも規則化できない海のうねうねを見ている間はものすごく一体感を感じるのでなかなか辞められない。見れば見るほど色々な動きがあって、海そのものがラスボスのアクションゲームがあったら、その攻略はなかなかに難しいだろうと思う。

海を眺めていたら友達ができた。

アオさんだ。アオさんは海の家を経営しているらしい。

「アオさんおはようございます」

「おはよー。さっきからずっと海を見てるね」

「はい海を見ていると友達いるとかいないとかそういうの考えてる暇ないんです」

「あはは。わたしもよく海を眺めるなあ。お店閉めた後とかに『今日も終わったー』みたいに」

「海にはいろんな思い出が溶けていくんでしょうね。なんでだろう」

「んー。思い込みだと思うよ。でもわかるなあ」

アオさんは近くに泊まって入り漁師さんに話しかけてバケツいっぱいに魚をもらっていた。

「その魚どうするんですか?」

「これはね、みんな揚げてアジフライにして売るんだよ。おいしいよ」

「アジフライですか。おいしいだろうなあ」

「どうぶつの森だと一番安いけどね。安くて美味しいって最高じゃない?」

「安いとか高いとかいまだによくわかんないんですよね。アジが美味しくてよかったです」

「よかったらこのバケツ一緒に運んでくれない?海の家まで」

「いいですよ」

僕たちは海の家までバケツを運んだ。500mくらいは運んだと思う。その間はずーと海岸線をあるいた。

「この海岸線をずーーーーっと歩くと、この大陸を一周できるんですよね。この線はどこまでも伸びてるんだ!」

「そうだね。海岸線が線なのかは微妙だけど」

「いいなあ単純でした。海辺だとなんでもシンプルに考えられます」

「あはは。よしついた。ありがとうね」

海の家は吹き抜けで、たくさん風除けがおいてあるのだけど、砂がたくさん床にざらついていた。

「僕、海に体当たりしてきます」

僕は海に体当たりしにいった。砂に足を取られて思うようなスピードはでなかったけど足がズモズモと沈んでいく感覚とどんどん水に呑まれていく感覚は最高だった。

アオさんにはもう会えないと思う。海は広いなあ。

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