第6話 臭いセリフと少年漫画は表裏一体
あの後。
俺たちは目を覚ますともう辺りは暗くなっていた。一様、シスターアリスと一緒に何か盗まれていないか探したが、何も盗まれてはいなかった。いやはや、安心安心。
その後、役目を終えたシスターアリスは祭りを楽しむんだと夜の屋台に駆け出していった。はしゃぎまわる姿は相も変わらず美しかった。恋愛感情はまったくないが。
一方俺はクリスに一つ伝えなくてはならないことがあったため、王宮へと足を進めた。
「……廻さん!どうしたの急にっ!!??」
「あーオットか。お疲れ。クリスいるか?」
王宮に入るとすぐ、黄昏ているオットを発見した。オットは俺を見つけると、ウサギのごとく駆け足で近づく。
「クリス?ちょっと待ってて。今呼んでくるから!」
「ああ。頼む」
オットは走っていった。
オットは足を止めた…
「どうした?」
「……廻さんは、帰りたいって思ったことある?」
『帰りたい』とは元の世界へということだろう。なかなかタイムリーな話題だ。
「あるよ」
「……そっか」
「…ただ、今はそう思ってない」
「え?」
「だって、俺は勇者なんだろ?」
なんとなく、臭いセリフをいってしまった。ノアの前だったら大声で笑われていたところだろう。
「あはははははははっっっ!!!!」
嫌な、いや、下品な笑い声がしたので振り返りたくなかったが振り返ると案の上ノアがいた。なんだよこいつ。この2章は完全に地の文だけの登場でヒロイン(違うだろ)ポジションシをシスターアリスに譲ったとおもったら最終話にちゃっかり出てきやがった。
「廻とオットがいて近づいたらwwまさか廻があんな臭臭の少年漫画主人公みたいなキラキラセリフ言ってるとかwwおもしろすぎっ!!」
「おまえ、本当にクズだな」
「あんたにいわれたくないわよ」
そして俺とノアの醜い口論が始まった…!!
それを見ていたオットは心なしか毒が抜けたような顔をしていた。気がした。
「廻が珍しく自分で王宮にきたと思ったらなに?ノアと口論しにわざわざ来たの?」
「俺があたかもあいつとの口論を楽しんでるような言い方はやめろ。あれはクズの威信をかけた真剣勝負なんだ」
口論の騒ぎを聞き付けたクリスが自分から参上した。俺は例の伝えなくてはならないことを忘れないうちに言おうと思った。
「で、何の用?」
「あ~…あの、異世界に繋がる鏡なんだけど…」
「あ、あれね」
「やっぱりいらないや」
クリスは驚いた顔をする。俺も一度ねだったものを取り消してタダ働きなんて経験がないからどんな顔をしたらいいのか、若干気まずい。
「本当にいいの?」
「ああ。お節介な誰かさんのお陰で、未練がなくなった」
そう、もう未練はない。
あの時の俺も、今の俺も、結局は繋がってて、切ることなんて出来ないから。だからこそ、あの時の俺を生ききって、次は今の俺を生ききる番だ、そう思ったから。
――また、臭いことを考えてしまった。まあ、口に出してないだけいいだろう。
ことなかれ勇者 墓守 @ro1014
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