第5話 夢ってなんか響き可愛いよね。ファンシーだし。えんぴつも字面的には可愛いよね。

『ねえ、巡廻。この光景を見て、元の世界に帰りたいとは思いませんか?』

 女神は相も変わらず俺に話を降ってくる。やめろ、その陽キャ女子みたいな話のかけ方。こっちには耐性がないんだぞ。すぐに勘違いしちゃうんだぞ。

「別に。この仏壇見るに俺はもう死んでるんだろ。だからこそ今あの世界にいるわけだし」

『何かあなたさまの人生があまりに不憫に思えてしまいまして。わたくし、力を貸したい気分になりました』

 女神ははじめと同じスマイルで俺に提案をする。

『あなたさまが今わたくしに願えば、時空も選択も超えてあなたさまに「病気のない幸せな人生」を差し上げてあげましょう』

 …………

『あら、なぜ願わないのですか?あなたさまにとっても悪くないお話だと思うのですけれど……』

「……さすが、運命と祈願の女神サマだな」

 もし、もしも、俺が病気で苦しみ死なない世界なら。

 学校には友だちがたくさんいたかもしれない。

 痛い治療をしなかったかもしれない。

 病室で一人寂しく過ごさなかったかもしれない。

 両親が俺を心配させまいと俺に気をつかうこともなかったかもしれない。

「それでも、あの頃の俺があるから今の俺があるんだろ?」

『……あなたさまは家族に会いたいのではないのですか?』

「そりゃ会いたいけど、それはこの異世界で死んでからのお楽しみだな」

『わたくしは人間ではないので、あなたさまの思考がよく分かりません。まあ、あなたさまが願わないのなら別にかまいません』

 お節介な女神はやっとあきらめたようだ。まったく。本当に余計なお世話だ。

 …………

「ありがとな。これ、見せてくれて」

『…また、お会いしましょう』

 女神ステラはそう言って消えていった。

 泣いている両親の姿も消えていく。

 これが現実かはよく分からないけど、一つ、言いたい気分になった。

 

「父さん母さん、ありがとう。二人の子で俺、幸せだった」


 消えていく二人が微かに微笑んだ気がした。気のせいかもしれないが…

 俺の視界も霞んでいく。


 さあ、夢から覚める時間だ。

 

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