バイト4日目:宣伝

 3日目はほぼ丸一日編集と追加の素材撮影をしていた。睡眠時間は消え失せたが何とか宣伝用動画が完成。

 2日目の成果としてこの道は人通りが多い方、子供と大人の割合は4:6ぐらいということが分かった。足を止める人もそれなりにいるだろう。

 完成した動画を窓からすぐの所に置いたディスプレイに動画を映せば完成。


「CMは出せないけどこれぐらいならね。」


 さ、花に水をやろう。


 ☆☆☆


 時刻はただいま7時半。

 定時はとっくに過ぎているが家に帰ってもどうせ寝るだけなので店に居ると、


「あのぉ~……」


 ドアが開き、スーツ姿の男性が入ってきた。

 恐らく仕事帰りだろう。


「いらっしゃいませ。何か御用ですか?」


「シュミレータがあると聞いたのですが……」


「はい、ありますよ。ご利用ですか?」


「はいっ!」


 びっくりした。さっきまで真っ黒だったのに急に目に光が宿った。


「それではご案内いたします。」


 そうはいっても大した広さじゃないのですぐ着くんだが。


「こちらがシュミレータになります。メサイアやシュミレータへの搭乗経験はございますか?」


「いえ、ないです。」


「かしこまりました。操作説明などはご必要ですか?」


「お願いします。」


「かしこまりました。では、そちらにどうぞ。私がオペレーターとして参加させていただきますね。」


 隣のもう一つのシュミレータに乗り込み、オペレーターモードにする。


「まずは歩行からですね。頭の中のマネキンを歩かせるイメージです。」


 ……右……左。少し正確に歩かせようとしすぎているな。


「そこまで慎重にならなくても大丈夫ですよ。姿勢制御は実際のメサイアも自動で行われるので、もっと大雑把でも歩く分には転ばないです。」


 右、左、右、左。


「そうです!ちょっと歩いてみましょう。」


 テンポよく足が交互に出され、どんどん前に進む。

 懐かしいなぁ。入学してすぐの頃は調子乗って走って転んだっけ。


「ちょっと止まりましょうか、速度が出すぎていたので。」


 パネルを操作、サラリーマンさんの方に動画資料を出す。


「あれより早く歩いたり走ったりすると止まれなかったり前に倒れる危険性があるんです。こんな風に。」


 資料は俺がぶっ倒れて作った。著作権は大丈夫。


「なるほど。」


「これより速い移動はブースターを利用しましょう。左のレバーを少しだけ前に倒してください。」


 ブースター点火、遅いが前に移動している。

 操縦桿は左がメインブースター・ブースター出力、右がサブブースターになっていることが多い。そしてそれぞれに腕と肩の武装起動スイッチがあるといった感じ。

 跳ねたり腕振ったりはすべて脳内で操作する。腕が四本あるイメージ。


「大丈夫ですね、ではサブブースターを使ってみましょう。右のレバーを左右どちらでもいいので倒してみてください。」


 左に倒したようだ。反時計回りにぐるぐる回って居る。


「はい、止まりましょう。慣れないうちは酔ってしまうので少しずつですね。」

「あともう一つ。一気に右のレバーを限界まで横に倒してみましょう。」


 左に吹っ飛ぶ機体。これがメサイアの高速機動の要。ブレードに勢いをつけたり普通に回避したりと様々なところでこれを使う。


「うぉあっ」


「これが高速戦闘に必須になります。負荷は相応ですが連続でもできますよ。」


「はい……」


「休憩にしましょう。一度シュミレータから降りてください。」


 外に出ると少し疲れた様子のサラリーマンさん。

 最後の奴は結構きついからな~。


「お疲れさまでした。次は武装の使用方法ですが……続けますか?」


「きょ、今日はやめておきます……」


「かしこまりました。こちら、お水です。」


 ベンチに誘導、その前のテーブルにコップの水を出す。


「いかがでしたか?かなり駆け足になってしまったのですが……」


「全然大丈夫です。夢だったメサイアに乗れて嬉しかったです。」


 この辺でシュミレータなんて軍施設を除けばここにしかないだろうしな。ここは置いたのも最近らしいし、イベントで乗れるのも子供だけだし無理もない。


「自分はパイロット養成学校に落ちたんですよね。試験当日に焦っちゃって。」


 俺が卒業した養成学校はスカウトと試験を受けて入る二通りの方法で入学できる。

 俺は9歳の時のイベントで対戦相手をばっさばっさと薙ぎ倒しまくったらそのままスカウトされた。俺のが先だったがカリバーもスカウト組。

 試験はまず難易度が高く、倍率はべらぼうに高い。大多数はこっち。

 スカウト組はそこそこの技術を持ってないと試験組から結構妬まれる。俺は学科が弱かったからそこで馬鹿にされてきた。そんな奴らは全員コックピットぶち抜いてさしあげた。


「普通の学校に行ったんですけどネメシスに関わりたいと思って今の会社に入ったんです。ただやっぱり諦めきれなくて、パーツの設計や調整をするたび自分が乗れないことが悲しくて……」


 この人パーツの設計とかやるとこにいるんだ。どの企業だ?


「よろしければまた来てくださいね。基本的に私が毎日居ますから、レクチャーいたします。」


「はい、ありがとうございます!」


 店先までサラリーマンさんを見送る。


「おう、さっそく1人目だな。」


「宣伝は効果ありかも。使っていいのか今までは分からなかっただろうしね。」


「その調子で頼むぜ。それとよ、」


「?」


「お前、やっぱパイロットに戻りたいのか?」


「戻れるならね。さっきみたいなことをずっとするのも楽しいだろうけど。」


「そうだよな。なら、MBBのパーツでお前用のを作ってみるかな。」


「え?相当先だよ多分。」


「まあ元々趣味みてぇなもんだ。作んのは後になるかもしれねぇが、考えるのは早くてもいいだろ?」


「そう。ありがとう。」











「知り合いのおっさんのデレってちょっとキツイものがあるね。」


「それは余計だろうが!」

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