バイト7日目:ふぁんぐおにいさん
今日でバイト七日目、一週間が過ぎた。
サラリーマンさんはあれからもう一回来店、武装の使用法と軽い戦闘までレクチャーが終わった。
しかし一番変わったのはそこではない。ではどこか。
「つぎおれ!」
「まってよ!ぼくのばんだよ!」
明らかに子供が増えたことだ。今は4人居る。
2日目に来た子の知り合いらしい。6,7歳と言った所なので弟分らへんだろう。
おっさんに聞いても、
「全員で来てもいつもなら飽きてすぐ帰っちまうよ。」
とのこと。
「ほれほれ、順番だぞ。何だったら2人でやるか?」
「いや!おにいさんとがいい!」
「ジョーくんは剣があたらないんだもん!」
「じゃあ先にジョー君の方から。フィー君はそこの画面で見てな、スナイパーへのブレードの当て方が分かるかもね。」
子供たちがシュミレータに乗るときは衝撃と負荷の再現機能を切っている。オンのままだと体に悪影響だしな。
「パイロットファング、メサイア『ムサシ』発進。」
「パイロットジョー!メサイア『ロビン』!発進!」
ムサシはフィー君の機体。右手は王国製実体ブレード、左手は公国製レーザーブレード。本体も共和国ベースに帝国パーツがあったりと5,6股している構成だが雰囲気が何となくまとまっている。良いセンスだ。
肩武装はないが追加ブースターを搭載しているため普通の機体より突進力が高い。ブーストで超高速接近、二刀で切り裂く。そんな機体。
対してジョー君の機体、ロビンは射撃機体だ。両腕にアサルトライフル、右肩はミサイル、左肩はキャノン。弾幕張って待ち構える機体なので突進機との相性は考えるまでもない。
「弾幕は躱せないから建物に隠れる、ロックオンから外れたら後ろまで位置を調整して突っ込む。」
「うしろっ!」
振り向いた分だけ弾の発射が遅れる。その隙に接近。
警告音、キャノンだな。
「横に跳ぶ。」
サブブースター点火、右に高速移動。右肩追加ブースターだけを起動し、回転運動と共に右のブレードで切りつける。
『YOU WIN』
「わかったか?隠れられるところがあるなら隠れようって事。」
「わかった!わかったから早く!」
「はいはい。」
機体を射撃機体に変更。といってもブースター等でガンガン攻めていく機体なのでジョー君のロビンとはかなり違う。
右手 マシンガン
左手 ライフル
左肩 追加レーダー
右肩 グレネードキャノン『クラッカー』
本体は下半身の剛性をかなり高めてキックしても壊れないようにしている。
マシンガン、ライフルは共和国製。ライフルは一般的な片手で持てるサイズ。
そして右肩のストロンチウム製グレネードキャノンのクラッカー。爆発物が有名な民間企業で花火にも例えられる真っ赤な爆炎が特徴の製品の中、発射までのラグが少なく弾の初速が速いのがクラッカーだ。その代わり炸薬の量は少ない。
「メサイア『サプライズボックス』発進。」
「パイロットフィー!メサイア『ムサシ』発進っ!」
早速横移動でビル陰に隠れた。教えた手前左肩のレーダーで場所わかりま~すってな感じで勝ちたくはない。
右手のマシンガンを左肩に向けて発射、追加レーダーを破壊する。頭部にもレーダーはついているが壁をすり抜けて見れるほどじゃない。これでフェアだ。
「レーザーブレードきどう。」
レーザーブレードの起動音、そしてブースター音からして敵機は左後方。
前方に跳躍しブースター出力を上げる。斜め上に移動しつつ様子をうかがう。
ブースター音がしっぱなし……突っ込んできたな。ブースター出力を少し落とし敵機との距離を縮めていく。
ブースター音が高くなった。ここで一気に追いつくつもりだろう。
俺はブースターをオフにしその場で自由落下。速度を出して突っ込んできたフィー君は機体の勢いを止められない。
フィー君の選択肢は後ろに加速して俺を追いかけるか距離を離すか。
クラッカーを起動し、発射タイミングをうかがう。理想としては後ろに移動してきたところにぶち当てる事なんだがその他でも追いかけて当てればいい。
「はい、ドーン。」
案の定真後ろに飛んできたのでそのまま撃って戦闘終了。
まあブレード機体なら離れたくないよね~
「お前らはいいの?」
シュミレータから出て、四人の子供たちの内の残り二人に声をかける。確かパースとカルだったか。
「僕たちはまだ機体ができていないんです。」
カルがそう答え、パースがコクコクと頷く。
「何を使えばいいのか分からなくて……」
またしてもカルがそう言い、パースが頷く。
「何がピンとこないんだ?」
「どの武装もしっくりこなくて、かっこいいと思ったやつも使ってみると、その。」
本人の適性が分からないんじゃアドバイスのしようもない。
「パースはどんな感じ?」
「……これに、あうものが、わからなくて。」
近くのカタログを指さしてそう言うパース君。
え~と、トールハンマーのTH0816:WRATH……あれか!
「胸部と一体成型のでっかい奴?」
頷くパース君。
このラースという武装はメサイア本体でもある。コックピットのあるメサイアの胸部パーツと完全一体型となっており、他企業の製品が霞むどころかそのまま消え失せるレベルの絶大な威力を誇るものの肩武装は乗らず撃つ時の反動やら後の排熱やらで賛否が3:7ぐらいに分かれている。あと軍でなかなか採用までいかないと聞いた。防衛作戦の時に瓦礫の山脈作ってどうすんだって話だし。
トールハンマーはメサイア本体から武装まで手広くやっている、ハイリスクハイリターンなパーツを作る企業。パーツの名前が信仰だったり審判だったり仰々しいものになっているのが特徴。
「これはねぇ~。」
参った、ここまで癖が強いとなかなかアドバイスしづらい。
「とりあえずガーデンのドライフラワーなんかどうよ。」
ガーデン、何か一芸を持った武装を生産する企業。命名法則は花など自然に関係するもの。ドライフラワーは着弾地点を凍らせる武装だ。ドライフラワー以外に凍らせるような行動阻害は無いが弾速が遅いのが気になるところ。
「それ以外はちょっと探さないと分からない。ごめんな。」
首を横に振るパース君。「大丈夫」と言いたいんだろうか。
「カルはメサイアに乗ってどんな動きをしたいかから考えよう。」
人型兵器パイロットの俺、入隊後3日で失職。 レモンの幹 @333955515
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